Beverlyの歌声に宿るスペシャルな魅力ーーシンガーとしての対応力と熱意を読み解く 

Beverly - Empty[YouTube Music Sessions]

 以上のことから見えてくるのはBeverlyというシンガーの対応力と、歌うことに対する純粋な熱意だ。あたたかで普遍性の高いディズニーソングを歌える人でありながら、『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』のようなサスペンスフルなタッチのドラマ主題歌ではそれに相応しい歌唱の表情を見せ、PANDRAでフィーチャーされればEDM的なトラックに乗せてパッションを表現する。そこで求められているものに瞬時に対応できる力が予め備わっているというわけだ。それは単に「歌が上手い」というだけのことではない。どんなムードで、どれぐらいの温度で、どれぐらいの力の押し引きで歌えば、求められているものに合った歌になるのか。それを一瞬で理解する勘の良さがあるということだ。ならば、これからもっとドラマ主題歌やCM曲の依頼は増えていくに決まっている。

 そして、そのように様々な場所でいろんなタイプの曲を歌えることを、彼女自身がとても純粋に楽しんでいるというのも大きい。こういうタイプの歌は私には合わない、なんてことを彼女は恐らく考えることがない。ヒップホップR&BでもバラードでもロッキッシュなものでもソウルでもEDM調でも、洋楽的な曲でも邦楽的な曲でも、どんなものでも歌ってみたい、自分ならどう表現できるかどんどんチャレンジしてみたい。そういう意欲とそれを楽しんでいる様子が彼女の活動の仕方から強く伝わってくるし、10月5日の渋谷WWW公演を観ていてもそれは大いに感じられた。先に記したように音楽フェス以外の「お祭り」などにもフットワーク軽く出演して活き活きと歌うのも、とにかく歌うことが好きで好きでしょうがない、歌を聴いてほしくてしょうがないという非常に純粋な思いが彼女の表現の根っこにあるからだろう。要するに歌える場所がそこにあるということが、彼女にとっては最も幸せに思えることなのだ。

 そんなBeverlyのシンガーとしての個性を、自分はR&Bシンガー的なところとポップ(または歌謡)シンガー的なところの同居であると考える。何しろ歌唱スキルが高く、声の音域の広さもとてつもない上、彼女はブラックミュージックのノリを身体に持っている。ビヨンセやホイットニーを聴いて育ったからなのか、あるいは別の要因があるのかわからないが、とにかく声の出方に弾力性があって、R&B的なグルーブにカラダで乗っていけるシンガーなのだ。自分はそれを10月5日のワンマンで強く実感した。ロックよりもジャズよりもきっとR&Bを好きで聴いてきて、そのノリを体得しているに違いない。

 しかしながら、BeverlyはR&Bシンガーですと言いきってしまうことには抵抗がある。もっと大衆性がある。まあR&B自体、アメリカの大衆音楽ではあるわけだが、だったらこう換言しよう。Beverlyのボーカルは例えば渋谷センター街を歩いている女の子たちにもズバっと響く感覚があるし、郊外で暮らす中高生や20代に響く(または刺さる)感覚もある。要はミュージックラバー以外の人たちにもすぐに親しまれるであろう成分が予め声にあるということだ。わかりやすく書くなら、浜崎あゆみを筆頭とするエイベックスの歴代の女性シンガーたちから受け継がれているような何か。それを歌謡と呼べばいいのかポップと呼べばいいのかわからないが、何しろそういった大衆性と言うべき成分が彼女の歌にはあり、なおかつR&Bシンガー的なスキルとノリもしっかり持っているというそのことがBeverlyの新しさなのではないかと自分は思う。

 そんなことを踏まえて非常に多彩な楽曲の並んだ1stアルバム『AWESOME』を聴くと、確かにこの部分はR&Bシンガー的、この部分はポップシンガー的と感じられるところがあるはずだし、先に述べた彼女の対応力、または柔軟性にも気づくことになるはずだ。例えば……。のっけから圧倒的なハイトーンに驚愕することとなるオープナーの「Tell Me Baby」はとことんポップで、聴いた女の子たちは間違いなくダンスしたくなるはず。太陽のような明るさを持つポップシンガーとしてのイメージ付けがこの1曲で完了するだろう。が、女性ラップも入った続く2曲目「Too Much」はというとヒップホップR&B的なノリがクールで、いわゆるポップシンガーには表現しきれないグルーブが歌に渦巻いていたりする。一方、AORやシティポップに熟達した鈴木雄大が作曲を手掛けて鷺巣詩郎がアレンジした4曲目「Dance in the Rain」などはEarth, Wind & Fire的なホーンがよく効いたブラコンテイストありのポップスで、Beverlyのここでのボーカルは大人のリスナーが反応しないではいられないもの。彼女が10代や20代前半の若い子たちの期待に応えるだけのシンガーではないことがこういう曲でハッキリするのだ。それはミトカツユキが作曲とアレンジを手掛けた「Mama Said」も同様で、ジャズとファンクとロックの要素が入ったこの曲で彼女は心底気持ちよさそうに音に乗りつつ自在に声で高低を行き来する。また彼女の師でもあるベニー・サトルノが作曲した7曲目「今もあなたが…」などはメロディが展開すると共に高く伸びていく歌声がMISIAを想起させたりも。このように強弱と緩急を自在につけながらヒップホップR&Bもソウルバラードもシティポップも豊かに表現できるのが、即ちBeverlyの持つ幅の広さであり、ポテンシャルの大きさであり、紛れもない個性なのだ。

 因みにBeverlyが歌詞を書いた曲もアルバムにはあるが、彼女は所謂シンガー・ソングライターではなく、基本的には作家の手による楽曲を歌う。自ら書くことで自身の世界観を限定してしまったりせず、どんな歌にもチャレンジして可能性を広げていきたい。そういう思いがあるのだろう。昭和の時代には、作家の書いた曲を歌で自分色に染め上げるシンガーがたくさんいた。が、いつの頃からかソロシンガーの多くは自分で詞や曲を書いて歌うようになった。それが当たり前のようになってしまった。それはそれの素晴らしさもあるが、自分で書くだけではそれ以上に世界観を広げるのが難しい。そこへいくとBeverlyはあくまでもシンガーであり、他者の書いた詞やメロディに命を吹き込んで躍動させる人。その才能に圧倒的に秀でた人なのである。述べてきたような対応力と歌うことへの純粋な思いで、これからもいろんな作家のいろんなタイプの曲を歌って、いろんな物語を表現していってほしい。そうやって世界観を広げていってほしい。彼女は歌の力だけでそれができる、今の時代においては稀有なアーティストだから。

 最後にもうひとつだけ。10月5日の渋谷WWWにおける初ワンマンのライブレポートで、自分は彼女の言葉を多めに紹介した。なぜかといえば、まさしくそうした言葉のひとつひとつに彼女の「歌っていくこと」に対する思いが表れていたからであり、そうすることでステージ上とフロアの間にある見えない壁を彼女が取り払ってもいたからだ。好きな食べ物について長く喋り続けるあたりには昭和のアイドルに通じる親近感のようなものもあり、最近の日本のアーティストが失ってしまったものを考えながら、どこか懐かしい気持ちにもなった。12月に行なわれる『Beverly 1st JOURNEY「AWESOME」』の追加公演で、圧倒的な歌ヂカラと共に、そのような彼女の人柄の魅力も感じてもらいたい。そうしたらきっと、Beverlyのことをもっと好きにならずにいられなくなるはずだから。

(文=内本順一)

■ライブ情報
『Beverly 1st JOURNEY「AWESOME」Encore Tour』
12月13(水)大阪 心斎橋JANUS
12月14日(木)東京 赤坂BLITZ

オフィシャルサイト

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