『多田恋』『高木さん』……2000年代J-POP名曲カバーはアニソンの新たな定番に?

 そして、この流れで代表的な作品として挙げられるのは、やはり『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のエンディングテーマ「secret base ~君がくれたもの~」だろう。estlabo(とく、古川本舗、ハチ、wowaka)がZONEの原曲にエレクトロ要素などを加え、より憂いを含んだ楽曲にアレンジ。本間芽衣子(CV:茅野愛衣)、安城鳴子(CV:戸松遥)、鶴見知利子(CV:早見沙織)が歌唱し、物語の悲しさや暗さ、最後に待つ別れまで、様々なシーンを彩った。リリースは2011年で、2010年代のアニソンシーンに序盤から一石を投じた楽曲といっていい。

 もちろん、平成世代のヒット曲という意味では、「LOVEマシーン」(モーニング娘。)や「アジアの純真」(PUFFY)をカバーした『世紀末オカルト学院』も欠かせないが、2000年代のアニメソングに限定すると、『あの花』が与えた影響の大きさを実感することができる。

 とくに1990年代前半に生まれた世代が20代後半を迎える2015年以降後半は、これらのアプローチがより効果的に刺さるタイミングといってもいい。自身の学生時代を彩った楽曲の女性声優によるカバーを聴くことで、蓋をしていた昔の思い出や甘酸っぱい体験がフラッシュバックし、より作品に感情移入することができるからだ。

 この手法はアニソンシーンにおいて、すでに定着したアプローチのひとつともいえるが、今回の「ラブソング」の反響をみるに、まだまだ効果はあるといったところか。もちろん時代に合わせて参照点となる楽曲は移り変わり増えていくので、その度に絶妙な選曲やアレンジに唸らされ続けるのだろう。「次にカバーされるのはどの曲だろう?」といった視点でアニメを見るのも、また趣のある楽しみ方のひとつなのかもしれない。

(文=中村拓海)

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