Plastic Treeが考える、オリジナリティの核「音に対するバランス感覚が“らしさ”を生み出している」

Plastic Treeが考えるバンドの核

ここから先は未知なる世界へ一歩足を踏み出していく(有村)

ーーそうした思いがある中、『サイレントノイズ』、『念力』そして『雨中遊泳』と3枚のシングルをリリースしたことで、アルバムのイメージが見えてきたところはありますか?

佐藤:それはありますね。この3曲ありきというか、アルバムを作るときに「他にどんな曲があったらいいだろう?」とか。この3曲を軸に、パズルのピースを埋めていく感じで作っていきましたね。ただ、具体的なコンセプトやテーマ、キーワードというのは特になくて。もちろん、昨年は20周年ということで、過去の自分たちを振り返る機会も多かったので、そういう中で今の自分たちの立ち位置を確認しつつ、そこからの新しい自分たちを、ちゃんと提示できる内容になればいいなとは思いましたね。

ーーちなみにアルバムタイトルは、どのようにして思いついたのですか?

有村:レコーディングしていくうちに、「ジャケットをどうしよう」とか「アー写をどこで撮ろう?」とかそういう話になっていったとき、僕の中で「ドア」というワードが浮かんできて。打ち合わせの時にも「ドアをモチーフにしたビジュアルにしたい」という話はしたんですよね。そこに意味があるのかどうかは、自分でもよく分からなくて、そこから色々考えてみたんですけど、おそらく昨年がメジャーデビュー20周年ということで、トリビュートや初のイベント、過去のアルバムの再現とか、以前の自分たちや自分たちの楽曲に、向き合う機会がとても増えたんですね。

ーーええ。

有村:それがひと段落した時に、過去と決別するというか。過去に続くドアを閉めるようなイメージが、頭の中に浮かんだんです。そして、ここから先は未来へと続くドアを開けて、未知なる世界へ一歩足を踏み出していくのかなと思って。

ーー過去に続く「ドア」と、未来へ向かう「ドア」、二つの意味があったわけですね。

有村:そう、それで「ドア」の付くタイトルにしようと思って、ずっと「ドアドアドア……」ってノートに書いていたら、だんだんそれが「アドア」にも見えてきて(笑)。そういえば「adore」(崇める、憧れる、敬愛する)という言葉も、僕はすごく好きだったことを思い出し、それで「doorAdore」にしたんです。こうやって、後から振り返ると意味付けできるんですけど、実際は思いつきなのかも知れないし、デザインが気に入ったのかも知れない。今の自分たちを表しているようで、単なる記号のようでもある。なので買ってくれた人には、「何となく描いたドローイング」みたいな感じで捉えてもらえば良かったりします。

ーーちなみにジャケットの写真はどこで撮影したものですか? ちょっとシュルレアリスムっぽい雰囲気もありますね。

有村:ああ、そうですね。場所は静岡の中田島砂丘です。シングル『サイレントノイズ』『念力』『雨中遊泳』に引き続き、写真家の宮澤正明さんが撮ってくれました。宮澤正明さんの写真集を見た時に、すごく好きなテイストだったんですよね。そこに中田島砂丘の写真もあって。昔、僕らここで撮ったことがあるんですけど、今はかなり景色が変わってきていて。いつかまた、バンドで撮ってみたい場所だったので、その願いが叶ったのも嬉しかったです。今、中田島砂丘は色々な問題があって、以前の景観が失われつつあるようですね。変わっていく景色を写真に収めておくことができたのも良かったです。

ーーところでPlastic Treeは、メンバー全員が曲を書けるというのも強みの一つだと思うのですが、どんな形で持ち寄っているんですか?

有村:曲によってまちまちですね。デモの段階で各パートの細かいフレーズまで、ガッチリ決め込んでくるデモもあれば、ほとんど弾き語りのようなデモもある。そういう場合はセッションしながら、みんなで探っていくような感じでアレンジを構築していきますね。まずは、それぞれ持ち寄ったデモを一旦全て並べて全員で聴いて、アイデアが浮かんだ人はどんどん言っていくというやり方を、ここ最近はしています。

佐藤:その後、プリプロしながらさらにアレンジを詰め、そのデータをアキラが自宅に持ち帰ってギターを重ねたり、あるいは4人全員でリハスタに入って、実際に音を出しながら決めていったり。共作する際の組み合わせも、みんなでデモを聞いているときに何か思いついたもの同士で自然に決まっていく感じです。

ーーとにかく自由なやり方なのですね。

有村:そう。曲によって本当にまちまちなんですよ。今回も、プリプロ中に「俺、この曲の歌詞のイメージ浮かんだから、勝手にもう書いちゃった」みたいな人もいたし(笑)、本チャンのレコーディングが佳境に入った頃にはじめて「この曲の歌詞、誰が書くんだ?」みたいになり(笑)、「じゃあ、僕が書きます」なんてやり取りもあった。結構、その辺もレコーディングと同時進行で行っていた感じですね。

ーー「アルバムの中に、メンバー全員の曲を必ず入れる」みたいなルールはありますか?

有村:あ、それは暗黙のルールになっていますね。ここ近年のアルバムは、みんなの要素が混じり合っているのが面白くて。それがプラトゥリの力にもなっていますし、バンドとしても健全な形というか。

Plastic Tree/Album「doorAdore」【全曲試聴Trailer】

ーーナカヤマさんと佐藤さんの共作「サーチ アンド デストロイ」は、かなりポストロックっぽいアレンジですよね。ギターの絡みが幾何学的で、ドラムパターンも変則的です。

佐藤:基本、自分が曲を作るときはドラムパターンから作るんですけど、最終的に歌を乗せるにせよ、まずはインストっぽい作り方を試みました。日本人だとtoeとか好きで、この曲には彼らからの影響が、かなり入っていると思います。基本的に、僕以外のメンバーが作らなそうな楽曲を入れるのが役目なのかな、と(笑)。

ーーそういう意味では有村さんが作曲した「いろつき」という曲も、歌が入ってくるまでPlastic Treeとは分からないような、ちょっとソウルっぽいギターアプローチですよね?

ナカヤマ:そうですね。ここまでくると、「聞いて楽しければそれで良い」というふうになってきていて。Plastic Treeらしいかどうかは、もはや関係ないというか。もちろん「この4人のパワーがあってこそ」みたいな、Plastic Treeらしい曲も大切にしつつですけど。

長谷川:今はとにかく、全員で曲を完成させることが楽しいんですよね。それをライブでやるとなった時になって初めて「どうやってこれ、再現するんだ?」ってなるんですけど(笑)。

ーーナカヤマさんが作詞作曲の2曲「エクジスタンシアリスム」と「scenario」は、どちらもリズムやギターリフが超絶&プログレッシブで、メロディも非常に難解。これは、どんなモードで作ったもの?

ナカヤマ:聴いてくれたキッズたちに「ロックバンドの演奏って楽しいな」と思ってもらいたいというのがあって。単純に「かっこいい!」って反応してしまうような曲を作りたかったんですよね。最近は、作り込みすぎていて、それをそのまま流した方がカッコいいんじゃないの?みたいな曲が多い中、本当に4人だけでものすごいことをやってみたくなったというか。

ーーそれは、何かきっかけがあったのですか?

ナカヤマ:『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017』です。楽屋がメインステージの裏にあったので、いろんな人たちの演奏を観ることができたんです。もちろん、バンド編成じゃない方たちのパフォーマンスも、それはそれで素晴らしかったんですけど、やっぱり自分自身がバンドマンなので、バンド編成でかっこいいことやっている人たちを観た時に、改めてバンドの良さを痛感したんですよね。

ーーなるほど。

ナカヤマ:こういうところで映える曲というか。イントロが鳴った瞬間、お客さんが諸手を挙げて歓声を上げたくなるような、そんな曲が書きたいと思ったんです。「scenario」なんかは、もう完全にライブ仕様ということだけを考えた曲(笑)。俺たちがこれをどんな風に演奏して、お客さんがどんな風にノッてくれるのか、想像するだけでワクワクしてきます。

ーーそれにしても、全くタイプの違う曲が並んでいるのに決して散漫にはならず、Plastic Treeらしさに貫かれたアルバムに仕上がっているのが本当にすごいですよね。

有村:そう思ってもらえると嬉しいですね。自分たちで聴いてても、「バラッバラだな」って思うくらいですから(笑)。それは毎回そうだし、そこがPlastic Treeのオリジナリティなのかもしれないですね。あとは、メンバーそれぞれの音に対するバランス感覚が、Plastic Treeらしさを生み出しているのかなと。それぞれルーツとなる音楽が違っても、曲作りで大事にしているところが同じだったり。いずれにせよ、聴いた人に「どの曲を聴いてもPlastic Treeらしい」って思ってもらえるのは本当に嬉しいですね。それがあるからこそ、ここまでずっとやって来られたわけですから。

ーーデビュー21年目の今年、このアルバムが完成したことで、Plastic Treeはどこへ向かっていくのでしょうか。

有村:ここにきて、こうやってまたいいアルバムが作れたことが嬉しくて、今はそのピークにいるのでなかなか先のことまで考えられないんですが(笑)、今作は結構ライブ映えしそうな曲が多いので、ツアーがいつもにも増して楽しみなんですよね。そして、それが終わったときに、自分たちが行くべき景色も、自ずと見えてくるのかなと思っています。

(取材・文=黒田隆憲)

■リリース情報
『doorAdore』
発売:2018年3月7日(水)
【通常盤】¥3,000(税抜)
<CD収録曲>
1.遠国
2.恋は灰色
3.エクジスタンシアリスム
4.雨中遊泳
5.サイレントノイズ
6.サーチ アンド デストロイ
7.残映
8.いろつき
9.念力
10.scenario
11.ノクターン
12.静かの海

【完全生産限定盤A】
(CD+DVD+フォトブック)BOX仕様 ¥9,800(税抜)
CD(通常盤と同内容)
<DVD収録内容>
メジャーデビュー二十周年“樹念”特別公演 於 パシフィコ横浜 第一幕【Plastic】things/1997–2006
・Intro
・May Day
・リセット
・絶望の丘
・幻燈機械
・「ぬけがら」
・本当の嘘
・monophobia
・クリーム
・3月5日。
・サーカス
・理科室
・グライダー
・ガーベラ
・散リユク僕ラ
・蒼い鳥
※スペシャルフォトブック(TypeA)
※BOX仕様

【完全生産限定盤B】 
(CD+DVD+フォトブック)BOX仕様¥9,800(税抜)
CD(通常盤と同内容)
<DVD収録内容>
メジャーデビュー二十周年“樹念”特別公演 於 パシフィコ横浜 第二幕【Tree】songs/2007–2016
・眠れる森
・不純物
・エレジー
・スピカ
・ザザ降り、ザザ鳴り。
・無人駅
・オレンジ
・Sabbath
・egg
・涙腺回路
・黒い傘
・アンドロメタモルフォーゼ
・うつせみ
・メルト
・真っ赤な糸
・リプレイ
・記憶行き
※スペシャルフォトブック(TypeB)
※BOX仕様

■ライブ情報
『Plastic Tree Spring Tour 2018「doorAdore」』
3月10日(土)新潟/NIIGATA LOTS
3月11日(日)長野/NAGANO CLUB JUNKBOX
3月17日(土)岡山/CRAZYMAMA KINGDOM
3月18日(日)大阪/BIG CAT
3月21日(水・祝)名古屋/ボトムライン
3月24日(土)川崎/CLUB CITTA’ 
3月29日(木)神戸/VARIT.
3月31日(土)長崎/DRUM Be-7 
4月1日(日)福岡/DRUM LOGOS
4月7日(土)横浜/Bay Hall
4月8日(日)高崎/TKASAKI club FLEEZ
4月14日(土)広島/クラブクアトロ
4月15日(日)京都/FAN J 
4月21日(土)宇都宮/HEAVEN’S ROCK UTUNOMIYA VJ-2
4月22日(日)埼玉/HEAVEN’S ROCK SHINTOSHIN VJ-3 〈SOLD OUT〉
4月28日(土)水戸/mitoLIGHT HOUSE
4月29日(日)仙台/Rensa
5月1日(火)札幌/ペニーレーン24
5月9日(水)東京/中野サンプラザ

『Plastic Treeパシフィコ横浜国立大ホール“全14アルバムリクエスト”公演2018』
第一幕【Plastic】things/1997–2006
7月7日(土) パシフィコ横浜
開場/開演 13:30/14:00 

第二幕【Tree】songs/2007–2018
7月7日(土)パシフィコ横浜
開場/開演 17:30/18:00

オフィシャルサイト

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