多様化する音楽オーディションの新潮流は? SNS時代の新機軸プロジェクト『Feat.』から考察

音楽オーディションの潮流を読む

 「ヒットが生まれにくい」と言われて久しい日本の音楽シーン。

 さまざまな音楽コンテンツやエンタメニュースが飛び交う今、レコード会社各社は、新たなヒット作品を作る次世代アーティストを見つける「オーディション」に注目している。

 現在、国内では歴史あるレーベルから、音楽サービスさらにはプロモーターまで多岐に渡る企業が、新人発掘とアーティスト支援を軸としたオーディション企画を多数展開している。その座組や選出方法も時代の変化に伴い多様化してきた。かつてのように狭義のインディーシーンから新人を見つけることだけに留まっていた時代はもはや過去のもの。現代オーディションの役割は、音楽性に加えて、独自性、表現力、カリスマ性を兼ね備えた若手アーティストの発掘から新たなメインストリームに直結するトレンドを創成することへと変革期を迎えている。

 昨今の取り組み例を挙げてみれば、形式や視点の広さに驚く。コロムビアレコードは、NTTドコモとレコチョク、タワーレコードが展開するアーティスト支援プロジェクト「Eggs」と共同でレコード契約と全国流通を前提とした25歳以下の新人発掘を開始。きゃりーぱみゅぱみゅや中田ヤスタカが所属するアソビシステムは、音楽だけでなくDJ、ダンサー、パフォーマーまで広域なアーティストを対象にしたオーディションを全国規模で敢行。LINEはLINE MUSICとLINE LIVE、LINE RECORDSを活用したLINEユーザーからのタレント発掘を実現し、青森県の高校生バンド「No title」のデビューを手掛ける。

 そんな中、今年に入りソニーミュージックは、アーティストのファンを軸にSNSの熱量や支持率、トレンドから新人発掘する、SNS時代の新しいオーディション『Feat.ソニーミュージックオーディション』を開始した。

 ソニーミュージックの『Feat.』の独自性はその審査基準にある。ファイナリストとして残ったアーティストやバンドは、TwitterやInstagram、YouTube、Yahoo!などSNSプラットフォームにおけるファンやリスナーからの人気の数値化によって競い合い、ソニーミュージック独自の音楽アルゴリズムを元に作られたランキング上で優勝を目指す。上位入賞するために必要なSNSでのトレンド作りに向けて、ソニーミュージックはファイナリストたちにワークショップやスタッフ、インフラ、予算を提供して、約半年かけてアーティストの音楽トレンド作りを共創する。アーティストのファンとなる潜在的リスナーの開拓からコアファン育成のためのマーケティング手法はレコード会社の強みの一つである。こうした企業ノウハウをデビュー前のアーティストたちと共有する試みは、レコード会社として類を見ない。

 また『Feat.』ではファイナリストたちの審査の模様を、週1回の動画コンテンツとしてGYAO!でネット配信する。MCにはお笑いコンビ「馬鹿よ貴方は」の平井“ファラオ” 光、ファッションモデルのみちょぱ(池田美優)を迎え7月より番組化させ、アーティストたちのSNSでの露出を後押ししていく。アーティスト自らの情報発信だけでなく、ソニーミュージックの”オーディション番組”からアーティストをより良く知る機会を作り、彼らを支えてくれるファンベースを強めようとするオーディションの打ち出し方も新しい。

 SNSの影響力は作れるじゃないか? そう反論する方もいるはずだ。しかし現代の音楽シーンの基準を見れば、もはやSNSはリリース情報を投下するだけの場所ではないことは明白だ。SNS上での影響力は現代アーティストのアイデンティティにも通じる部分があり、時には発言や投稿がファンに絶大な感動を与え、新たな音楽のトレンドを生む可能性を秘めていることが現在の主流となっている事実を無視することはできない。

 さらに言えば、その影響力を発揮できるアーティストこそが現代のカリスマ的存在としてSNSでコアファンを集め、音楽のジャンルやエンタメの種類を問わず多数の人々にまでリーチできる。そして情報発信力が強いコアファンは、短期的なキャンペーンでも中長期的な創作活動でも、SNSでもリアルの世界でもアーティストの支えになる。この時代性に向き合い、音楽シーンにおけるSNSの価値を再評価したのが今回のソニーミュージックの『Feat.』最大の先見性だと言える。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる