クラムボン・ミトとTWEEDEES・沖井礼二が明かす、2人の「距離」と「伝家の宝刀」

ミトと沖井礼二が明かす「距離」と「らしさ」

「TWEEDEESはシムシティみたいなものなのかもな(笑)」(沖井)

ーーここ数年はプロデューサー業や作家としての活動も多くなっているお二人ですが、キャリアの初期から、お互いがそのような立ち位置になると想像できていましたか?

ミト:私は作曲家志望で音楽を始めたし、クラムボンをやりながらコンペに参加もしていたので、まあ想定の範囲内という感じですね。話を少し戻すと、私たちが再会したきっかけの一つは、竹達彩奈さんの1stシングル『Sinfonia! Sinfonia!!!』を沖井君がプロデュースして、それを聴いたことなんですよ。当時から私はすでにその界隈へガッツリ参加していて、声優さん・タレントさんをミュージックアップデートするという構想はあったけど、ここまで華麗にやってくれたのは、同世代のクリエイターだと沖井君が最初なんですよ。

沖井:でも、声優さんに曲書くのは最初だったから、みんなどんな風に書いているのかなと気になって。ミトくんが豊崎愛生さんに書いている「Dill」を聴いて「あっ、ここまでやっていいんだ!」と思ったんだよね。

ミト:それは混乱するって(笑)! 「Dill」は当時の豊崎愛生さんがあの地位にいたからこそ出来たことであって、後にも先にもあんなことないよ。

沖井:良い意味で誤解してたってことだ(笑)。再会はその後、2012年の7月くらいになるんですけど、うち(TWEEDEES)の清浦(夏実)とmeg rockが目黒で飲んでいるときに、色んな人を招集していて。megちゃんが君を呼んで、清浦が私を呼んで、そのあとに神前(暁)くんと北川(勝利)も来てくれたんです。

ーーすごい会合ですね……。

ミト:そこで色んなものがスパークしたんですよ。あれこそ「◯◯革命」と名付けられるべき一夜だよね(笑)。未だにあのときの盛り上がりや熱量を覚えてるもん。で、久々に会った沖井くんに、僕は「ジェラる!」って言ったんですよ。

沖井:違う違う! 「お前、イラっとくる!」って言われたんだよ(笑)。

ミト:そうだ(笑)。会ったら必ず言おうと思っていた感情が溢れ出したんですよね。

沖井:そのときに神前くんと僕が初対面で、北川とも15年ぶりくらいの再会で。ミトくんと北川もそこが初対面で。昔のツルまないで距離を置いている設定もお互い忘れていて(笑)。

ミト:忘れていたというか、それぞれがアニメやタレントさん周りのプロデュースという仕事が増えた状態で、北川さんはそこを一人で耕してきたけど、当時は同世代で理解を示してくれるクリエイターがそこまでいなかったし、僕はそれを追いかけていたけど、繋がりもなかったから言うこともできなかった。各々が感じている悲喜こもごもがそこで爆発したんですよ。「話しても通じる人にようやく出会えた!」みたいな。そこからはひどかったですよ。1週間に一度や二度会うとかいうレベルじゃなくて。堰を切ったように連絡して飲みに行ってましたから。

沖井:花見とかもしたよね。

ミト:そこから知り合ったチームも、今の仕事に通じる人たちがいっぱいいて面白かったんですよ。その一夜をきっかけに反分子たちが繋がりあったんだなと改めて思いました。まさかそこまでお互いが同じことを考えていると思ってなかったし、テクスチャーが違うと思ってたんですけど、確実に一つキーとなったものが見えた時、目的というか達成したいポイントは基本的には同じなんだと嬉しくなりました。

沖井:手法は僕も北川もこの人も違うし、お互いに敬意もあるから真似しようとも思わない。でも、みんなそれぞれのやり方を一人で育ててきたということは共通していて、それを話し合える相手が居なかった。だから会って話したときに「今日はそれを話し合う日だ!」って確信したんですよね。

ーーちなみに沖井さんもバンドマン兼音楽作家として、現在のようなキャリアを歩むと思っていましたか?

沖井:僕自身、Cymbalsを結成したときは、作曲家として色んな人に曲を書くための就職活動と捉えていたところもあって。ただ、当時はそんな仕事もあまりなかったし、自分も次第にCymbalsに没頭していて、作曲家志望であったことはどんどん忘れていました。バンドが解散してからは作家仕事をやり始めて、いまTWEEDEESを新たにスタートさせてみて、「自分は意外とバンドマンなんだな」と思うんです。ミトくんもそうだと思うんですけど、色んなことをやっても、クラムボンという母体がドーンとある。帰る場所があるからこれだけ自由に出来るんだなと思うんです。

ーーさっき沖井さんが話した「自分は意外とバンドマン」という感覚は、TWEEDEESの最新作『a la mode』に顕著に表れているような気がします。初期の「プロデューサー・沖井礼二とシンガー・清浦夏実のユニット」というイメージは消えていて、制作においてもお互いの領域を混ぜ合うようになっているので、曲の印象も大幅に変化しました。

沖井:確かに。そこに感化されて清浦もバンドマンっぽくなってきているし、同時に彼女が外で歌うことも増えているから面白いですよね。互いに他の経験をTWEEDEESにフィードバックできるようになってきたというか。僕はクラムボンの『triology』にすごくそれを感じたんですよね。あそこから第三期みたいなものが始まった気がしたと思えるくらいすごくフレッシュで、『モメント e.p.2』ではさらにその感覚が増していた。それを後押ししているのはそれぞれが外仕事で積んだ経験のような気がする。

ミト:『triology』は、そうですね……振り返ってみると、十数年前の日本のバンドシーンって「バンド一つに邁進すること」が良しとされていたんですけど、私はキャリアの出頭からそこを踏み外して楽曲提供をしていて(笑)。だから、当時は自分が異物扱いされていることも分かっていたし、その暗黙の了解に対して違和感も持っていたんです。でも、2010年代になって、バンドマンでも二足のわらじのステータスが認められるようになったし、外仕事でやっているテクスチャーをJ-POP、J-ROCKフォーマットに組み込んでみると何が起こるのか、化学反応を確かめられるようになった。その実験を詰め込んだのが『triology』でした。

ーー並列に作っていたものが、2010年代になって混ざってきたという感覚もあったんですか。

ミト:そうですね。さっき話した中央分離帯は、個々の感覚というより、時代がもたらしていたものも大きかったと思うんです。でも、いまはその分離帯も老朽化して、使い物にならなくなっているような気がしています。

沖井:音楽の聴き方も変わったから、中央分離帯を意識する必要がなくなったし「俺はこのジャンルが~」というスタンスではなく、色んなジャンルを聴くようになった。僕らも同じ人間ですから、リスナーと同じような気分になったのかもしれませんね。

ミト:ただ、沖井くんが言われている「渋谷系」とか……。

沖井:僕は「渋谷系」じゃないですけどね(笑)。

ミト:まあまあ。そのあたりの音楽とか、自分にとってのプログレだとか、音楽のジャンルって非常になんというか、いろんなものが混ざったものじゃないですか。純度が高いものではない気がする。

ーー言葉がその音を直接的に表さないというか。

ミト:そう。ものすごく複雑化したものなんですよ。

沖井:確かに、我々はすでに複雑化したものをやっているという感じですね。ブルースでもロックでもない。「どんな音楽やってるの?」と聞かれて上手く答えられないような(笑)。

ミト:その答えが「ポップミュージック」だというのは、自分たちでもわかっていたんですよ。ただ、それを言える環境ではなかった。ロックフォーマットでないバンドはバンドではない、という雰囲気だったし。

沖井:ポップスとしか呼びようのないものなんだけど、「J-POP」という別の言葉があったから、誤解が生まれやすかったよね。40年代や50年代の映画音楽って、クラシックやジャズなど色んな音楽の要素を混ぜた複雑なものだけど聴きやすいんです。映画というものを切り離してもポップに出来ている。それと変わらない価値観だと思うんですけど。

ミト:それを突き詰めて考えていくと、僕らがやりたい音楽って「掛け合わせの美学」な気がするんですよね。何かと何かをかけ合わせた時に生まれる、発火するような感覚が自分たちを動かしていて、そこからピュアなものが立ち上がると思っている。それがたまたまアニメと相性が良かったから、面白がってもらえているのかもしれない。

ーーアニメのフィールドが一足早く掛け合わせを面白がる文化だった、というのもあるかもしれません。

ミト:ああ、それもあるでしょうね。

沖井:でも、アニメだからそうなったんじゃなくて、音楽のあるべき形だと思いますよ。ただ、我々は人より欲張りで、1曲のなかで全部の展開を聴きたがるというか。好きなものを1曲の中に無意識に集めてしまっているのかもしれません。

ミト:確かに。最近になって「この1曲に入れるのはこれとこれくらいにしといたほうがわかりやすいな」という考えに至るようになりました。1曲の中に全部入れてしまおうという歪さを、自分の中で解釈できるようになったし、仕事の数が増えたから色んなところに分散させて。それもあって、クラムボンでやりたいことも明確になってきて、沖井くんの言うフレッシュさが生まれているんだと思います。

沖井:大人になったんだなあ(笑)。俺はまだ捨てきれないや。

ーー良い意味でバランスが取れるようになったんですね。沖井さんも最近は『アイカツ!スターズ』にTWEEDEESとしての楽曲提供(「Sweet Sweet Girls’ Talk」)を行なうなど、また違ったフェーズに突入しているような。

沖井:清浦も作詞をしています。そこは彼女も練習中だと思うんですけど、自分の作る音楽を私小説だけにしないということを出来るようになってきた。最初は自分が受けた仕事に「この人、歌詞書けるんですけどいいですか?」と承諾を得て清浦を連れて行って、外の現場を体感させていたんですけど、最近は清浦が一人で外仕事をするようになってきていて、TWEEDEESとは別のことをやらなきゃいけなくなってきている。その逆にTWEEDEESらしさを求められることもあって、そのときに「TWEEDEESらしさとは?」と改めて考え直す機会があって。そんな経験を通して、彼女は自分のバンドを客観視することを覚えつつあります。

ミト:今回の『a la mode』を聴いて思ったんですけど、私はTWEEDEESに違う楽しみ方として「清浦夏実の成長過程を微笑ましく見守る会」みたいな感覚を見出していて。沖井くんをリスペクトしている男性ファンも多いけど、活動を追いかけている人たちはそういう疑似体験をしている感じがあるんだよね。

沖井:時々孫の写真(アルバム)が届くみたいな(笑)。ミト君はそう言うけど、TWEEDEESは僕の成長過程を見せる場でもあるんです。元から作家仕事をやっていたのに、TWEEDEESを始めて、そこに外仕事がフィードバックされて作る曲が変わってきたりして。48歳なのにまだ成長しているんですよ。

ミト:もちろん、その側面も強いんですけど、TWEEDEESには「清浦夏実成長過程」と「沖井礼二作曲過程」という主要な楽しみ方があって、どちらにせよ客観視出来ないなにかを感じるんですよね。

沖井:よく子供の成長を親がブログに書いたりしてるじゃないですか。あれみたいなものかもしれない。

ミト:なんというか、TWEEDEESには「アメブロ」みたいな感覚があるというか(笑)。作品が出るタイミングの小気味よさも、生配信系のコンスタントさも、どこかブログ的な親近感を覚えるんです。

沖井:清浦って今までバンドをやってきていない人で、僕はバンドを一回終わったことがある人で。僕はバンドがどうやって成長していくのかを経験していて、それをもう一回楽しみたいという部分があるし、楽しんで欲しいから色んな形で成長過程を公開しているのかも。普通、一回目のデビューだったらそんなことは考えないと思うし。

ーーもう一回成長過程を楽しんでいる沖井さんと、右往左往しながら初めてバンドとしての成長を経験している清浦さんという構図は、たしかに見ていて面白いです。

沖井:あの人はこれがバンドだと思いこんでいるけど、実はもうちょっと……。

ミト:そうなんだよ! 清浦さんがバンドというものを勘違いしている節があるんだけど、個人的にはあのまま行ってほしいです(笑)。

沖井:ミト君の言う成長過程は、僕も楽しんでいるんでしょうね。シムシティみたいなものなのかもな(笑)。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる