>  >  > ヒグチアイの“シリアスとコミカル”の二面性

『猛暑ですe.pファイナルスペシャルライヴ〜ハッピーエンドはドラマの中だけ』

ヒグチアイ、『まだまだ猛暑ですツアー』ファイナルで見せた“シリアスとコミカル”の二面性

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 シンガー・ソングライターのヒグチアイが9月28日、ワンマンライブ『猛暑ですe.pファイナルスペシャルライヴ〜ハッピーエンドはドラマの中だけ』を東京・下北沢GARDENで開催した。

 本公演は、弾き語りツアー『ヒグチアイ(夏)ソロコンサート〜まだまだ猛暑ですツアー』のファイナルとして行われたもの。昨年11月にアルバム『百六十度』でメジャーデビューを果たし、今年7月にはミニアルバム『猛暑です e.p』をリリース、『FUJI ROCK FESTIVAL ’17』や『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO』など大型フェスへの出演も果たした彼女にとって、ある意味で今日はこの1年間の“総決算”とも言えるライブだけあり、フロアは開演前から大きな期待が充満していた。

 まずはヒグチが1人で登場し、『猛暑です e.p』から「ラジオ体操」をピアノの弾き語りで披露。キャロル・キングの「(You Make Me Feel Like) A Natural Woman」を彷彿とさせる、アーシーで力強いメロディに乗せた歌詞世界は、切なさとユーモアが絶妙なバランスで混じり合い、ヒグチならではの一筋縄ではいかない“応援ソング”となっている。個人的にも、本作の中で最も好きな曲なのだが、こうして生で聴くと、彼女の声のニュアンスや息遣い、打鍵の強弱などがよりビビッドに伝わってきて、一層感動的だ。中でも低音の迫力は強烈で、ハンマーで打ち鳴らしたようなピアノの音に思わずたじろぎそうになるほどだった。

 初っ端から呆気にとられていると、バンドメンバーがステージに登場し恒例の「自己紹介ソング」で我に返る。『猛暑です e.p』のレコーディングメンバーから、ヒグチの実妹ひぐちけい(Gt)、キタハラユウジ(Ba)、ながしまたかと(Dr)を迎え、リラックスしたムードの演奏に、オーディエンスからは自然とハンドクラップが始まった。<ハッピーエンドはドラマの中だけ>と、「猛暑です」の歌詞の一部であり本公演のタイトルでもあるフレーズを、全員でコール&レスポンスするなど、ほのぼのとした展開に心が解きほぐされていく。そう、前回のライブレポでも書いたように(http://realsound.jp/2017/01/post-10989.html)、ヒグチアイのライブの醍醐味はこの“シリアスでコミカル”という絶妙なバランスにあるのだ。

 「フジロックもライジングもそうだったけど、やっぱり今日も雨だったよね……」と、雨女っぷりを苦笑しながらアピールしてオーディエンスの笑いを取った後は、「夏のまぼろし」を披露。『猛暑です e.p』の中で最も軽快な曲で、4つ打ちのキックに合わせて再びハンドクラップが巻き起こる。突き抜けるようなサビのメロディが、後半で転調すると最初のピークが訪れた。そのまま「妄想悩殺お手ガール」へとなだれ込み、<悩殺! 悩殺!>と全員で連呼。こんなフレーズをシンガロングさせる女性シンガーソングライターも滅多にいないだろう。ともあれ、アトランティック・ソウルを思わせるような軽快なリズムと、まるで雑誌のページをめくるように、セクションごとにクルクルと変わっていくカラフルなアレンジが楽しい。と思えば、続く「みなみかぜ」では、まるで久保田早紀「異邦人」を思わせる、昭和歌謡的な哀愁感を醸し出す。間奏明けのブレイクでは、アンサンブルが破綻するスレスレの緊張感を演出し、フロアからはどよめきにも似た歓声が湧き上がった。

 一呼吸置いて演奏されたのは、メジャーデビューアルバム『百六十度』の冒頭を飾った「誰かの幸せは僕の不幸せ」。優しくも凛としたボーカルと、タメの効いたピアノのバッキングがまるで一つの生き物のように有機的に混じり合い、その隙間を縫うようにバンドアンサンブルが滑り込んでくる。これといった派手なプレイがあるわけではないが、この4人でしか鳴らし得ないグルーヴが確実に存在している。曲の後半では、演奏全体にディレイを少しずつ深くかけていき、壁のようなサウンドスケープを展開するなど、エンジニアとの共同作業による音響的な演出も印象的だった。

 音響的な演出といえば、とりわけ実験的なアンサンブルだったのが、次に演奏された「朝に夢を託した」(アルバム『全員優勝』収録)だ。まるで水面のきらめきのようなピアノの高速パッセージを軸に、うねるディストーションベース、ボリュームペダルなどを駆使したクジラの鳴き声を思わせるギター、雷鳴のごとく轟くドラムが響き合う、美しくも壮大なライブアレンジへと進化を遂げていた。この日、最も大きな拍手が鳴り響いたのも、この曲が終わった瞬間だったはずだ。

      

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