My Hair is Bad、銀杏BOYZ、忘れらんねえよ…今、ロックバンドは何を歌おうとしている?

KANA-BOON『NAMiDA』

KANA-BOON『NAMiDA』

 1年7カ月ぶり、4作目となるアルバム。ブレイクから数年が経ち、もはや“若手”と呼ばれる立場は過ぎたタームにあるKANA-BOONだけに、次にどういう方向性を持った作品を作ってくるか興味深く思っていたが、彼らは変化よりも原点回帰を志した印象。サウンドや音楽性における新機軸の導入というよりも「何を歌うか」ということを軸にしている。その象徴が、アルバムのラストに収録された「それでも僕らは願っているよ」という曲だ。

<いまはわからないことばかりだけど それでも僕らは願っているよ いままでの日々が意味を持つことを>と歌うこの曲。谷口鮪(Vo/Gt)自身がブログにて明らかにしているのだが、今年初頭、飯田祐馬(Ba)が不倫騒動で世を騒がせていた時に書かれたものらしい。バンドの先行きすら不透明だった当時に、その時の思いを曲にしたためたのだという。

 <涙が出るよ 戻れないとわかっているけど それでも君を忘れないよ>と失恋をモチーフにした「涙」も含め、ある種の率直さやストレートさが歌詞のポイントになっている。

The Cheserasera『dry blues』

The Cheserasera『dry blues』

 宍戸翼(Vo/Gt)率いるスリーピースによる、3枚目のフルアルバム。リリースに際して、公式ページに椎木知仁(My Hair is Bad)がこんなコメントを寄せている。(参考:The Cheserasera公式サイト

「この手の邦ロックはすでに飽和していて、見た目にも味にももう飽きてしまいました。そんな砂漠にも、大した水やりで綺麗な花を咲かせる人がいて、僕は心底驚きました」

 なかなかシーン全体に対しての鋭い批評性を持った言葉だと感じたので思わず引用してしまったが、たしかに彼の言うことも一理ある。「この手の邦ロック」と彼が言うカテゴリ、つまり「90’sグランジやパワーポップやUKロック、00’sエモにルーツを持ちつつ“日本語のロック”として聴かれ受け継がれてきたギターロックバンド」というのは一つのスタイルとして固定化している側面がある。だからこそ音楽性やサウンド自体よりも「何を歌うか」というところに焦点が当たりがちなのだが、そういうフィールドにも「大した水やりで綺麗な花を咲かせる人」がいる、というのが彼の見方。それは僕も同意するところだ。

 アルバムのテーマは“愛”。そして冒頭に収録された「I Hate Love Song」では失恋がモチーフになっている。<不細工な身体とか 頭の先まで 残さず君に愛されたならば ふざけたラブソングが 胸を打つこともなかった なかっただろうな>と歌う。そこにあるのは後悔と韜晦で、そこに彼のソングライターとしての誠実さを感じる。

The Cheserasera「I Hate Love Song」MV

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

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