KICK THE CAN CREWのアイデンティティとは? 『復活祭』で示された縦と横のつながり

KICK THE CAN CREW『復活祭』レポート

 結成20周年を迎えた今年にアルバム『KICK!』をリリースし、本格的な活動再開を果たしたKICK THE CAN CREWが、9月7日、日本武道館にて『復活祭』を開催した。


 出演はKICK THE CAN CREWに加え、RHYMESTER、藤井隆、いとうせいこう、倖田來未という面々。筆者としては、実のところ最初にラインナップが発表になった時には「一体どういうことだろう?」という第一印象だった。ワンマンではなく対バン形式のイベントということだろうか? 「復活祭」というタイトルだし、様々な世代やフィールドのアーティストを招いてKICK THE CAN CREWの活動再開を祝するという意図だろうか、と。

 が、フタを開けてみて納得した。これ、単なる「祭り」ではなく、KICK THE CAN CREWというグループが何であるか、どういう歴史の縦の連なりの中に位置し、どういうシーンの横のつながりに広がってきたものであるか、そういうグループのアイデンティティを示すとてもコンセプチュアルなショーだった。そういう意味で、とても感服した。

 また、筆者はその翌日、9月8日に行われた『908 FESTIVAL』も観た。そちらのレポートも当サイトに掲載されているはずだが、こちらはKREVAが中心になり、三浦大知や久保田利伸など豪華なゲストが集ったステージ。もちろん内容は全く違う。しかしやはりKREVAを中心とした「縦」と「横」を感じる構成だった。それゆえに、2日間を通して観ることで、より一層その意図が伝わってきた印象もあった。

 なのでこの記事では、単なるレポートというより、あの日の武道館のステージにあったものを立体的に考察していこうと思っている。


 開演は18時30分。まずはタキシードにシルクハットという服装に身を包んだKICK THE CAN CREWの3人が登場し「全員集合」を披露。挨拶からゲストのいとうせいこうを司会として呼び込む。そのいとうせいこうが、「今日は盛りだくさんなんで、もうずっと盛り上がってください。休む暇ないから!」と呼び込んだのがRHYMESTERだ。

 この時点ではまだ気付かなかったかったのだが、この『復活祭』がいわゆるフェスやイベントと大きく違ったのは、転換がほぼなかったこと。スカパー!で生中継されていたことが理由として大きかったはずだが、オーディエンスを手持ち無沙汰で待たせるようなことは全くない。パフォーマンスの前後では司会のいとうせいこうとKICK THE CAN CREWの3人が登場してトークを繰り広げる。これは翌日の『908 FESTIVAL』でも同じだったのだが、それぞれのアーティストのパフォーマンスがトータルのショーとしてパッケージングされるような構成になっていた。


 RHYMESTERは「ONCE AGAIN」からライブをスタート。自らが2009年に結成20周年を迎えて活動再開した時の楽曲をプレイしたのは、後輩への粋な計らいと言っていいだろう。そこから「ライムスターイズインザハウス」や宇多丸とMummy-Dのアカペラによるラップで力強いパフォーマンスを披露すると、続いては「海の向こうで生まれた文化が日本に根付いて、こんなシーンになってるぜ!」と新作『ダンサブル』からの「Future Is Born」。ヒップホップカルチャーの過去と未来を垣間見せる。



 続いては藤井隆。「私も一緒に楽しませていただいてよろしいでしょうか」と、タキシード姿での登場だ。セットは7月にリリースされたリミックスアルバム 『RE:WIND』からの楽曲が中心で、DJはアルバムのプロデュースも務めたミッツィー申し訳 a.k.a DJ Michelle Sorry。「Quiet Dance feat.宇多丸」では先ほどステージを降りたばかりの宇多丸が登場する。


 そして、この日の一つのハイライトになったのが、「俺にもライブやらせてよ」と登場したいとうせいこうのステージだった。DJを務めるのはMCUの中学生時代の同級生で、KICK THE CAN CREW結成以前にMCUが組んでいたRADICAL FREAKSの盟友であるDJ TATSUTA。2人は30年前の中学生時代にいとうせいこうのステージを観ていたらしく、その時にライブでやったという「東京ブロンクス」を披露。「ヒップホップの初期衝動」、MCUのアルバム『SHU・HA・RI~STILL LOVE~』に収録された「マイク2本 featuring MAC THE SEIKO」と続ける。日本語ラップの文化の原点を垣間見る、とてもスペシャルなライブだった。


 一方、この日はMCでも、「お話を頂いた時は私が誰よりも一番驚いた」と言っていたのが倖田來未。アウェー感があるとも言っていた彼女が見せてくれたのは、ひたすら迫力とパワー感で圧倒するショーだった。「Ultraviolet」から序盤はMCを挟まずダンサーを従え骨太なビートと歌声を叩きつける。火柱が上がる。2002年に北海道のクラブで共演したことを振り返りつつ、歌とダンスで魅了する。ラストの「Poppin' love cocktail feat.TEEDA」までエネルギッシュなステージを見せつけた。

 というわけで、ラストはKICK THE CAN CREW。ここまでのステージで改めて感じ入ったのは、いとうせいこうとRHYMESTERがKICK THE CAN CREWに連なる日本語ラップの「縦」の軸を、そして藤井隆と倖田來未がKICK THE CAN CREWというグループがそれをポップミュージックとしての「横」の幅を象徴していた、ということ。名前だけ並べるとバラバラなメンツだが、このステージ構成の中で見ると必然を感じる。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる