ClariSはなぜこのタイミングで仮面を外したのか? ライブ演出・セットリストから読み解く

ClariSはなぜ仮面を外したのか?

 クララとカレンの呼びかけもむなしく、彼女たちの眼前で元の神木に戻ってしまったKUMA。ここで歌われたのが旅立ちのバラード「泣かないよ」というのも泣かせる展開だ。胸を押さえて別れを惜しむように歌う2人の姿に、こちらの胸もギュッと締め付けられる。だが、彼女たちが見つめるのは〈さよならの先〉にあるもの。続くダンサブルなアップチューン「YUMENOKI」でみずからの夢と希望に向けて前に進む決意を示すと、続く「サヨナラは言わない」で〈離ればなれになるけれど サヨナラは言わない〉と新しい一歩を踏み出す。その曲の終わり、背中を向けて、マスクを外し、煙と共に姿を消す2人。武道館での本編ラストのシーンをそのまま再現した演出だ。だが、この日のライブはここで終わらなかった。

 程なくスクリーンには何冊もの本が映し出され、そこに書かれたClariSの物語が読み上げられていく。〈お菓子の家でのかくれんぼ〉〈初めてお客さまを招きいれた舞踏会〉〈クラルス島に生まれた新しい2つの命〉——これらはもちろん、彼女たちのこれまでの活動の軌跡をなぞらえたもの。最後に一冊の新しい本が登場し、まだ何も記されていないまっさらなページが開かれる。そう、クララとカレンの新しい物語の始まりだ。ステージの階段が左右に割れ、その奥から光に包まれて姿を現した素顔の2人。そのときに彼女たちが発した「みんなー! 会いたかったよー!」という言葉には、どれほどの気持ちが込められていたのだろう。何といっても7年という長い歳月を経て、ようやく本当の意味でファンと対面した瞬間だったのだから。

 彼女たちが素顔で歌う最初の曲に選んだのは「Prism」。この曲はサンリオの人気キャラクター、リトルツインスターズ(キキとララ)とのコラボレーションソングとして2015年に発表されたものだが、冒頭の〈彩る街を飛び越えたら 差し出した手を掴む「やっと逢えたね」〉という歌詞は、まるでこの日のために当て書きされたかのよう。このように数多のタイアップ・ソングをもClariS自身のストーリーに重ねて、ひとつの完成されたショーとしてステージに落とし込む構成力の高さは、この日のライブにおいてもっとも賞賛されるべき要素だったように思う。その筋書きを考え、コンサートの企画や演出を手掛けたのはクララとカレン自身だったということも、改めて強調しておきたい。

 その後、新たな航海を後押しする歌「カイト」で一面青のサイリウムに染まった会場の大海原に歌声を響き渡らせた彼女たちは、スクリーンに投影された鳥かごから解き放たれるイメージ映像と重なって感動的な光景を生んだ「カラフル」で新しい色を獲得し、最後はTVアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』のOPテーマとして知られる代表曲「コネクト」でライブ本編を締め括る。この3曲はClariSに数々の名曲を書き送ってきた渡辺翔の作詞/作曲によるもの。彼女たちの音楽にはkz(livetune)、丸山真由子、重永亮介といった多くの優れたコンポーザーが関与しているが、そのなかで渡辺提供曲をラストに3連続で持ってくる計らいにもグッとくる。

 アンコールは最新シングル曲「SHIORI」のライブ初披露でスタート。珍しくパンツルックの少しラフな格好で登場した2人は、どこかリラックスした雰囲気。ようやく仮面を外してファンに出会うことのできた安堵感が混じっていたのかもしれない。MCでクララは「今年の武道館公演で仮面を外すシーンがあったんですけど、そのときに仮面を外してみなさんにお会いしたい、いっしょの時間をすごしたいなと思う気持ちがすごく強くなりました」と、この日に仮面を外すことを決めた経緯を説明。カレンも「今回のタイトルに〈はじまりのメロディ〉とあるように、またここからが新しいスタートだと思って、もっともっとみなさんの近くで歌を届けていきたいと思っています!」と嬉しそうに語る。そして会場中がオレンジ色のサイリウムで埋まるなか、卒業と新しい門出を祝するナンバー「Orange」が歌われて終幕。その後のエンドロールでは、ClariSの物語の〈Season01〉が完結し、2018年3月29日、30日に舞浜アンフィシアターにて行われるライブより〈Season02〉がスタートすることが発表された。

 ClariSといえば素顔や素性を明かさないミステリアスな活動が話題性のひとつであったろうし、それゆえに生まれる一種の神秘性がアーティストとしての魅力でもある。それは当然本人たちも自覚していたことだろうが、今回、そんな特質をみずから投げ出してまで仮面を外し、素顔を見せた理由は、やはり何よりも応援してくれるファンに感謝の気持ちを直接伝えたいという強い意志があったからなのだと思う。おそらく今後も自身が主催するライブなど限定的な場所での解禁になるとは思うが、ついに神秘のベールを脱ぎ、素顔のままファンと向き合う道を選んだ彼女たちが、今度はどんなストーリーを紡いでくれるのか。いまから次の季節のはじまりが楽しみでならない。

■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。

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