リアム・ギャラガーが『As You Were』で勝ち取った普遍性 全英1位獲得の理由を小熊俊哉が分析

リアム・ギャラガー新作の普遍性

 こうして、様々なバリエーションが用意された『As You Were』は、リアムの底力を改めて思い知らせる、ショーケース的な一枚だと位置づけられるだろう。それと同時に、どの曲もモダンな意匠が施されながら、オアシス及びリアムのロックンロール史観に、必ずどこかしらリンクしている。そういう意味では、キャリアの分岐点に相応しいバック・トゥ・ルーツな楽曲集という捉え方もできるはずだ。

 Beady Eyeのときは、バンドの民主制にこだわりすぎてしまったばかりに、肝心の主役が埋れてしまった。その反省を活かすように、このアルバムはどこを切っても「僕らが待っていたリアム」が溢れ出てくる。おまけに、どの曲も高品質だし、リアムのコンディションも絶好調。しゃがれたボーカルは健在だが、昔よりクリアに落ち着いて聴こえるのは、それだけ年輪を重ねた証拠なのだろう。こうして、往年のフィーリングをほんのり今っぽく響かせた『As You Were』は、名作映画のよくできたリメイク版のように、幅広い世代が安心して楽しむことができる。こう書けば、むしろヒットしないほうがおかしく思えてくるはずだ。

 それでも無理やり難点を挙げるなら、本人のイメージに寄せすぎたあまり、サプライズに欠けるのは否めないだろう。それこそ、11月のニューアルバムに先駆けて発表されたノエルの新曲「Holy Mountain」と比べてしまうと、『As You Were』は少し大人しい印象を受ける。

 しかし、そういった批判すら見越していたかのように、アグレッシブで先鋭的なナンバーも実は用意されていた。それが、同作のデラックスエディションに収録された(日本盤にも収録)「Doesn't Have to Be That Way」。“Tame ImpalaがリミックスしたThe Chemical Brothers”と形容したくなるサイケなダンスチューンは、『As You Were』にもうひとつの可能性があったかもしれないことを仄めかしている。

 リアムは最初のうち、もっと挑戦的で、これまでのイメージを刷新するような作風を模索していたのかもしれない。そちらに向かう前に、足元を確かめ直すようなアルバムを作ろうとしたのなら、その判断は大正解だったと思う。今日的であろうとする前に、リアム至上主義が先にあったから、『As You Were』は普遍性を勝ち取ることができたのだから。ロックンロールスターは、ただ自分らしくふるまえばいいのだ。

(PHOTO BY RANKIN)

■小熊俊哉
1986年新潟県生まれ。ライター、編集者。洋楽誌『クロスビート』編集部を経て、現在は音楽サイト『Mikiki』に所属。編書に『Jazz The New Chapter』『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』『ポストロック・ディスク・ガイド』など。Twitter:@kitikuma3

『As You Were』

■リリース情報
『As You Were』
発売:2017年10月6日
価格:¥2,200(税抜)

ワーナー オフィシャルサイト

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