仮想通貨のバブルと崩壊はなぜ生じるのか? 田中秀臣がアイドル市場と比較して解説

 しかも類似しているのはこれだけではない。いまの仮想通貨バブルとその崩壊も、アイドルとの類比で解釈することが可能だ。そのキーワードは「薄商い市場」だ。薄商い市場とは、取引する人たちが極端に少なく、その人たちが市場に参入・退出(つまり売り買いをするかやめるか)するだけで、大きくその取引される財やサービスの価格を変動させてしまうことを意味する。例えば多くのライブ系のアイドル(いわゆる地下アイドル)は、ごく少数のファン(オタク)によって営業が成立している。一けた程度のコアなファンしかいないアイドルも多いだろう。例えば、いまそのコアなファンがひとり増えたり、あるいは一人減るだけでも、そのアイドルの営業には大きな影響を及ぼすだろう。アイドルの価値はごく少数のファンたちの行動によって大きく上下動してしまう。

 これと基本的に同じことがビットコインのバブル発生から崩壊までの過程で起きているビットコインや他の仮想通貨でも無数の取引者(オタク)がいるように見えて、実は大部分が単一のオタクと同じである。つまり取引する動機がどれも投機目的だけの、しかも短期的な利益を得ることに傾斜した仮想通貨オタクが大半なのである。通貨は単に投機目的だけではなく、支払いやまた価値の保蔵としても利用される。しかしビットコインなどは投機目的でしか需要されていない。ビットコインの好みが似ている人が大部分なので、その人たちは同じように一方向に行動しやすい。つまり無数にいるようにみえても本当は一けた程度しかファンのいない地下アイドルと同じなのだ。もちろん大挙して市場に参加すれば、一気に通貨=アイドルの価値は上昇する。投機は投機を招いていく。バブルの発生だ。だが、何かをきっかけに(アイドルであればスキャンダル、ビットコインであれば規制強化のニュースなど)一気に市場からごっそり去っていく。それはバブルの崩壊をもたらす。

 このような価格の乱高下をもたらすようでは、通貨として利用することはとてもできない。一晩で価格が2割程度上下動することも珍しくはない。それだと安心して決済に使うことができないために、ますますビットコインは投機目的にしか利用されなくなってしまう。オタクが運営に口を出したり、アイドルと個人的に繋がるとあまりいい結果をもたらさないのにこれも似ている。とても閉じた世界になってしまうのである。これを「市場の失敗」の一種といえるだろう。ただし違いもある。「市場の失敗」には政府の介入が求められるケースが多い。仮想通貨市場にはその必要があるかもしれないが、アイドル市場にはその必要は基本的に必要ないということだ。

■田中秀臣
1961年生まれ。現在、上武大学ビジネス情報学部教授。専門は経済思想史、日本経済論。「リフレ派」経済学者の代表的論客として、各メディアで発言を続けている。サブカルチャー、アイドルにも造詣が深い。著作に、『AKB48の経済学』、『日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉』『デフレ不況』(いずれも朝日新聞出版社)、『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)など多数。『昭和恐慌の研究』(共著、東洋経済新報社)で第47回日経・経済図書文化賞受賞。好きなアイドルは北原里英、欅坂46、WHY@DOLL、あヴぁんだんど、西恵利香、鈴木花純、26時のマスカレイド、TWICEら。Twitterアイドル・時事専用ブログ

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