agehaspringsが『Open Lab.』で伝えた“音楽の奥行きと楽しさ”

agehaspringsが伝えた“音楽の奥行き”

 玉井のダイレクションと百田のエディットによって実際のボーカルは強弱がハッキリと付き、聴いていてドキッとさせられるような抑揚の付け方が増したに加え、イベント開催中の約2時間弱の間にエディット・トリートメントのみならずアレンジも施され、ピアノと打ち込みのストリングス、ドラム、ベースを足したサウンドに。丁寧にコーラスまで加えているという充実ぶりだ。「入れすぎだよ(笑)」と思わず百田につっこむ玉井。「歌を直す作業じゃなくて、『こうしたかっただろう』とか『こうであるべき』という提案をして、補っていかなければ。ボーカルはあくまで主旋律で、コードとグルーヴとの関係が大事」というポイントはしっかりと押さえていることを強調した。

 また、百田は「ピッチが外れていても、良いと思ったテイクは選ぶ。ちょっと上めの音を歌っているほうが格好いいと思われたりするので、機械にしっかり合わせるだけだと良くない」と持論を展開し、玉井も「何故人が上めの音に惹かれるか。人間の泣き声って高い音なんですよ。だから自然と反応してしまう」と、テクニカルな補足を加えた。

 イベントの最後には、Moaが「(2人が)絶対怖い人だと思ってたので、レコーディングでわかりやすい説明をしてくれたり、笑わせてくれたりして、『普通の面白いおじさんだ!』とイメージが変わって、曲も違うものになった」とコメント。百田は「最初にデモを聴いて、アコギと歌だけなのにすごいと思ったし、お金をかけただけで良い曲が作れるわけではないと再認識させられた」とMoaの才能を絶賛した。

 そして玉井は、今回のイベント内容が直前に決まったこと、スタッフが尽力してくれたことで実現したことに感謝の意を表したうえで、「音楽自体が不況と言われてるとか、ライブが盛り上がっているとか、そういう縦幅とか横幅じゃなくて、音楽には奥行きの部分に興味を持ってもらって掘ってもらう楽しさがある。僕らがそれを見せるとなると、レコーディングかなと。ゼロからイチの段階を観て貰える機会があると良いなと思って、実現できただけでも大成功です」と総括し、イベントは大盛況のなか終了した。

 今回のイベントは、制作に理解のある立場からは、最も勢いのあるクリエイター集団の手法を知れる催しでもあり、その領域に詳しくない音楽ファンも、音楽の奥行きや楽しみを感じる、意義のある試みだった。海外に比べ、クリエイターの名前が前に出づらい日本の音楽シーンにおいて、このような取り組みが次々に行なわれることは、良質な聴き手や未来の音楽シーンを支える人材の増加にも繋がる。クオリティの高い楽曲を送り出すだけではなく、業界全体の質を向上させるというビジョンを持ったプロフェッショナル集団・agehaspringsによる、次の展開が楽しみだ。

(取材・文=中村拓海/撮影=保井崇志【InstagramTwitter】)

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agehasprings Open Lab.

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