モーニング娘。は現在進行形の物語だーー愛と敬意が詰まった『二十歳のモーニング娘。』を分析

 最初と最後を飾るのは、彼女たちのメジャーデビュー曲「モーニングコーヒー」とインディーズデビュー曲「愛の種」。モーニング娘。20thとして一期メンバー5人と現メンバー13人の計18名が参加している。楽曲名には「20th Anniversary Ver.」と添えられ、当時の爽やかな曲調から音数を増し、BPMを上げることでより現代的なアレンジへとアップデートされている。

 2曲目の「WE ARE LEADERS! ~リーダーってのもつらいもの~」は、前山田健一の作詞作曲の下、歴代リーダー10人が代わるがわるボーカルを務める一曲。モーニング娘。ならびにつんく♂からの影響をかねてから公言している前山田健一らしく、モーニング娘。のメンバー紹介楽曲として知られる「女子かしまし物語」の手法を雛型にしたユーモラスな曲に仕上げている。それぞれのリーダーの個性と経歴をイジったり引用したりする歌詞からは、20年を支えてきたリーダー達への敬意が伝わってくるようだ。

 また、特に道重さゆみの大ファンとして知られる大森靖子が作詞作曲した「ENDLESS HOME」は、現役メンバーの譜久村聖と小田さくらをコーラスに迎え、初期の代表的メンバーである安倍なつみがメインを歌う。大森靖子は、過去にハロー!プロジェクト所属の℃-uteに提供した「夢幻クライマックス」でも、メンバーの名前を歌詞に入れ込む手法を使っていたが、この曲では「愛の種」「ふるさと」といったモーニング娘。初期の楽曲名を歌詞に引用。その上で、多くの卒業メンバーがいまや母親となっている現在の状況に思いを馳せている。

 デビュー当時からのファンにとってたまらないのは、インディーズデビュー曲の「愛の種」と同じく、サエキけんぞうが作詞、桜井鉄太郎が作曲を担当した「タネはツバサ(Wings of the Seed)」だろう。この楽曲は、初期メンバー5人による20年越しの新曲。その歌詞や曲調も、彼女たちがまいた種が芽吹いていった20年後の未来からの、「愛の種」へのアンサーソングと言うべきものとなっている。

 本作には、それらの20周年特別仕様の楽曲のみならず、つんく♂作詞作曲によるモーニング娘。’18の純粋な新曲2曲も収録されている。ムーディなダンス歌謡に今を生きる少女たちへのメッセージが乗る「花が咲く 太陽浴びて」と、淡い恋の感情と夏祭りの情景を親しみやすくユーモラスに描いた「お天気の日のお祭り」。タイプは違えど、どちらもつんく♂節が堪能できる楽曲だ。この2曲はいい意味で20周年を感じさせない曲調となっており、これから先の未来を見据えて今この瞬間を生きる、現在進行形のモーニング娘。を伝えている。

 20年間、紆余曲折を経ながら五線譜のたすきを繋いできたモーニング娘。。常に移り変わっていくメンバー構成ゆえに、その歴史には、同じ瞬間は一度も存在しない。彼女たちは今も、瞬間瞬間を懸命に生きている。一方で、その積み重ねが歴史となり、歌として、作品として受け継がれてきた。この物語は、まだ現在進行形で未来へと繋がっている。

■青山晃大
1983年生まれ、三重県津市出身。フリーランスの音楽ライター。「ザ・サイン・マガジン・ドットコム」「Qetic」「CROSSBEAT」他で執筆しています。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる