Age Factoryは、ただ自分たちの音を追い求めるーー『RIVER』ファイナルワンマン新宿LOFTレポ

Age Factoryが追い求める“自分たちの音”

 新作『RIVER』のリリースとともに行われたAge Factoryの全国ツアーのファイナルワンマン(2017年11月2日/新宿LOFT)。ライブの終盤、ギター・ボーカルの清水エイスケはこう言った。

「今回の『RIVER』ツアーで、いろんなバンドと全国を周ってきて。結果として、誰のこともバカにしているわけではなくて、ただ、そのなかにも許せない人、許せないこともあって。そこでちょっと考えるというか、自分のなかでAge Factoryというバンドとどう向き合っていくか、どうやって今後やっていくんかなって思ったときに、この先どうなるかは誰もわからないし、時代も変わっていくんですけど、俺たちは誠実に、ただ真っ直ぐに好きな音楽、好きな歌詞を出して、俺たちのことを好きな人に届けばいいと思いました。それ以外の余分な要素は必要無い気がしました」

 “おまえらにもっといい景色を見せたい”とか“一緒にがんばっていこう”とか“ここが俺らとおまえらの居場所”とか、最近のバンドが言いそうな軽い言葉は一切ない。清水が話したのは“許せないことがある”という事実と“ただ真っ直ぐに好きなことをやり、それを好きでいてくれるリスナーに届ける”という意思。そしてこの切実な言葉は、Age Factoryというバンドの根本的な姿勢を端的に示している。

 奈良在住の3ピースバンド、Age Factory。メンバーの清水、西口直人(Ba)、増子央人(Dr)は全員20代前半だが、彼らのサウンドには80年代から90年代あたりのオルタナ、ハードコアパンク、ポストパンクなどの影響が色濃く反映されている。筆者が最初に惹かれたのは、その音楽性だ。ダンサブルで享楽的な楽曲によって一体感を演出しようとするバンドが多いなか、Age Factoryの音楽は明らかに異質であり、孤高とすら言える。誰にも媚びず、自分たちの精神性、価値観を示すメロディ、言葉、サウンドを追求するーーその切実なスタンスと強くリンクしたのが、現在の彼らの音楽性なのだと思う。


 この日のライブからも、彼らの確固たる姿勢がはっきりと伝わってきた。軸になっていたのは新作『RIVER』の楽曲。ハードコアパンク直系の疾走感とノイジーなギターサウンドがぶつかり合う「OVER DRIVE」「siren」、そして〈孤独であれ 人よ/孤独であれ 街よ/孤独であれ 君よ/孤独を抱え行け〉というラインが響き渡る「RIVER」。ライブの前半に怒涛のごとく放たれたこれらの楽曲は、現在のAge Factoryのモードに直結している。以前のインタビューの際に清水は「他のバンドと群れようとはまったく思っていないし、むしろ自分たちから一匹狼になろうとしてる」「ふだんの生活もそうなんですけど、疑問を抱くこと自体が重要だと思うんですよ。何も考えずに生きるよりも、違和感を抱えていたほうがおもしろいと思う」と話していたが、その考え方、生き方が楽曲とまっすぐにつながり、ライブという場所で観客ひとりひとりの感情を揺さぶっているのが手に取るようにわかる。

 今回のツアーによって3人のアンサンブルもさらに強固になっていた。アタックの強さと爆発的な疾走感を併せ持った増子のドラム、タイトなルート弾きとメロディアスなフレーズを使い分けながら楽曲のボトムを支える西口のベース、そして、爆音ノイズから繊細なアルペジオまで幅広い表情を描き出す清水のギター。観客を煽ることも「一緒に歌おう」的なこともなく、ステージの上で自分たちの音を追い求めるAge Factoryのライブの在り方は求道的とすら言える(ステージを降りた3人は、くだらない会話で盛り上がっている若者なのだが)。



 一方で、人間らしい叙情性が感じられる楽曲もこのバンドの魅力。それを象徴しているのがやはり新作『RIVER』に収録されている「SUNDAY」だ。「奈良が好きなんで。ふだんの日記というか、そんな曲です」(清水)と紹介されたこの曲は、穏やかで美しいメロディラインとともに、恋人同士の穏やかな休日を描いたナンバー。この日はレコーディングに参加した京都のバンドCrispy Camera Clubのミサト(Vo)も登場し、この楽曲が持つ“何気ない幸せの素晴らしさ”がまっすぐに伝わってきた。「僕らのめちゃくちゃ臭いレコーディングブースにこんなかわいい女の子が来てくれて、空気も和みました」という清水のMCを含め、彼らの素の姿が感じられるシーンだったと思う。

「俺らは奈良にいて、みなさんは東京またはそれぞれの街にいて。変わらないように見えるけど、確実に日々は変化していて。そのなかで俺たちは、あなたちも、自分であるべきだと思います」(清水)という言葉に導かれた「さらば街よ」、〈金曜夜には君と映画を〉と絶叫する「ロードショー」などAge Factoryのアンセムと呼ぶべき楽曲が並べられた後半も圧巻だった。奈良という地方都市に住み、そこで自分たちが成すべきことを必死で考え、音楽という形にする。彼らの楽曲の純粋な激しさ、鋭利な美しさは、3人のストイックな姿勢によって生み出されているのだ。

 モッシュやダイブなどはまったくなく、あまり歓声も上げずにステージを見つめる観客たちの姿も印象的だった。誠実に音楽を生み出そうとしているバンドがいて、それを本気で求める人たちがいる。それはまさにロックバンドとオーディエンスの理想の関係だと思う。その場限りの楽しさで満足している(ように見える)現在のバンドシーンにおいて、Age Factoryの存在は本当に貴重。誰に言われなくてもそうするだろうが、彼らには自分たちが信じる音楽を貫いてほしいと思う。

(文=森朋之/撮影=西槇太一)

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