『ここさけ』『恋と嘘』『四月は君の嘘』……作曲家 横山克の劇伴はなぜ“青春劇”と相性が良い?

 今期アニメ『恋と嘘』(TOKYO MXほか)(信澤宣明と共作)や『Fate/Apocrypha』(TOKYO MXほか)、現在上映中の実写映画『心が叫びたがってるんだ。』などで音楽を担当している、売れっ子作曲家の横山克。アニメ、ドラマ、映画と幅広く劇伴を手掛けるほかに、ももいろクローバーZやイヤホンズといったアイドルへの楽曲提供も精力的に行っている横山は、他の劇伴作家と比較しても稀有な存在ではないだろうか。

実写映画『心が叫びたがってるんだ。』オリジナルサウンドトラック

 『恋と嘘』と『Fate/Apocrypha』では作品の雰囲気も劇伴の毛色もかなり異なる上に、横山がこれまでに制作した楽曲のジャンルも多岐に渡っている。劇伴作家としては当然、どんな作品にも対応可能な引き出しの多さや表現の多様性を持っていることが必要不可欠だ。横山ももちろん、作品ごとに様々な一面を見せてくれるのだが、その中でも、『恋と嘘』しかり『心が叫びたがってるんだ。』しかり、青春劇との相性がとりわけ良いように感じる。

 音大在学中の2005年に作曲家としてのキャリアをスタートさせた横山は、コンピューターミュージックに関しても早熟だった。3歳の頃からピアノを習いつつ、中学生になってからはシンセサイザーやコンピューターを使って自ら曲を作るようになったという。高専でも電子情報工学を学んだが、その反面、音大に入学するまでクラシックの知識はそれほど深くなかったそうだ。

 アニメ劇伴やアイドルへの楽曲提供を中心に活動している作曲家であれば、VOCALOIDなどのDTMや、バンドやポップミュージックが音楽的素養の基盤になっていてもおかしくはない。しかし、劇伴業界全体で見れば、まだまだクラシック出身者が大半を占めている。さまざまな映像の劇伴を聞いていても、やはりオーケストラなどを使ったクラシック寄りの楽曲が圧倒的に多い。そんな中で、デジタルサウンドにもバックグラウンドを持っていたことが、横山にとって大きな強みになったのではないだろうか。

 とはいえ、もちろん横山が手掛ける劇伴すべてがデジタル色が強いというわけではない。『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』(MBS・TBS系)ではマリアッチやストンプが取り入れられていたし、オーケストラやバンド以外にも、各国の伝統音楽から着想を得た楽曲も多い。

 だが、青春劇においては、今風なデジタルサウンドが頻繁に登場する。『恋と嘘』でも、現代的なピコピコサウンドにメロディアスな旋律を乗せた楽曲が耳に残る。若い感性を持つ中高生を描いた作品では、やはりどこか新しさを感じさせる今時な音の方がハマりやすいのだろう。また、久石譲のジブリサントラに影響を受けたという泣きのメロディも横山楽曲の特徴だが、バックが軽快な打ち込みサウンドのため、しんみりしすぎず、どこか爽やかな風が吹く仕上がりになっている。

 アニメ『四月は君の嘘』(フジテレビほか)のサントラも、この“泣けるピコピコ”系統だろう。また、実写映画『ちはやふる』や『心が叫びたがってるんだ。』、アニメ『クズの本懐』(フジテレビほか)ではアコースティック調の曲が多かったものの、方向性は上記の作品に近い。たとえば、短いフレーズのループを多用することは打ち込み音楽によくある手法だし、重厚さや和音感というより単音の連なりで粒感が強い点も、ピコピコサウンドとよく似ている。

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