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Emeraldが体現した“ネオソウルと折衷主義の復権” bonobos迎えた渋谷WWW公演レポ

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 1月18日、Emeraldが昨年発表した2ndアルバム『Pavlov City』のリリースパーティー『Neo Oriented』を渋谷WWWで開催した。この日はオープニングアクトのeckeと共に、ゲストとしてbonobosが出演。両バンドのことをよく知る人であれば、Emeraldとbonobosという組み合わせから、間違いない一夜になることが容易に想像できただろう。

 Emeraldの中野陽介が以前所属していたPaperBagLunchbox(以下、PBL)とbonobosは共に2001年に大阪で結成。時代感を共有しつつ、特にPBLはサイケデリックな側面をが、bonobosはダブ/レゲエの側面が大きな特徴となっていた。

 その後、2011年にPBLが解散し、中野が身近でネオソウルを演奏していた仲間と結成したのがEmerald。そして、彼らが1stアルバム『Nostalgical Parade』を発表した翌年の2015年、今度はbonobosが5人編成の新体制へと移行。新しく加入したメンバーのプレイヤビリティを生かした結果、同じくネオソウル的な色合いを強めた『23区』が完成した。

 ここにもう一バンド加えるとすれば、ceroの名前が挙げられる。彼らも2004年の結成以降、徐々にジャズやヒップホップへの傾倒を強め、『Obscure Ride』によって時代の顔になったわけだが、2014年の『Nostalgical Parade』、2015年の『Obscure Ride』、2016年の『23区』という3枚は、「ネオソウルの復権」であると共に、「現代におけるエクレクティシズムの復権」の象徴として、今後より評価されるべき作品であるように思う。

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 前置きがずいぶんと長くなってしまったが、そんな背景を知っているかどうかに関わらず、2組のステージはともに素晴らしかった。やはりジャズやR&Bを軸にポップスを鳴らすオープニングアクトのeckeに続いて、まずステージに登場したのはbonobosの5人……ではなく4人。この日はキーボードの田中佑司がインフルエンザのために急きょ欠席というアクシデントがあり、その分、蔡忠浩がいつもより多めのギター演奏でカバーをしていた。

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 そもそもbonobosは森本夏子が弾くスタインバーガーの5弦ベースによる低音がアンサンブルの軸となっているため、いくらネオソウルに接近したとはいえ、レゲエ成分も強く残り、その不思議なバランスが現在の個性となっている。この日はキーボードの不在によってピアノをはじめとした鍵盤の音色が抜け、ギターが厚くなることによって、演奏している楽曲自体はネオソウルに影響を受けつつ、鳴っている音は全然違うという不思議な事態となっていたが、結果的にはそれがbonobosの特異性をよく表していたように思う。

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 ポストパンク的なリズムからダブパートへと展開する長尺曲「Hello innocence」から、現体制で生まれ変わった「THANK YOU FOR THE MUSIC」、同じく現体制のグル―ヴィーなイメージを決定付けた「Cruisin’ Cruisin’」という中盤の流れはとりわけ白眉。後半にはクラップの似合う軽快な「ICON」を挟みつつ、何気なくも複雑に構築されたリズムや和音がバンドの現在地を映し出す「Gospel In Terminal」を経て、ラストは「23区」から「GOLD」でメランコリーを含んだ多幸感と共にステージが終了した。

 本日の主役であるEmeraldのステージは、メンバー5人とサポートの藤井健司(ベースの藤井智之の実兄)に加え、『Pavlov City』に参加していたコーラスのえつこ(katyusha/DADARAY)、ギターのユースケ(TAMTAM)、サックスの門田“JAW”晃介(BARB/ex.PE’Z)、umber session tribeのメンバーを含む3人をホーン隊として迎えたこの日限りのスペシャルな12人編成でスタート。アルバム同様にインストの「G.W.」から始まり、タイトルトラックである「Pavlov City」で早速門田のサックスソロをフィーチャーすると、その後はメンバーが入れ替わりつつ進行して行った。

 『Pavlov City』はこれまで同様ネオソウルを土台にしつつも、前作からシューゲイズ的な側面が後退し、ホーンの導入などによってジャズ的な側面を強めるといった変化があったが、ステージでの主役はやはり中野。軽やかにステップを踏みながら、バンドが生み出すグルーヴの上を泳ぎ、シルキーかつソウルフルな歌声を聴かせる姿はやはり絵になる。

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 また、『Pavlov City』はメンバーいわく「日常」を表現したアルバムとのことだが、「step out」の演奏後、この曲がカラオケに入り、メンバーが歌ったら点数が何点だったといった内容のたわいもない会話は、まさにスタジオの中の日常といった感じ。こんな雰囲気から音楽が生み出されているのかと思うと、Emeraldの楽曲が余計に愛おしく感じられた。

 トレモロのかかったギターとピアノのフレーズによる浮遊感がフィッシュマンズの「ナイトクルージング」を想起させる「ナイトダイバー」、間奏のサイケパートも印象的な「JOY」、ユースケに加え、ボーカルにクロ(TAMTAM/吉田ヨウヘイgroup)も加わって披露されたTAMTAMのカバー「Quiet Town」など、後半も見どころ十分。昔の曲も織り込みつつ、ほぼ『Pavlov City』の曲順通りに演奏されたセットリストは、「after blue」から「黎明」で厳かに締め括られた。

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 アンコールでは再び12人編成で登場し、前述のカラオケのエピソードを踏まえ、「さっきの曲は難しいけど、この曲は宇多田ヒカルさんとか好きな人なら歌いやすいと思う」「宇多田さんも難しいじゃん!」といった軽妙なやりとりを経て、この日初披露の新曲を演奏。ラストはクロも迎え入れたこの日最大の13人編成で、名曲「ふれたい光」が披露された。

 「黎明」でも<温かな光は誰にでも 迷うことなく降ってくる>と歌われているように、Emeraldは光とその裏側にある影を見つめながら、愛や生を歌い続けてきたバンドでもある。先日宇多田ヒカルがOBKRこと小袋成彬のデビュー作をプロデュースしたことが発表されたが、いずれ中野陽介を、Emeraldをプロデュースしても、僕には何ら驚きではない。

(撮影=Chihiro Kudo)

■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。

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