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椎名林檎、提供曲から辿る音楽的な変遷 『逆輸入~航空局~』に見る“音楽家”としての本分

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参考:2017年12月4日~2017年12月10日の週間CDアルバムランキング(2017年12月18日付・ORICON NEWS)

椎名林檎『逆輸入~航空局~』

 今週の1位はKinKi Kids『The BEST』。これまでリリースされたシングルを全て網羅した、タイトルどおりの作品である。個性の違う2人がそれぞれの才能を伸ばしながら活動を続ける彼らは、「アイドル」の定義を拡張する存在として今のシーンで非常に重要な役割を果たしている。今年はデビュー20周年のメモリアルイヤーでありながら堂本剛の突発性難聴という大きなアクシデントにも見舞われたが、節目を経てこの先どんな活躍を見せてくれるのか楽しみである。

 さて、今回取り上げるのは、初登場で3位にランクインした椎名林檎『逆輸入~航空局~』。他のアーティストに提供した楽曲をリアレンジして収録したセルフカバーアルバムで、同種の作品としては『逆輸入 ~港湾局~』以来3年半ぶりのリリースとなった。

 今作で特に話題になっているのが、SMAPに提供した「華麗なる逆襲」。今作リリース時に椎名林檎から発表されたSMAP再結成を願うかのようなコメント、昨年末の『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)の通常放送ラスト回における「青春の瞬き」の歌唱(およびその後の紅白で披露された、“再結成”した東京事変による同曲のパフォーマンス)、さらに“逆襲”としか言いようのない『72時間ホンネテレビ』(AbemaTV)での元SMAP3人のカムバック、そしてその『72時間ホンネテレビ』を放送したAbemaTVでの『逆輸入 ~航空局~』に関する特別プログラムの放送、などなど深読みするなと言う方が無理なくらいの複雑なコンテクストが含まれた1曲となっている。もちろんそんな文脈を気にせずとも、ストリングスとホーンが優雅に使われたディスコテイストのこの曲(原曲のワイルドなムードを残しつつ、より繊細な雰囲気もまとっている)は、今作の一つのハイライトとなっている。

 「華麗なる逆襲」以外の曲も聴きごたえ抜群の今作だが、このアルバムの凄さを端的にまとめると「セルフカバーアルバムでありながら、実質的に椎名林檎のベストアルバムのような趣がある」ということになるだろう。前述した「華麗なる逆襲」のディスコテイストから始まり、彼女の初期楽曲にも通ずるノイジーなギターが鳴り響く「野性の同盟」(柴咲コウへの提供曲)、情念を感じさせる演歌的な世界ががっつり展開される「暗夜の心中立て」(石川さゆりへの提供曲)、クラシカルなムードが英語詞によってより強調された「おとなの掟」(ドラマ『カルテット』(TBS系)の主演俳優4人によるユニット・Doughnuts Holeへの提供曲)、ミュージカルっぽい華やかさのある「人生は夢だらけ」(高畑充希出演のかんぽ生命「人生は、夢だらけ。」CMソング)、シンプルなアンサンブルからジャジーに展開する流れの中に緊張感を漂わせる「少女ロボット」(ともさかりえへの提供曲。「少女」をモチーフにしたこの曲が東京事変時代も含めて繰り返しカバーされるというのも個人的には興味深い)など、他者への提供曲を通じて彼女が辿ってきた音楽的な変遷を今回のアルバムで理解することができる。

 オリンピックに関する活動など、ややもすれば「政治的」な視点から語られることも最近では増えてきた椎名林檎だが、やはりその本分は「音楽家」であるということを改めて思い起こさせてくれるのがこの『逆輸入~航空局~』である。メジャーデビューからまもなく20年経つ彼女が、いまだに新しい表現に対して貪欲に向き合っている。そんなプロセスをリアルタイムで目撃できるのは、とても幸せなことだと思う。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題に。2013年春にQUICK JAPANへパスピエ『フィーバー』のディスクレビューを寄稿、以降は外部媒体での発信も行っている。
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