SILENT SIRENの愛がこもった最大級のリスペクトとおもてなし 『サイサイフェス2017』での景色

『サイサイフェス2017』レポート

感覚ピエロ

 昼間よりさまざまな活気に包まれてきたこのフェスも残すはメインステージのみ。「キレイなお姉さん4人の前に、こんなむさ苦しい男が出てきてすいません!」感覚ピエロのお出ましだ。彼らの必殺技、サウンドチェック時の国民的アイドルグループのカバーでオーディエンスのハートを一気に鷲掴み、1曲目の「CHANGE MY LIFE」で会場全体の空気を完全に掌握した。ダンサブルな楽曲、タイトな演奏とキレのあるのステージング、横山直弘(Vo&Gt)の煽り……、どこかシニカルで確信犯なこのバンドはライブがなんたるかを分かっている。ノイジーな疾走感が暴走する「質疑応答」、「今日YouTubeで視聴年齢制限が掛かったHな曲」と「A BANANA」をたたき込み、「O・P・P・A・I」爆弾投下。サイサイメンバーの名前を入れ込んだコールアンドレスポンスで場内は興奮の坩堝と化した。感覚ピエロらしい圧倒的爆演で熱気が最高潮に達した会場をトリのSILENT SIRENへと渡す。

 満を持して登場したSILENT SIREN。ここまでいろんなアーティストからパワーをもらってきた彼女たちは、初っ端からフルスロットルで「爽快ロック」を放つ。間髪入れずにアッパーな「八月の夜」で昂揚を加速させ、キラーチューン「吉田さん」を畳み掛ける。いつもとは違い、あえて私服でステージに立つ姿は、気合いが入りつつもどこかリラックスして場を楽しんでいるように見えた。

 それが豹変したのが「フジヤマディスコ」だ。昨年末のライブ初披露以来、演奏されていくたびに印象が変わっていったこのダンサブルなナンバー。あいにゃんのスラップはどんどんグルーヴィーになっていき、ひなんちゅのリズムはますます図々しさが増している。もちろん、いい意味での存在感だ。そこに乗っかるすぅの歌はどこかアイロニカルで、すべてを見透かしたようにゆかるんが高らかにジュリ扇を振り回し、悠々と鍵盤を鳴らす。彼女たちの演奏にここまでの“アクの強さ”を感じたことがあっただろうか。自由闊達、型破り。それでいて、培った経験からの貫禄と余裕を感じる。せめぎ合う4人の個性が生み出すバンドマジック、SILENT SIRENのバンドとしての強度をまじまじと見せつけられた瞬間でもあった。

 この日、初披露となった10月11日リリースの新曲「ジャストミート」。すぅが「高校野球を見ながら作った」と紹介されたこの曲は、手グセで弾かないギターリフと切れの良いリズムが心地よく、サイサイらしさ全開のひたすらキャッチーなメロディが耳に残る。そんなノリの良いナンバーに、初めて聴くオーディエンスも腕を上げて全力で応えていく。

 ひなんちゅの刻む祭囃子のリズムに合わせて、湧き上がる「わっしょいわっしょい!」の掛け声。サイサイくんもステージに登場しての「What show is it?」、フロア全体が旋回するタオルに埋め尽くされた「ぐるぐるワンダーランド」でSILENT SIRENのステージは終了した。

 「アンコールは出演者のみんなが盛り上げてくれるということで」とすぅが口にすると、ピンクのサイサイフェスTシャツを着た出演者全員がステージに集合。バンドじゃないもん!の甘夏ゆずがギターで参加し、「みんなで歌って踊って、騒いでいくぞーー!!」ゆかるんの掛け声で「チェリボム」が始まる。ピンク色になったステージとフロア、みんなが所狭しとなりふり構わず踊り乱れるさくらんぼダンス。SILENT SIRENが創り上げる『サイサイフェス』らしいハッピーな景色が広がり、最高のフィナーレを迎えた。

 アーティスト主催のフェスやイベントも多い中で、これほど主催アーティストの色が出るイベントも珍しい。「こんなにカッコイイ人たちがいるんだぞ、ということを私たちのファンにも知ってもらいたいし」イベントの最中、すぅが語っていた何気ない言葉にすべてが込められているような気がした。「バンドマンの友だちが少ないのがコンプレックスだったんです。ちょっとずつ自分たちの気持ちを伝えて、こうやって対バンしようよって言ってくれたり」出自ゆえの偏見や誤解も多くあったぶん、そうした想いは人一倍強かったのかもしれない。

 ライブ合間の各出演者とのトーク、他アーティストのステージをずっと袖から見つめ、ときにフロアで観客と一緒になってノリノリで手を上げている。前日は準備のために4人揃って買い出しに出かける……、そんな彼女たちが創っているフェスなのだ、楽しくないわけがない。ものすごくDIYで、どこか学生時代の文化祭を思い出す懐かしさもあったりする。それは、出演者と来場者に向けられた、SILENT SIRENからの愛が込められた最大級のリスペクトとおもてなしだ。

「あれだけ有名な人達でも終始イベント中会場を駆け回り、イベントを作り上げている姿を見て心から感動した!めちゃくちゃバンドマン。血の通った最高のバンド、イベント!」 ーー生松圭吾(HEADLAMP/Gt)Twitterより

 最高のイベントを最高の状態で終えた彼女たち。イベントの成功はもちろん、『SUMMER SONIC』『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』をはじめ、この夏は例年以上にさまざまなイベントに出演した経験と自信が如実に表れたステージでもあったように思う。そして休むことなく、6月よりはじまった『5th ANNIVERSARY SILENT SIREN LIVE TOUR 2017『新世界』』の後半戦が9月からスタートする。海外公演、そして「軌跡」と「奇跡」を掲げた11月の日本武道館2Daysが待っている。“てっぺん”に向かってひたすら突き進むSILENT SIREN。次はどんな景色を我々に見せてくれるのだろうか。

(写真=高田 真希子)

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

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