ぼくのりりっくのぼうよみが問う、音楽表現で大切なもの「クオリティを無視するのは絶対ダメ」

ぼくりりの”音楽至上主義”宣言

パッと聴いて好きになってもらえるのが一番うれしい

ーー今作全体として、もちろん明るいことも歌われているのですが、必ずどの曲にも痛みの部分があるというか、言葉がシビアだな、という印象がありました。

ぼくりり:そうですね、確かに能天気に幸せな曲はないというか。

ーー一方で「罠」みたいな曲は、ある意味、人との“駆け引き”を歌っているわけで、こういうものはひとつのポイントなのかなと。

ぼくりり:そうですね。これまであまりやってこなかったので。単純にまだ開けてない引き出しがめちゃめちゃあって、いろいろ開けてくぞ、っていう感じです。

ーーこういう歌詞は、自分の記憶を辿って書くのか、それともストーリーテラーとして書くのか。

ぼくりり:リアリティというよりは、想像して書いている感じですね。

ーー例えば、マンガや映画を参照して歌詞に落とし込む、ということは?

ぼくりり:1stの『hollow world』の中には、めちゃめちゃ好きなマンガのオマージュというか、かなり影響を受けて作った曲があったりしますね。ただ、直接の影響みたいなものは特にないかな。

ーーなるほど。音楽的なところでいうと、歌の魅力がすごく出ている作品ですね。

ぼくりり:ラップをあんまりしてないですからね。本当にこだわりみたいなものがどんどんなくなってきて、なんでもいいか、みたいな。この曲を正解に近づけるためにはここでラップをするのが正解だし、逆にラップをしないのが正解だし……みたいなふうに積み上げていった結果という感じですね。

ーーライブを見ていると、歌でオーディエンスを引きつけているし、最初のころよりシンガーとしての自信も感じます。

ぼくりり:そうかもしれないですね。歌って、うまい人は際限なくうまいというか、天井知らずじゃないですか。そういう意味で、最初は自分が歌うことへの引け目みたいなものもあってーーこれまで散々歌ってきて何言ってんだ、という感じですけど(笑)。でも、別に関係ないなと思って。普通にうまい方だと思うし、歌をやろうかなというふうにちゃんと思えたんですよね。

ーー「罠」などはとても官能的な歌い方になっているし、楽曲ごとの表現があって。以前のインタビューで「文脈に頼らず、歌そのもので勝負したい」と言っていたことを思い出しました。

ぼくりり:有言実行じゃん! 自分えらい。でも、やっぱり文脈に“頼る”のは、言ってしまえば、ズルですからね。ぼくは、自分が歌う上でぼくのことを考えながら聴いてほしいとは思わないんです。“ぼくりりだから聴く”とかーー要するに、音楽の前に人間が来ないでほしいんですよ。この人の歌だから聴こう、じゃなくて、聴いてよかったか悪かったかだろうと。別にいいんですけど、ちゃうやん、みたいな。名前もわからないのに、パッと聴いて好きになってもらえるのが一番うれしいな、という感じがしますね。

ーーなるほど。歌のルーツにもいろいろあると思うのですが、やはりブラックミュージック、R&Bの要素が強くて、ロック、バンド系のラインではないですよね。

ぼくりり:バンドとかロック的なものって、全然通らなかったんですよ。多感な中高生の時期は、それこそボーカロイドとか聴いてたので。

ーーいまはアメリカのチャートもラップが席巻していて、かえってそっちに近くなっているかもしれませんね。

ぼくりり:どうなんでしょうね。ぼくもそんなにラップを聴いていたわけでもないし、自分のルーツみたいなものは難しいなという感じで。でも最近そのことを考えてみたら、ボーカロイドってけっこう面白いなと思うんですよ。ボカロって、要はひとつのシンセサイザーなわけじゃないですか。ひとつのシンセを軸に、いろんな人がいろんな音楽を作る。そうすると、本来はジャズとかロック、ポップスみたいに分けられていくと思うんですけど、それが「初音ミク」とか「鏡音リン・レン」みたいなかたちで一緒くたにカテゴライズされて、同じ場所に転がっていたのがけっこうデカいのかなって。一時期は、ボカロを通じて民族音楽をずっと聴いていた時期もありましたし、ひとつのシンセを軸にいろんな音楽をいっぱい聴けた、というのは音楽家としての強みのひとつかもしれないと思いました。

ーーボーカル自体はシンセなわけで、ある意味、曲を聞くための媒介みたいなところも?

ぼくりり:でも、ぼくはボーカロイド自体が歌っているのを聴いていたというより、その曲を人が歌ったものを聴いていたので。いわゆる「歌ってみた」ですね。そこでは、一人の歌い手が色んなジャンルの曲を歌うことが当たり前の環境でした。いろんなものをいろんなかたちで表現できるっていう適応力は、そこからつながってきたのかなと思っています。最初からR&B的なものをメインでやろうとは思っていなかったし、あくまで選択肢がたくさんあるなかでいろいろやって選んでいったらこうなった、という感じですね。

ーー今回の楽曲は、多くの曲を集めたなかから選んだんでしょうか。それとも、最初から8曲くらいだったのか。

ぼくりり:もう、最初から「8曲やるぜ!」って言って、「8曲できました、完成!」みたいな感じでしたね。

ーーSOILで始まりSOILで終わる、ちょうどいい8曲で、いろんな曲があるのにまとまっているというか。

ぼくりり:そうですね。逆に統一感のなさで統一されているみたいな。「For the Babel」なんて、最初に聴いた人はビックリすると思いますけど。イントロを聴くたびに、毎回ウッってなります。

ーーあらためて全体的なことを聞きたいのですが、これまでのぼくりりの音楽は、わりとインターネットのリアリティというところに根ざしていたと思います。ネットに対する偏見に対して釘を刺す、というものもありましたが、今回はそういうものを取っ払った印象がありました。より普遍的なテーマに向かっているのかな、と。

ぼくりり:インターネットについて歌った曲はないですよね。表現そのものとか、表現で生きていくことについてはけっこう歌ってるんですけど。「Butterfly came to end」もそうだし、「For the Babel」なんかは、人の創作物を安全地帯からディスっていた人が、やりたいことが見つかっていろいろやってみたら過去の自分みたいなヤツからめちゃめちゃ石を投げられて辛い、でも頑張るぞ、みたいな曲だったり。「たのしいせいかつ」は完全に病んでるし。

ーー<機械になろう><植物になろう>ですからね。『Noah’s Ark』はどちらかと言うと、そこから覚醒せよ、というアルバムだったと思うのですが、メッセージは変わっていなくても、今度はまた違う視点になっていて。

ぼくりり:やっぱり押し付けるのが嫌なので。あんまりそういうことにこだわっても疲れちゃうし、みたいな。言葉はきついけど、視点としてはもう少しカジュアルになっていると思います。

ーー逆に言うと、カジュアルで心地いいサウンドの中に、言いたいことはすごくある、というのが伝わてきます。少し角度を変えて質問してみましょう。最近ぼくりり的に許せない、みたいなものはありますか?

ぼくりり:そうですね、音楽って、人によって比率が違うけど、アートとエンタメがブレンドされているものだと思うんですよ。それがどちらの軸に傾いても全然構わないんですけど、アートとエンタメというのがx軸だとしたら、それとは別にクオリティというy軸があるじゃないですか。多様性は認められるべきだけど、クオリティを無視するのは絶対ダメだな、と思うんです。そういうことも、ちょっとはっきり言っていかなきゃなーと。

ーー多様性が隠れ蓑になって、質が問われないのはおかしいと。

ぼくりり:それはちょっと悪質だなと思うんです。音楽も含めて、表現ってそのy軸(クオリティ)が評価しにくいじゃないですか。で、やっぱり多様性という言葉は強力なので、否定しづらい空気が生まれてしまった。これが食べ物だったら、腐っているものは売っちゃいけない、というのが明らかに分かるけれど、“腐っている音楽”というのは判断しづらい。でも、ダメなものはやっぱり淘汰されていくべきだなというのはちょっと思います。そういうことを考えるなかで『Fruits Decaying』を聴いてみたら、めちゃめちゃ名盤じゃん! と気づいたんですよね。ぼくはこれまで、いろんなことに興味があって、支えてくれる人もいるから、いろんなことをしちゃってきたけど、そのなかで、音楽への自分の信頼みたいなものを少し失ってきたところがあって。ぼくの音楽自体がすばらしいというより、いろんなことができるのが武器だしな、って勘違いしていたんです。でも、「そんなことないわ!」と。ぼくの音楽はちゃんと卓越したひとつのアートとして、ちゃんとレベルが高いし完成されているなって。自分の口で言うのは恥ずかしいんですけど、そういうふうに再確認して、自分の音楽にプライドを持ってやっていくぞ、と決意しました。

ーー実際にポップミュージックとして質が高い楽曲が並んでいるし、それこそ、仮に匿名であってもちゃんと聴かれる作品です。

ぼくりり:前まではわりとバックグラウンドミュージック感もあったりして、例えば「sub/objective」なんかは聴き取れないことによる気持ちよさみたいなものもあったと思うんです。まあ、それはそれでいいんですけど、今回はどちらかというと音楽が主人公で、音楽を聴かせよう、という感じで作ってみました。

ーー「ぼくりり」が世の中に出てきたとき、インタビューでも雄弁にいろんなことを話すし、年齢にもインパクトがありましたよね。そのなかで見過ごされていたかもしれない音楽至上主義者という面、音楽にすごく打ち込んでいることが今回のアルバムで伝わるのでは?

ぼくりり:そうですね。ぼく、めっちゃ音楽が好きなんですよ。誤解されないように、もうちょっと素直に、ストレートに音楽が好きですって言っていこうと思います!

(取材=神谷弘一/写真=三橋優美子)

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 サイン入りチェキプレゼント

ぼくのりりっくのぼうよみのサイン入りチェキを2名様にプレゼント。応募要項は以下のとおり。

<応募方法>
リアルサウンドの公式Twitterをフォロー&本記事ツイートをRTしていただいた方の中から抽選でプレゼントいたします。当選者の方には、リアルサウンドTwitterアカウントよりDMをお送りさせていただきます。
※当選後、住所の送付が可能な方のみご応募ください。個人情報につきましては、プレゼントの発送以外には使用いたしません。
※当選の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。

<応募締切>
12月5日(火)まで

『Fruits Decaying』

■リリース情報
3rdアルバム『Fruits Decaying』
発売:11月22日(水) 

<商品形態>
【初回限定盤A】(CD2枚)¥2,800+税 
特典:久しぶりに歌ってみたCD (2tracks)

【初回限定盤B】(CD2枚+DVD)¥4,000+税
特典1:久しぶりに歌ってみたCD (2tracks)
特典2:ぼくりり Live DVD 2017.05.21 @新木場STUDIO COAST(5tracks)

【通常盤】(CD1枚)¥2,500+税

<全形態共通特典>
特典:ぼくのりりっくのぼうよみ LIVE TOUR(2018年2月4日〜)チケット先行抽選予約案内封入。
受付日時 : 11月22日(水)12時00分〜12月3日(日)23時59分

<収録曲>
01. 罠 featuring SOIL&”PIMP”SESSIONS
02. 朝焼けと熱帯魚
03. Butterfly came to an end
04. For the Babel
05. SKY’s the limit
06. playin’
07. つきとさなぎ
08. たのしいせいかつfeaturing SOIL&”PIMP”SESSIONS

<配信>
主要配信サイト、サブスクリプションサービスにて同日配信予定。

先行配信シングル「罠 featuring SOIL&”PIMP”SESSIONS」は、iTunes Storeほか主要配信サイトおよびApple Music、dヒッツほか定額制聴き放題サービスで好評配信中。

iTunes Storeではアルバムのプレオーダーを受付中。

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■ライブ情報
『ぼくのりりっくのぼうよみ TOUR 2018』
2月04日(日)神奈川:Yokohama Bay Hall
2月10日(土)北海道:札幌 PENNY LANE24
2月12日(祝/月)宮城:仙台 Rensa
2月17日(土)愛知:名古屋 DIAMOND HALL
2月18日(日)大阪:なんばHatch
2月21日(水)広島:HIROSHIMA CLUB QUATTRO
2月24日(土)福岡:福岡 DRUM LOGOS
2月25日(日)香川:高松 オリーブホール
3月15日(木)東京:EX THEATER ROPPONGI

■関連リンク
ぼくのりりっくのぼうよみ オフィシャルサイト

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