鳥取砂丘でサンプリングも……堤博明が語る『クジラの子らは砂上に歌う』劇伴制作秘話

『クジラの子らは砂上に歌う』劇伴秘話

ちりばめられた様々な仕掛け、鳥取砂丘でのサンプリングも

ーー劇伴を作る上で、音楽の主張が強くなりすぎないようなバランス感はどのように意識されていますか?

堤:今回は、しっかりとストーリーに寄り添いながらも、なるべく溶け込むような劇伴にしようと考えていました。「泥クジラの住人は感情を全面に出してはいけない」という物語設定があるので、音楽も悪目立ちするのだけは避けたかったんです。なので、たとえばバトル曲では金管楽器を抜いて、勇ましくなりすぎないように引き算してあります。

ーーなるほど。「感情を抑える」というストーリーと音楽がリンクしているんですね。そうやってなるべく目立たないよう配慮しつつも、サウンドはかなり細かく作り込まれていますよね。

堤:Disc1のM3「ハイパーグラフィア」では、記録係というチャクロの役どころから、鉛筆の音をサンプリングしてリバーブを付けたものをシーケンスに使っています。それから、鳥取砂丘にも行きました。砂を踏みしめる「ザクッザクッ」っていう音をサンプリングして、音程を組み合わせてパーカッション代わりにしています。砂の音は色々な曲に入っているので、ぜひ探してみてください。

ーー今回、特に苦労した楽曲は?

堤:Disc1のM27「白縹の唄」ですね。名曲を作ろうと、すごく構えてしまったんです。当初、『ニュー・シネマ・パラダイス』の「愛のテーマ」を目指していたんですけど、難しくてやっぱり無謀だとなってしまい、そこから4日くらい悩みました。この曲は久しぶりにつらかったですね……。逆に、ほかの曲では、アレンジに時間がかかりはしても、アイデアやメロディ自体が出てこないということはほとんどなかったです。

ーー劇伴以外にも、原作に登場する砂詞(すなことば)を歌った「心(きろく)の唄」と「光の唄 歌:エマ(CV.加隈亜衣)」も素晴らしい楽曲でした。

堤:「心の唄」に関しては、制作オーダーがとても難しかったんです。監督には、「『クジラ』の世界で古くから伝えられている子守唄のような雰囲気で、ポップスにはしたくないけど、メロディは難解すぎずわかりやすい、それでいてどこか懐かしい」と言われまして(笑)。クラシックの名曲をイメージして、8パターンくらい作りました。実際に採用された曲は、当初Cマイナーで作っていたんですけど、監督に「これだと響きが複雑だから、Aマイナーにしよう」と言われて、キーを変更してこの形になりました。

ーー監督が具体的なキー指定までされるんですね……!

堤:さすがに、「キーを修正しよう」とおっしゃる監督は僕も初めてでした(笑)。

(C)梅田阿比(月刊ミステリーボニータ)/「クジラの子らは砂上に歌う」製作委員会

ーー「光の唄」も、耳に残りやすいメロディながらも不穏な空気が漂う曲ですよね。

堤:他の楽曲が“ユニゾン”だとすると、この曲はテーマが“ハーモニー”なんです。「摑みどころのない怖さを表現してほしい」と言われて、メジャーかマイナーかわからないような曲にしました。

ーー“声”の使い方も独特ですが、やはり意識されていましたか?

堤:はい。加隈さんには申し訳ないけれど苦労していただこうという前提でスタートしました(笑)。エマが主旋律を歌っていますが、ネリの方は自由だったので、エマを追いかける輪唱パートを入れたり、ハモりを増やして神秘的な雰囲気にしたりと、様々な要素を入れました。そういう小さな仕掛けを色々と組み込んだので、結果、怖さや狂気が伝わってくれたらすごく嬉しいです。

(C)梅田阿比(月刊ミステリーボニータ)/「クジラの子らは砂上に歌う」製作委員会

ーーそうした挿入歌や劇伴が、実際に映像と合わさった放送を見ての感想を教えてください。

堤:「この部分にはこの曲がハマるだろう」と狙って作った曲が、その通りに使われているシーンもあったんです。第五節のスオウの演説シーンで使われている「希望の船出」(Disc2・M22)は、完璧に頭の中でイメージしていた通りでした。だからこそ、演出や盛り上げ方も仕掛けられましたし、それがハマった時は嬉しかったです。

ーー放送後の反応を見ていても、「音楽がいい」という感想がかなり多かったですよね。

堤:いやあ、嬉しいですね。『クジラ』ファンの方にも、自分の意図していたイメージが伝わったかなと感じて安心しました。あとは、特に本作では取材で音楽について語らせていただくチャンスをたくさんいただけたので、こうした裏話を語ることで、新たに伝わるものもあるだろうと思っています。

ーーアニメを見ながらだと気付かなかったような細かい仕掛けも、サントラ単体で聴くと浮き上がってきたりもしますよね。個人的には「アパトイア」(Disc1・M8)をヘッドホンで聴いた時、大胆なパン振りに感動しました。

堤:細かい楽器の掛け合いも、劇中で聴くとわからなかったりするので、CDではそういった部分に注目してほしいです。砂のサンプリング音がどの曲で使われているのかなども、探していただけると面白いと思います。それから、わかりにくいかもしれませんが、帝国側の音楽と泥クジラ側の音楽では、それぞれ特定の音階を使っているんです。そうしたものも、サントラで比較していただけたら面白いかもしれません。

(C)梅田阿比(月刊ミステリーボニータ)/「クジラの子らは砂上に歌う」製作委員会

ーー最後に、『クジラ』は、堤さんの作曲家人生においてどのような作品になったでしょうか?

堤:これまで関わった作品では、自分の中でできることの集大成を出すようなスタンスで劇伴を作っていました。でも、今回は自分の中にないものも表現する必要があったので、とてもいい機会になりました。色々なことに挑戦させていただけて、次への新しい一歩になったと思います。

(取材・文=まにょ/撮影=稲垣謙一)

『TVアニメ「クジラの子らは砂上に歌う」 オリジナルサウンドトラック 心(きろく) ~Record~』(C)梅田阿比(月刊ミステリーボニータ)/「クジラの子らは砂上に歌う」製作委員会

■リリース情報
『TVアニメ「クジラの子らは砂上に歌う」 オリジナルサウンドトラック 心(きろく) ~Record~』
発売:2018年1月24日(水)
価格:¥3,300(税抜価格)+税

<収録内容>
・Disc1
1.心(きろく)の唄 -PV ver-
 作詞:梅田阿比
 作曲・編曲:堤 博明
2.その未来(さき)へ (TV size)
 作詞・作曲:RIRIKO 
 編曲:原田アツシ(Dream Monster)
 歌:RIRIKO
3.ハイパーグラフィア
4.楽園 
5.砂の戯れ 
6.無印の長
7.指組み
8.アパトイア
9.濡烏 
10.魂形(ヌース) -情-
11.砂上の虹 
12.若芽色の弦
13.砂色の弦
14.心との再会
15.飛蝗の夜
16.泥クジラの過去
17.スナモドリ
18.ウラバヤナギ
19.ファレナの双子
20.不穏な予感
21.逸れた闇
22.砂葬曲
23.砂塵の檻
24.惨劇の鐘(ベル) 
25.無情の咆哮
26.サイミア 
27.白縹の唄
28.その未来(さき)へ -Guitar ver-

・Disc2
1.光の唄
 作詞:梅田阿比
 作曲・編曲:堤 博明
 歌:エマ(CV. 加隈亜衣)
2.流刑の民の選択 -Quartet ver-
3.砂塵の檻 -Emotional Cello ver –
4.襲撃前夜
5.砂嵐の対峙
6.スキロスの侵略
7.物語る異端者
8.死神の行列
9.道化の獅子
10.狂気の2人
11.銀灰色の弦
12.ハシタイロ -Piano ver-
13.異国の主
14.新たなる鍵
15.秘色の唄
16.流刑の民の選択
17.引き剥がされた楽園
18.魂形(ヌース) -命-
19.ファレナの悪霊(デモナス)
20.鯨の戦塵
21.煌めく命
22.希望の船出
23.心(きろく)の唄 -TV track ver-
 作詞:梅田阿比
 作曲・編曲:堤 博明
24.ハシタイロ (TV size) 
 作詞・作曲・編曲:rionos
 歌:rionos

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