クラシックとポストクラシカルの違いは? “鍵盤王”ニルス・フラーム来日公演前におさらい

ニルス・フラーム、来日に寄せて

ポストクラシカルの“鍵盤王”ニルス・フラームの魅力

 さて、ニルス・フラームである。彼は、1982年、ドイツ・ハンブルク出身の35歳。ポストクラシカルの旗手的存在のヨハン・ヨハンソンやマックス・リヒターより一回り下の世代だ。ヨハンソンやリヒターは作曲家、スタジオミュージシャンとしての側面が強く、ライブで前面に出る機会は少ない。一方、ニルス・フラームスはピアニスト、キーボーディストとして、ヨーロッパを中心に連日、積極的にライブ活動を展開している。

 彼はライブにおいて、グランドピアノのほか、エレクトリックピアノ、アナログシンセサイザーなど、あらゆる鍵盤楽器を駆使する点では、上記プログレのキース・エマーソンのような存在だろうか。それでも、彼の本領はアコースティックピアノにある。以下、ピアノに絞って彼の音楽を紹介したい。

 彼のピアノ音楽の特徴の一つは、電子的に蒸留され、精製されたような美しいピアノの響きではなく、あえてノイズを活かした素朴な響きにある。例えばピアノを弾いた際に隣同士の鍵盤がこすれるようなノイズや、調律が甘い弦同士(ピアノは一音につき、2本または3本の弦を同時に叩くことで発音する。通常は3本の弦のピッチをきれいにそろえる)の微妙なピッチの違いを活かすことで、どこか懐かしい空気を醸し出す。特に2011年の作品『Felt』では、そんな彼ならではのこだわりが十二分に発揮されている。

 その一方で、まったく新しいアコースティックピアノの響きにもチャレンジしている。例えば、アルバム『solo』(2015年)は、友人であるピアノ職人、デヴィッド・クラヴィンスが製作した「Klavins M450」の試作品で演奏された。「Klavins M450」は、高さ3.03メートル、響板の長さが2.75メートルある、究極のグランドピアノだ。

デヴィッド・クラヴィンス製作の大型ピアノに取り組むニルス・フラーム

 我々が通常目にするグランドピアノが、現在の形になったのは19世紀後半である。以降、100年以上、88鍵というキーの数、フェルトのハンマーで叩くというメカニズム等、ピアノの形状は大幅に変わっていない。

 しかし、かつては作曲家やピアニストの要望に応えるように楽器が改良され、新しい音楽が想像される循環があった。19世紀の前半、ベートーヴェンからショパンが現代にも残るピアノの名曲を創作した時期は、ピアノという楽器そのものが改良されていった時代でもあった。また、1970年代、アナログシンセサイザーが世に出たのと同時に、ジャズ・ミュージシャンたちが積極的に取り上げ、フュージョンという新たなムーブメントが起きた。

 ニルス・フラームは100年前に完成した現在のグランドピアノに飽きることなく、新しいピアノの響きと音楽を追い求めているのだ。

 そして、今年1月、最新アルバム『All Melody』がリリースされた。作品の印象をひとことでいうと「多彩」。彼は、ピアノ、オルガン、チェレスタ、アナログシンセサイザー、ありとあらゆる鍵盤楽器を駆使。これまで述べてきたピアニストの側面と、ハウスミュージックのクリエイターとしての側面が融合した意欲作だ。また、これまでの作品群に比べて、ボーカルやコーラスを多用しているのも気になった。

Nils Frahm - All Melody (Official Album Trailer)

 5月の来日公演では、『All Melody』の意欲的な成果をどのように披露してくれるのだろうか? 大いに期待したい。

(文=鍵盤うさぎ/写真=Alexander Schneider)

■公演情報
ニルス・フラーム公演
5月22日(火)18:30開場/19:30開演
梅田クラブクアトロ(大阪府)
前売¥7,500(税込・ドリンク代別)
問い合わせ SMASH WEST 06-6535-5569

2018年5月23日(水)18:30開場/19:30開演
恵比寿LIQUIDROOM(東京都)
前売¥7,500(税込・ドリンク代別)
問い合わせ SMASH 03-3444-6751

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