欅坂46はまだまだ面白くなるーー『欅共和国 2017』に感じたグループの真骨頂と課題

欅坂46はまだまだ面白くなる

 こういったユニット曲を経て、ステージに登場したのはけやき坂46。「ひらがなけやき」と「僕たちは付き合っている」の2曲を披露したのだが、そこには漢字欅の面々と引けを取らない、強い存在感とキラキラしたオーラ、そして堂々としたパフォーマンスで観る者を惹きつけた。その姿は有明や代々木、そしてZepp Tokyoでの単独公演で観たときよりも自信に満ちたもので、全国ツアーが彼女たちにとってどれだけ大きな手応えになっているかがひしひしと伝わってきた。

 けやき坂46のパフォーマンスで場の空気が和らいだところに、突然不穏なピアノの音色が流れ始める。それはそのまま、続く漢字欅による「大人は信じてくれない」の序章となっており、ここから再び会場の雰囲気が一変。続く「エキセントリック」とともに、ハードボイルドな世界観が展開された。ここでは特に、「大人は信じてくれない」のエンディングで見せた平手の鬼気迫る表情に、釘付けにされたファンも多かったのではないだろうか。

 再びMCを挟み、ライブ後半戦は長濱ねるのソロ曲「また会ってください」からスタート。漢字欅による「制服と太陽」、平手&長濱のユニット曲「微笑みが悲しい」と会場がほっこりした空気に包まれると、再び“青空とMARRY”が登場して「割れたスマホ」で場を盛り上げる。そこからダンストラックに乗せた漢字欅のソロダンスを経て「語るなら未来を…」、再び漢字欅&ひらがなけやきによるダンスコーナーに突入。ここでは鈴本美愉と齊藤京子によるダンスバトルもフィーチャーされ、アルバムで片鱗を見せた“漢字欅とひらがなけやきの融合”が具体的な形で提示された。そして、メンバー12人のソロダンスも取り入れたけやき坂46「誰よりも高く跳べ!」、漢字欅の面々が笑顔で歌う「手を繋いで帰ろうか」を2連発。さらに、ライブオープニングから引き続き、マーチング隊の衣装に着替えた面々がフラッグパフォーマンスを披露し、最後にひとりステージに残った平手の合図により無数もの花火が打ち上がったところで、ライブ本編は幕を下ろした。

 アンコールでは坂道AKB「誰のことを一番 愛してる?」の漢字欅バージョンという、予想外のナンバーをプレゼント。平手を中心にキレの良いダンスで観る者を引きつけると、そのまま「不協和音」へ突入。パフォーマンスを重ねるごとに強度を増していくその歌とダンスは、これまでに観た中でもベストと呼べるもので、平手や長濱による曲中の「僕は嫌だ!」のセリフには鳥肌すら立った。しかも曲終盤、平手の表情に目を向けると一瞬、ニヤリとしたように見えた……これこそ“曲に憑依する”平手の、そして「サイレントマジョリティー」から始まった欅坂46の真骨頂なのかもしれない。

 最後は漢字欅、ひらがなけやき総勢30名がステージに揃い、「W-KEYAKIZAKAの詩」でエンディング。2時間以上にわたる初野外ワンマンライブは大成功のうちに終了した……ように見えた。そう、前日22日の公演はここで終了したのだが、この日はさらにアンコールを求めるファンに対し、漢字欅の面々が再登場。ここまで一切MCに加わらなかった平手が「欅坂46は今年、初の全国ツアーを開催します。欅坂46のパワーを皆さんにお届けたいと思いますので、ぜひ遊びに来てください! 今日は初めて、この曲を皆さんの前で披露したいと思います」と告げると、アルバム『真っ白なものは汚したくなる』収録の新曲「危なっかしい計画」をライブ初披露した。サビでタオルを用いたこの曲は、まさに夏の野外ライブにぴったりな振り付けで、メンバーは笑顔でこの新曲を楽しんだ。それは「不協和音」で完全燃焼したように見えた平手も同様だった。曲を終えたメンバーは手をつなぎ、平手の合図で肉声にて挨拶をしてから、ステージを去っていった。

 全国アリーナツアーの前哨戦としては十分すぎるくらいボリューミーな内容だった今回の野外ライブ。今泉および“ゆいちゃんず”の不在をメンバー全員でカバーし、けやき坂46は“欅坂46のアンダー”なんて言わせないくらいの存在感と実力を提示した。また、屋外でも「大人は信じてくれない」などの楽曲はしっかり機能することも証明してくれた。改めて、欅坂46は1年前の夏、初めて『TOKYO IDOL FESTIVAL』に出演した頃からかなりかけ離れた場所にたどり着いたのだなと実感させられた。

 ただ、気になる点もいくつかある。フルメンバーではないことも影響してか、アルバムからの新曲が「危なっかしい計画」のみだったこと。アルバム発売直後だっただけに、新曲をたっぷり聴けると信じていたファンは筆者のみならず多かったはずだ。これに関しては、8月からの全国ツアーまで持ち越しということで、現時点での評価は避けることにする。

 とはいえ、「危なっかしい計画」1曲が加わるだけで、ここまでライブの雰囲気が変わるかと驚かされたのも事実。最近メンバーにインタビューした際、この曲はツアーのみならず夏フェスでも重宝するキラーチューンになるのではと発言していたことが印象に残っていたが、まさしくそういう重要な1曲になることだろう。

 他にもMCの拙さなど気になる点はあったが、場数次第でどんどん変わっていくはずだ。かつて、彼女たちの先輩である乃木坂46もそうであったように。

 欅坂46はまだまだ面白くなる。アルバムを聴いたときも実感したが、この日のライブを観てその思いは確信に変わった。ツアーやロックフェス出演でどう進化していくのか、この8月は彼女たちから本当に目が離せそうにない。

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

■セットリスト
欅坂46 初野外ワンマンライブ『欅共和国 2017』
2017年7月23日(日)富士急ハイランド・コニファーフォレスト
00. Overture
01. サイレントマジョリティー
02. 世界には愛しかない
03. 二人セゾン
04. 青空が違う
05. 僕たちの戦争
06. 渋谷からPARCOが消えた日
07. ひらがなけやき
08. 僕たちは付き合っている
09. 大人は信じてくれない
10. エキセントリック
11. また会ってください
12. 制服と太陽
13. 微笑みが悲しい
14. 割れたスマホ
15. 語るなら未来を…
16. 誰よりも高く跳べ!
17. 手を繋いで帰ろうか
<アンコール>
18. 誰のことを一番 愛してる?
19. 不協和音
20. W-KEYAKIZAKAの詩
<ダブルアンコール>
21. 危なっかしい計画

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる