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柳樂光隆の新譜キュレーション:特別編

柳樂光隆が選ぶ、“ジャズ・ボーカル充実”の2017年に聴くべき10枚

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・V.A.『The Passion Of Charlie Parker』
・Sarah Elizabeth Charles『Free Of Form』
・Becca Stevens『Regina』
・Rebecca Martin & Guillermo Klein『The Upstate Project』
・Theo Bleckmann『Elegy』
・Jen Shyu『Song of Silver Geese』
・Gregory Porter『Nat King Cole & Me』
・Cecile Mclorin Salvant『Dream & Daggers』
・Jazzmeia Horn『A Social Call』
・Dee Dee Bridgewater『Memphis…Yes, I’m Ready』

 

 今年も素晴らしい作品が多かったが、聴き逃しの再確認促し的な意味も込めて、ボーカルに絞って紹介してみようと思い、選んだ10枚が上記のもの。順位はつけてないです。

 近年のジャズの傾向として、長年軽視されてきたボーカルが重要な役割を担うようになったことがある。それはおそらくボーカリストたちの技術の向上や新たな音楽に挑むミュージシャンたちが、「声」の持つ、楽器では得られないテクスチャーを求めるようになったこともあるはずだし、そのテクスチャーを自在に操り、バンドの演奏と共にアンサンブルできるセンスや技術を持ったボーカリストが出てきたことも、その理由にあるはずだ。

V.A.『The Passion Of Charlie Parker』

 例えば、チャーリー・パーカーをオマージュした企画盤『The Passion Of Charlie Parker』は、デヴィッド・ボウイ『★』にも起用されたダニー・マッキャスリンやマーク・ジュリアナ、ベン・モンダーらがチャーリー・パーカー由来の曲を、ビバップとは全く違う手法で演奏して現代的に聴かせる作品だが、ほぼ全曲にボーカリストが起用されていて、それがどれもこれもゲスト的に歌を乗せているのではなく、バンドのサウンドに溶け込む歌が聴ける。その歌唱はLambert, Hendricks & Rossに代表されるような“ボーカリーズ”という手法に近いやりかたが多く見られる。つまり、ジャズミュージシャンたちの楽器によるソロに歌詞をあてはめたり、スキャットに置き換えたりして、楽器奏者の演奏と同じ地平で歌を捉えるやり方だ。これは昔からあるもので、ある意味ではオールドスクールな手法ともいえる。ただ、それぞれのボーカリストたちは実にスムースかつしなやかに歌を乗せていて、技術を誇るような素振りは全く見えない。さらに、ダニー・マッキャスリンらのバンドのサウンドにおける一員としてふるまっていて、歌とバンドの関係の密接さや洗練の度合いは以前にあった“ボーカリーズ”などとは違うレベルに達しているのがよくわかる。このアルバムはカート・エリングのような中堅から、グレゴリー・ポーターやルシアーナ・ソウザのような実力派、キャンディス・スプリングスやカミーユ・ベルトーのような新星もいるが、全員が高い水準にあって、それぞれが個性的だ。今のジャズシーンにおけるボーカルの隆盛をわかりやすく示してくれるアルバムだと思った。

 たとえば、ジャズやフォーク、インディーロック、R&Bなどの要素が入り混じりながらもどこにも置きどころがないようなサウンドも面白いサラ・エリザベス・チャールズは、よりシンガーソングライター的な存在だし、ベッカ・スティーブンスのように超絶的な歌唱を自身の声の多重録音やジェイコブ・コリアーなどの多様なゲストとのコーラスワークなどで活かす作曲家寄りのボーカリストもいる。意外だったのはレベッカ・マーティンで、これまではジャズボーカル寄りのものや、ロックやフォーク寄りの作品が多かったが、アルゼンチンの作曲家ギレルモ・クラインとのコラボレーションでこれまでになかったリズミックなアプローチやメロディーやハーモニーに挑んだ、意欲作にして傑作をリリースした。

 また、ドイツ出身で声楽やオペラなどの歌唱法とエレクトロニクスやエフェクトなどを使うセオ・ブレックマン、中国や韓国、台湾、東南アジアなどの音楽を学び自身の歌唱に取り入れた、独特の歌と即興が印象的なアジア系アメリカ人のジェン・シューは「声」そのものの可能性を追求しているボーカリストの最前線にいると言ってもいいかもしれない。セオにはシャイ・マエストロやベン・モンダーと、ジェン・シューはスティーブ・コールマンやアンブローズ・アキンムシーレと共演しているので、現代ジャズからスムースに入れるシンガーでもあり、そういったアーティストの演奏との溶け合うさまを聴くといいかもしれない。セオ・ブレックマンはシャイ・マエストロ『Stone Skipper』でも素晴らしい歌唱を聴かせているので、併せて聴いてみてもらいたい。

 一方で、気になっているのが、オールドスクールなボーカリストたち。お馴染みのグレゴリー・ポーターをはじめ、近年大きな注目を集めてきたセシル・マクロリン・サルヴァントやジャズミア・ホーンのように、ジャンルが混じり合うことに慣れてしまったこのご時世にジャズボーカルど真ん中のスタイルで押し切るボーカリストが出てきた。でも、セシルやジャズミアは共に(グレッチェン・パーラトも過去に優勝している登竜門)『セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション』の優勝者。ただ保守的に過去のスタイルをやっているわけではなく、圧倒的に高い歌唱技術や絶妙にディテールをアップデートしたサウンドで全く古さを感じさせないし、焼き直し感も感じさせないのが肝。セシルは以前にアーチー・シェップの『Attica Blues』のリメイク盤でも好演していて、彼女が入るとオールドスクールなサウンドでもフレッシュな雰囲気が加わるのが気になってから、ずっと追っている。この流れは個人的にすごくフレッシュに感じ、よく聴いてました。

 最後に、ベテランもいい作品を出している。現在のボーカリストたちのルーツの一人でもあるディー・ディー・ブリッジウォーターはジャズを軸にしながらも、相変わらず様々なジャンルを楽しんでいて、新作は自身のホームタウンのメンフィスをテーマに、アメリカ南部の匂いが入った、渋いソウルやブルースの世界へ。選曲が最高で、ティンバランドが手掛けたミッシー・エリオットの名曲「The Rain」でサンプリングされていたアン・ピーブルズの「I Can’t Stand The Rain」など、ヒップホップ以降の世代にもグッとくる選曲は、セオ・クロッカーなど、グラスパー以降の世代の若手を引き連れてツアーをしているディー・ディーならでは。カーク・ウェイラムがプロデュースした本作はゴスペル経由のジャズが目立つ近年のUSジャズと接続させて聴いてみると、別の側面が見えるかも。

 という感じで、今年はボーカルの充実した年でもありました。来年はどういう方向へ向かいそうかの話を少しすると、個人的には、USではトランプ以降の流れからヒスパニック系のミュージシャンが熱い作品を出してくれる予感も。今年はアントニオ・サンチェスやファビアン・アルマザンがその流れで良作を出したので、更にパワフルな作品が続くことを期待したい。

■柳樂光隆
79年、島根・出雲生まれ。ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。「Jazz The New Chapter」監修者。CDジャーナル、JAZZJapan、intoxicate、ミュージック・マガジンなどに寄稿。カマシ・ワシントン『The Epic』、マイルス・デイビス&ロバート・グラスパー『Everything’s Beautiful』、エスペランサ・スポルディング『Emily’s D+Evolution』、テラス・マーティン『Velvet Portraits』ほか、ライナーノーツも多数執筆。

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