lynch.が再び”完全体”となるーー幕張メッセ公演前に、逆境乗り越えてきた13年の軌跡を振り返る

史上最強のlynch.になるために

 このライブをひとつの区切りとしてlynch.は生まれ変わる。地下活動の間、彼らなりにlynch.というバンドの強みがどこなのかを考え、再びメンバーは黒い衣装を身にまとい、メイクをしてステージに立つことを決めた。ロックバンドとしてメイクをしていることが弱点だと感じていた劣等感は、発想の転換により他のバンドは持っていない特殊な武器であると捉えるようになったと当時のインタビューで語っている(Neowingインタビューより)。そして、lynch.はどうあるべきかと自問自答した末に、ハードであるべき、メロディアスであるべき、そしてダークな世界観であるべきという答えに辿りついた。これがZepp DiverCity Tokyoでのライブの去り際に葉月が言っていた“史上最強のlynch.”の姿だ。ある種開き直りにも似た原点回帰をして生まれ変わったlynch.は『EXODUS-EP』というミニアルバムを2013年にリリース。「脱出する」という意味であるこのタイトルはもがき苦しんでいた当時のlynch.の状態と重なり、これが二つ目の転機であったと私は考える。その『EXODUS-EP』に収録されている「NIGHT」というほぼ英詞の楽曲には一文だけ日本語で書かれている箇所ある。

あの時かざした黒塗りの旗を
もう一度翳してみようか
共に叫び謡え声のかぎりに
永遠の夜へとつなぐ絆で

 勘のいい方はお気づきだと思うが、「Adore」の歌詞をここでも使っているのだ。先に述べたとおり「Adore」はlynch.とファンとの絆の歌であり、物語の始まりの歌である。その歌詞をここで再び使っているということは、あの時と同じようにもう一度ここから始めようというメッセージが込められているのだろう。

 ここからlynch.と彼らのファンの共同戦線による快進撃が始まる。2014年にリリースしたアルバムは彼らが「勝負作になる」と話していた通り、10年目の初期衝動を詰め込み、背水の陣で制作していたことから『GALLOWS』(=絞首台)と名付けられた。また、この作品は2013年末に葉月と親交の深かったPay money To my PainのK(Vo)の急逝を受け、よりリアルな死生観が滲んでおり、自分たちはどうするのかというテーマが描かれている。それはこの作品が<何を失い何を懸ける 覚悟を今決めろ>と歌う「GALLOWS」から始まり、<ここに生きて、ここに死ぬ>と歌う「PHOENIX」で終わることからもわかる。彼らは改めてステージでlynch.として生きて死ぬことを選んだのだ。

 2015年、腹を括った彼らはその決意をファンに伝えるために『D.A.R.K-In the name of evil-』(以下『D.A.R.K』)をリリース。というのも、前作『GALLOWS』は全てがlynch.というバンドの中でだけで完結してしまう決意が描かれているが、『D.A.R.K』では<あなたに捧げたいこの闇をこの愛を>と歌う「D.A.R.K」から始まり、<怖がらないであなたこの手をとって>と歌う「MOON」で終わるように、“あなた”に向けて歌われている曲が多いことに気づく。もちろんこの“あなた”はファンである。lynch.として死ぬ決意をした彼らは、この作品でどんなときも隣にいたファンにも一緒に行かないかと手を差し伸べているのだ。これ以上の愛の言葉があるだろうか。

 手を取り合ったことでさらに勢いを増したlynch.は2016年にメジャーデビュー5周年を迎え、アルバム『AVANTGARDE』発売にあわせて、東名阪のフリーライブツアー『「THE RECKLESS MANEUVER」-完全無料東名阪-』を開催。このツアー開催のひとつの理由として、当時lynch.と同時期に活動していたバンドの活動休止が相次いだことがあったという。そのバンドを好きだった人たちがこのまま音楽やライブハウスから離れてしまわないためにも、一度lynch.を観にきてほしかったと当時のインタビューで明かしている(ViSULOGインタビューより)。

 この思いは『AVANTGARDE』の楽曲にも反映されており、心にぽっかり穴が開いた人たちに向けて「EVIDENCE」では<灰と化した夜に 泣いてたキミ奪いたい><忘れられないまま生きてきゃいいだろ 共にいた証だと>と歌うなど、全体的に喪失を歌っている印象を受ける。また“AVANTGARDE”という単語は、最先端に立つ人や様々なものへ挑戦する姿勢という意味を持ち、志半ばで活動を止めた同志たちの気持ちも背負い歩いていくlynch.にぴったりであり、ヴィジュアル系ともラウドロックとも戦えるlynch.の現在地を表す言葉としても適していると感じる。

 X JAPANのYOSHIKI(Dr/Pf)主催の『VISUAL JAPAN SUMMIT』にも出演し知名度を伸ばし、飛躍の年となった2016年だったが、明徳逮捕の一報が飛び込んできたのは『AVANTGARDE』を引っ提げた『THE NITES OF AVANTGARDE』のツアーファイナルを終えた1週間後である2016年11月24日。バンドは活動自粛、明徳は脱退を申し入れ、2017年に決まっていたZeppツアーも中止となった。その後約4カ月の沈黙を経て、新木場STUDIO COASTで行われた『THE JUDGEMENT DAY』は、彼らがインディーズラストツアーに冠したタイトルと同じものであり、公開されたアーティスト写真も当時のものと同じ構図で撮影されたものであった。この日のライブで葉月はファンへの感謝を述べるとともに明らかにファンがlynch.を守ろうとしてくれているのを感じたこと、そして4人の状態を不完全な状態と表すと同時に5人のlynch.を諦めないとも話していた。そんな不完全なlynch.は活動を止めることなく、複数のサポートベースを迎え、明徳が担っていたコーラスを玲央(Gt)とファンが行った。8月には『THE SINNERS STRIKES BACK』ツアーの追加公演を日比谷野外大音楽堂で行い、見事ソールドアウト。アンコールで2018年3月の幕張メッセ公演開催を発表した。

 このタイミングでの明徳復帰について「僕たちの我儘をお許しください」(オフィシャルサイトより)とし、賛否両論あることも、これから自分たちが険しい道を歩まなければいけないことも理解したうえで、まずは5人のlynch.を見て判断してほしいと話している(ナタリーインタビューより)。様々な感情が入り混じる幕張メッセでそのすべてを受け止め、納得させるようなライブをするのがlynch.というバンドだ。これまでも彼らはどんな逆境も傷だらけになりながら乗り越えてきた。そしてその隣には必ずファンの姿があった。今回のバンド史上最大の逆境すらもともに手を取り乗り越えるのだろう。私はそう確信している。そしてまた絆は固くなるのだ。

 ファンである「SHADOWS」がlynch.の影で在り続ける限り、その先には光しかないのだから。

■オザキケイト
平成元年生まれの音楽ライター。ヴィジュアル系を中心にライブレポートやコラムを執筆している。「Real Sound」や「ウレぴあ総研」、その他バンドのプレスリリースにも寄稿。
ツイッターアカウント:@lellarap__

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