森口博子、『ガンダム』シリーズと歌への思いを語る「これまで会った人々の思いが自分の32年間」

森口博子、『ガンダム』と歌への思いを語る

 『ガンダム』は人生を変えてくれた運命の出会い

ーーデビュー曲が『機動戦士Ζガンダム』で、歌手としてのターニングポイントとなったのも映画『機動戦士ガンダムF91』の主題歌で、その後もガンダムの曲を担当することで、森口さんは今では「ガンダムの女神」と呼ばれるようになりました。森口さんにとって『ガンダム』という作品はどんな存在だと言えそうですか?

森口:私にとっては、人生を変えてくれた運命の出会いですね。これからも寄り添っていくことを確信している、かけがえのない存在です。それに、年齢を重ねて、いろんな経験をして、作品への向き合い方も変わってきました。覚えているのが、中学校の卒業アルバムの社会情勢をまとめた年表に「『ガンプラ』がブームになった」ということが載っていて、10代で「水の星へ愛をこめて」を歌わせてもらうときは、「すごいなぁ、男子に人気のあの『ガンダム』の曲でデビューできるんだ。しかも毎週私の歌がTVで流れるなんてラッキー!」という感覚でした。そこから20代の「ETERNAL WIND〜ほほえみは光る風の中〜」で歌手として認めていただいて、30代にはCDが売れない時代の中で、年齢的にも「自分って必要とされてるのかな?」「自分の居場所はあるのかな」と不安にかられていた時期だったんです。でも、その30代では『SDガンダム ジージェネレーションスピリッツ』のテーマソング「もうひとつの未来~starry spirits~」を担当させていただいて、そのときにプロデューサーの方が「この曲は森口さんの声以外に考えられません」と言ってくださって号泣してしまって。それが久しぶりにチャートも好調で、自分の自信にも繋がりました。ライブは増えていましたけど、作品を通して多くの人と繋がることができました。

ーーお話を聞いていると、森口さんの活動の転機になるようなところで、必ず『ガンダム』が森口さんのところにやってきてくれるんですね。

森口:今ちょっと鳥肌が立っているんですけど、それは神様からの最高のプレゼントだと思います。『ガンダム』こそ、私にとっての女神ですよ!

ーー「ガンダムの女神」にとっての「女神」ですか(笑)。

森口:一生歌い続けられる楽曲、役割をいただけたというのは、ボーカリストとしても歌を歌い続ける力になりますし、それをファンのみんなが何年経っても、チャートや時代に関係なく大切に、必要としてくれていますよね。毎年、ライブツアーやイベントでそれを肌で感じます。あの熱い声援は心強いです! ライブでのファンのみんなとのエネルギー交換は、生命線ですね! 2016年に『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜』の主題歌「宇宙の彼方で」を歌わせていただいたときも、「10代、20代、30代、40代で『ガンダム』を歌ってきた人間は地球上で森口博子しかいない!」と思ったら泣けてきました。これも、みんなが必要としてくれていたからなんだと思います。それに、『ガンダム』ってテーマも大きくて、そこには社会情勢も反映されていて。10代の頃には気づかなかった深いテーマに、大人になってから気づいたりもしますし、いまだに世界中の紛争は終わらないし……。『ガンダム』には先見の明がありますね。その象徴的なことを伝え続けている作品だなぁと思います。しかも、人格形成の時期に聴いた楽曲は、いつまで経ってもその人の中に色あせずに残ると思うんです。その責任を担えることが嬉しいですし、私もその楽曲のパワーに負けないように、いくつになっても歌い続けられる自分でいようと思っています。

ーーそして今回『鳥籠の少年』で、なんとデビューのきっかけとなった『機動戦士Ζガンダム』の世界に帰ってくることになりました。

森口:この原点回帰は魂が震えました。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜』のときも泣いたのに……。「こんなことってあるんだ」と思いました。『ガンダム』の楽曲を歌い続ける新たな覚悟と使命をいただいたような感覚です。「鳥籠の少年」はアップビートで、心の殻を破って、一歩踏み出すのを後押しするパワーが溢れ、同時にすごく切ない曲だとも思います。アジアを思わせる歌謡曲のテイストもあって、でも、「やると決めたら行かなきゃいけないんだ!」という悲哀があって。そのバランスが絶妙で、自分自身も背中を押されましたね。

ーーその雰囲気は『ガンダム』シリーズ自体の魅力ですよね。戦いに向かう登場人物それぞれが実は苦悩や思いを抱えていて、それが作品を通してとても丁寧に描かれています。

森口:「犠牲者」という言葉がありますけど、実は戦争の中では、(攻める方も攻められる方も)どっちもが犠牲者なんですよね。どちらにも家族がいて、そもそも誰も戦いを望んでいなくてーー。そういう思いや人間ドラマが詰まっていますよね。

ーーレコーディングではどんなことを意識しましたか?

森口:作品ありきなので、『機動戦士Ζガンダム』の世界観に寄り添うことを。特に私は『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜』でガンダムの歴史の始まりを描いた作品の曲も歌わせていただいたので、そこからファーストガンダムに繋がって、『Z』になってという流れも意識しましたし、主人公のカミーユ・ビダンの繊細なところも感じながら、マイクに向かいましたね。もちろん、私自身も、人には言えない弱さがあるわけなんです。家に帰ってへこんだ時の森口博子の「ああ、もう一歩なのにな」という気持ちともリンクされていたんです。戸惑いながら広げていくような表現がすごく私にも刺さったりしました。〈たとえ一人になっても/声が届かなくても/あなたの儚い想い/胸の中感じているから〉という歌詞もそうで、みんなひとりではないし、誰かに送り出されて日々頑張っていくんだ、ということを重ねながら歌っていきました。フォウ・ムラサメが犠牲になりながらカミーユを送り出す場面もそうですよね。そういうことを考えたりすると、切ないなぁと思います。あと、この曲はレンジも広いですしね。最後のファルセットのところは、フィギュアでたとえるなら、全部やり切ったあとに「ここでもう一回トリプルアクセルを飛ぶの?!」という感覚で。

ーーもしかしたら、デビュー当時には歌えなかった楽曲なのかもしれませんね。

森口:そう思います。私の他の曲にもノリがよくてアップテンポでパワフルな曲はありますけど、レンジが広くて、なおかつ畳みかけるような曲というのは挑戦でした。パチンコで流れる楽曲なので、何百曲という候補の中から、この曲を選ぶという幸せな悶えもありました。どの曲を聴いても、「ガンダムが大好きな作家の方が作ってくださったんだな」と愛が伝わってくるようなものばかりで。でも決め手となったのは、イントロのゾワゾワ感でした。色々ないい曲がありましたけど、そこでアドレナリンが出るような雰囲気に「やっぱりこれでしょう!」と思ったんです。日本人の琴線に触れるような切ないコードが入っていたりもして、名曲ですね。ご年配の方でも「いい曲ですね」と言っていただけるんですよ。

ーーまた、2曲目に収録されているもうひとつの挿入歌「生命の声」では森口さんが作詞を担当されています。

森口:「書かせてください!」と志願しました(笑)。この歌詞は、さっきの話とも重なるんですが、誰も望んでいない戦争の中で、自己犠牲の愛があって、生かされる命があってーー。この矛盾の波を止めたいという思いで、平和への祈りの気持ちを込めました。その上で、「誰かの自己犠牲の愛によって成り立っている命があることを忘れてはいけない」という思いで書いていきました。このテーマ自体はすぐに出てきたんですが、そのテーマに対する気持ちが強すぎて、なかなか詞が出てこなかったんですよ。でも、オケ録りのレーディングに行ったときに、目の前でオーケストラの方々が演奏している生音を聴いて感動して、そのときに歌詞が浮かびました。私はもともと作詞は早い方なんですけど、あまりに歌詞が出てこなくて、締切も間に合わないんじゃないかという状態になっていたんです。Aメロもサビもどこも湧いてこなくて、周りのみんながほぐそうとしてくれたのか、「森口先生、まだですか? 先生?」と冗談めかして言ってくるような感じになっていて(笑)。「これは本当にやばいかもしれない」と焦っていました。でも、生演奏の力ってすごいですね。急に歌詞が浮かんできて、涙を拭いながらカバンからボールペンと紙を出してメモを取りはじめて……。音楽の力のすごさを改めて感じました。

ーー曲に導かれるように詞ができていったんですね。

森口:私が思っていたことが、曲の力によって具現化されていったような感覚でした。曲を聴いて感動して泣きながら、メモを見たら自分の詞の世界観に「これだ!」と自分で感動してまた泣きながら……感情が忙しかったです(笑)。レコーディングのときは、思い入れの強い曲でもあるので、空虚な世界に向かっていくイントロで、力を抜いて無の状態になることを大切にしました。

ーーすべての人々を包み込むような、まさに「ガンダムの女神」のイメージで聴かせていただきました。そして3曲目には「水の星へ愛をこめて」がオリジナル版で収録されていますね。つまり、今回は森口さんのスタート地点と現在とがひとつの作品に収められていることになります。

森口:これも本当に感慨深くて、魂が震えます……。人生が全部詰まっているということですよね。これまで支えてくださったファンのみなさん、スタッフ、家族、もっとさかのぼるならご先祖様まで……みなさんの「愛」のおかげですよ。これは本当に。

ーー今回の3曲は、森口さんの歌手としての進化のようなものもよく分かる作品になっているんじゃないかと感じました。

森口:確かに、10代の頃は歌声自体もまだ少女ですよね。声が真っすぐですし、当時はまだ何も分かっていなかったので、レコーディング自体も「もっとこうしよう」という欲がなく、すごく早く終わりました。「水の星(=地球)って何か分かる?」と聞かれて、緊張して「はい、水星です」って答えたぐらいですから(笑)。それぐらいガチガチに緊張して、「語尾を大切にね」「大きな気持ちで歌ってね」と、言われたことに対して一生懸命でした。本当にひたむきな17歳の歌い方。でも、今はやっぱり、昔よりも詞を深く受け止められるようになっていると思います。特に『ガンダム』は、主役としてスポットが当たっていない人たちの心情まで考えるとより魅力が分かってきますよね。今はその背景にあるものをより深く表現しようと思うようになりました。

ーー今回の楽曲を聴いて、『機動戦士Ζガンダム』の世界に新しく触れたいと思う若い人たちがさらに増えることもあるかもしれません。歴史が育まれることは、素晴らしいことですよね。

森口:以前、陸前高田に私のバンドのギタリストのメンバーとアコースティックで歌いに行かせていただいたときに、「候補曲の中でどの曲を歌ってほしいですか?」と聞いたら、その中に入っていなかったのに、小学生の男の子が「水の星!」とリクエストしてくれたんです。たまたまメンバーがiPadに譜面を入れていたので、アドリブでギター一本の演奏で歌ったら、小学校の子たちがみんな笑顔で盛り上がってくれたことがありました。それを目の当たりにしたときに、アニソンや『ガンダム』は世代を越えて愛されて、人をひとつに繋いでくれるんだな、と改めて感じました。これまでのキャリアの中でありがたいと思うのは、出会いに恵まれたこと。私は17歳のときのプロフィールにも「好きなこと:出会い」と書いていたんですが、デビューをするまでにもたくさんの人との出会いがあって、それがずっと、点ではなく線で繋がって生かされています。「これまで会った人々の思いが自分の32年間なんだな。その人たちに守られてきたんだな」と思います。だからこそ、たとえばこの先60代になっていったとしても『ガンダム』ソングは歌い続けたい、というか、歌います。「(その頃になっても新曲を)いただきたい」ではなくて、「絶対いただきます!」という気持ちですね(笑)。聴いて下さった方の魂を燃やさせて頂きます!

(取材・文=杉山仁)

■リリース情報
『鳥籠の少年』
発売:2018年2月14日
〈収録内容〉
1.鳥籠の少年
2.生命の声
3.水の星へ愛をこめて(’85オリジナルバージョン)

■ライブ情報
『「鳥籠の少年」発売記念ミニライブ&特典会イベント』
日時:2018年2月17日(土) 19:00~
場所:HMV&BOOKS SHIBUYA 7Fイベントスペース
内容:ミニライブ&特典会 
※観覧フリー
※当日の状況によりスタート時間変更の可能性あり

詳細はオフィシャルサイトより

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<応募締切>
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