福山雅治が語る、音楽人生で大切にしていること「自分が最初に興奮して感動する人でなきゃ」

福山雅治、音楽人生を振り返る

大事なのはエッセンスだと思う

福山雅治「聖域」(short ver.)

――プロデューサーということで言えば、今回の「聖域」の編曲は福山さんと音楽プロデューサーの井上鑑さんの連名ということになっています。ツアーのバンマスもつとめられているので長い共同制作の関係だと思いますが、どんな感じで制作を進められているんでしょうか。

福山:井上鑑さんとは2000年に出した『桜坂』というシングルのカップリングで泉谷しげるさんの「春夏秋冬」をカバーした時にキーボードで参加していただいて、そこからですね。最初の頃は、僕がギター1本で作ったものを鑑さんにお渡しして、それにアレンジを提案してもらって、やり取りしながら作っていく形でした。そこからだんだんやり方が変わっていって。今は僕がギターや、ドラムや、ベース、いろんな楽器を全て打ち込んだ状態で「こんな感じにしたいんです」というデモのようなものをまず作る。弾き語りだけの状態で「どうしましょう?」と話すこともありますが、ヘッドアレンジ自体を自分で作って、そこからどれを生楽器にしてどれを打ち込みにするかを一緒に考えて作業していくようなことが増えていった。今回の「聖域」もそうです。

――なるほど。ヘッドアレンジもご自身でなさっているんですね。だから音の帯域の話にもなるし、ガットギターやバンジョーのような楽器が単なる味付けではなく、曲の根っ子の部分で必要だという話になる。

福山:最終的なサウンドイメージを持ちながら曲を作っているので。あとは、今回のガットギターがまさにそうなんですけれど、その時その時の発想を刺激してくれる楽器というものがある。初めてギターを持った13歳、14歳の頃は、初期衝動だけで「楽しい! ウキャー!」って曲を作れる。でも、ずっとギターを弾いてると、なんというか長年一緒にいる夫婦や家族、恋人や兄弟みたいな感覚になってくる。だから新しい楽器や新しい音に自分の創作が刺激されるんです。

――そういうこともあって、今回のシングルでは新たな側面を見せることになった。

福山:今回の「聖域」に関しても、最初はいわゆる“クリエイティブ合気道”として、いただいたオファーにいかに応えるかということをやってみようというところから始まっていったんです。ただ、そうやっていくなかで、自分が意識していなかったところで記憶しているものが、出汁のようにして出てくる。これがシンガーソングライターの性だと思うんです。たとえばニューオーリンズのジャズをダイレクトに音楽に反映しようと思っていなかったまでも、それが無意識下で出汁になっている。ソングライティングというのは自分をどんどん煮沸していくような作業だと思っているんです。

――お話を聞いていてとても興味深かったんですが、キャリアを重ねたミュージシャンの中は、自分が思春期に心酔していた音楽をやり続ける方も多いですよね。いい意味で、同じことをやり続ける方。僕は正直、福山さんはそういう方だと思っていたんです。

福山:なるほど。

――仰ったようなARBやTHE MODSやSIONさんのようなルーツがある。そこへの憧れと、あとはスタジアムロック的な、もしくはポップスとして求められる曲調がある。そういった中でクリエイティブをされていると思っていたんですね。でも、この「聖域」があれば、それこそヒップホップやソウルやEDMや、いろんな音楽を取り入れて福山さんのフィルターを通してアウトプットするということもできるかもしれない。そのあたりについてはどうでしょう?

福山:そこについては、あえて僕はそういうことをやらない方がいいんじゃないかと思っていたんですよ。自分がやるとつまみ食い的な感じになりかねない。そういう思いは今でもあります。

――なるほど。

福山:「この人、うまく消化してないな」ってなったら恥ずかしいので (笑)。洋服選びでもなんでもそうですけど、流行ってるから取り入れてみたけど似合ってないということになるのをビビっているというか。ただ、やっぱり大事なのはエッセンスだと思うんです。今EDMという言葉が出ましたけれど、たとえばEDMのどこを抽出するのか。自分なりのEDMって何なんだという。僕としては、そういったものを取り入れる時に大切なのはアウトプットよりインプットだと思うんです。どこを切り取って自分の中に持ってくるのかっていう作業がセンスだと思っていて。だから、とりあえずまるごと取り入れてしまうというのは危ないと思っています。ただ、今後は、そういう新しいムーブメントが勃興した時に、もしやりたいと思ったらどこを自分なりに選択するかを考えて取り入れてもいいのかもしれない。25年以上たって、そう思うようになってきました。

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