BRIAN SHINSEKAI × フルカワユタカ対談 2人の音楽家が邂逅し生まれた「東京ラビリンス」

BRIANとフルカワの邂逅

全体のテイストにはすごく「和」の要素がある(フルカワユタカ)

ーーリアルサウンドではレコーディング当日に写真撮影にも入らせていただきましたが、実際に現場でレコーディングをしてみての感想はどうでしたか?

BRIAN:僕はバンドのレコーディングもしたことがないので、(その様子を見ながら)「こんな風にグルーヴが生まれるんだ」と感動しました。僕が作ったトラックの上にフルカワさんのグルーヴが乗っかってうごめいてくるという感覚がすごく面白くて。もともとかっちりしたシークエンスが特徴的な曲の中で、唯一生き物として鳴っているのがフルカワさんのギターと僕の声なので、音源の中に“生物を絡めることができた”と思いました。

フルカワ:ああ、よかった。僕自身、求められているのはそこだと思っていたんですよ。僕が弾いたことでエレクトロニックな曲に生音の揺れが生まれる、ということで。そこで、今回は音を切り貼りするのではなく、僕のテイクはすべて通しで弾かせてもらいました。僕はパンチインが下手で、演奏しているうちにプレイがだんだん良くなるタイプなんですね。1分くらい弾くとだんだん良くなってきて、4分ぐらいするとものすごくよくなる。だから、「パンチインするなら4分前からやらせてください」と言って演奏させてもらいました。

ーーなるほど、それでグルーヴに熱が感じられるギターサウンドになったんですね。

BRIAN:とてもありがたかったです。僕自身、DOPING PANDAやソロの作品で聴かせていただいているものともまた違うフルカワさんの演奏を自分の楽曲で聴けた感じもしていて、ギタリストとしての懐の深さを改めて感じられたのもすごく嬉しかったです。

ーーフルカワさんは他に、演奏面で気をつけたことはありますか? たとえば、歌との兼ね合いもかなり気にされているように思います。音源を聴いて、BRIANさんの歌とフルカワさんのカッティングギターが掛け合うように鳴っているのが印象的だったので。

フルカワ:そこは一番意識して弾きました。レコーディング時には既に入っていた彼の歌自体に、ぐっとストレートながら訛りや粘りのようなものを感じたんですよ。それで、僕もそこを追っかけようと思ってギターを弾いていきました。

BRIAN:そういえば、この曲だけ歌い方の粘り気がかなり違うんですよ。他の曲はタイトにしようと意識して歌っているんですけど、この曲はむしろ流れるように歌おうと思って。それはフルカワさんのギターが入ることを想定して準備を進めていったからかもしれません。フルカワさんは2〜3回のプレイでOKテイクを出してくださって、その時点でばっちりのものにしてくださったので、そのあとは特に何も変えることなく曲が完成しました。

フルカワ:あと、僕はこの曲には「和」の要素もすごく感じました。これはなぜなのかな? ナイル・ロジャース的な要素はカッティングに表われているけれど、歌のこぶしも歌詞の内容もすごく日本的で、全体のテイストにはすごく「和」の要素があると思う。

BRIAN:確かに、“歌謡”という要素にはこだわりました。他の曲には北欧やインドをテーマにした曲もあるんですが、この曲だけは日本ということにこだわって、洋楽テイストなメロディよりもオリエンタルな雰囲気を出そうとした曲なので。というのも、僕は渋谷や表参道あたりで学生時代を送ってきたので、そういう要素も作品に入れたいと思ったんですよ。そこで渋谷の雑踏からR&Bを連想して、ロックやポップスではない引き出しで作ってみたら、新しいものが見えるんじゃないかと思ったのが「東京ラビリンス」です。アルバムがかなりコンセプチュアルな中で、この曲を入れることでただの非現実な話ではなく、若干ノンフィクション/ドキュメンタリー的な要素も入れたいと思っていました。

ーーなるほど。アルバムに世界の様々な場所や神話のモチーフが登場する中で、この曲は「東京」の部分を担っている。だからこそBRIANさんが育った渋谷の風景や、フルカワさんの人間的なグルーヴを取り入れるのが重要だったということですか?

BRIAN:まさにそういうことで、だからこそこの曲には“手触り感”がほしいと思っていました。アルバムの中で聴くと本当にガラッと印象が変わる曲になっていると思います。

フルカワ:(トラックリストを見ながら)本もよく読むの? 「(首飾りと)アースガルド」みたいな北欧の言葉、僕は全然知らないから。「ゴヴィンダ」というのは?

BRIAN:「ゴヴィンダ」はインドのクリシュナ神(サンスクリット語で「すべてを魅了する者」という名前を持つ神)の別名ですね。

ーーKula Shakerの「Govinda」にも登場しますよね。あの曲の〈Govinda Jaya Jaya〉というフレーズへのオマージュにも取れる歌詞が、今回の「ゴヴィンダ」にも登場します。

BRIAN:実は僕はKula Shakerが好きなんですよ。なので、そのままですね(笑)。

フルカワ:あと、今回は自分でもマスタリングをしたんでしょ?

BRIAN:3分の2くらいは自分でやりました。完成イメージがあまりにも明確に自分の中にあったせいで、当初は何度かマスタリングを往復してたんですけど、何度もマスタリングしていたら大変なことになっちゃうので、それだったらいっそのことマスタリングも自分でやってみようかなと思って。途中からは自分でやることが多くなっていきましたね。サブスクリプション先行で1曲ずつ出していくということで、ちょっとずつ作業を進める形だったので、途中からはマスタリングも自分でやれたほうがいいなと思ったんです。自分が聴いてきた、それこそPet Shop BoysとかUnderworldみたいな大御所のような音の質感が気持ちいいという自分のイメージがはっきりとあったので。

ーーそういうところまで関わっていく大切さってありますよね。

フルカワ:僕も以前はかなり関わってました。ジャケまで全部指示を出して、全部自分でって。そこを1回やりきると見えてくるものがあると思います。ただ、僕の場合はその先で行き詰まっちゃったんで、今は色んな人とやるし、180度変わりました。昔はね、全部純粋に自分が考えたことでやっていかないと自分の本性が作品に表われないと思っていたんですよ。「人と交わるのは、自分の頭の中で本当に納得できないと無理だ」と思ってた。でも今は逆に、自分が引っ張り出せないものを他の人が引っ張り出してくれるなと思う場面が多くて、人とやったほうが「こんな自分があったんだ」と分かったりする。だから今回、僕がギターを弾いてBRIANの曲が変化していたとしたら、それはすごく嬉しいことですね。

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