會田茂一の“裏番長”的な仕事ぶり……『ぼくらの勇気 未満都市』を機に多彩なキャリアを辿る

 堂本剛と堂本光一が共演したドラマ『ぼくらの勇気 未満都市』が、KinKi Kidsのデビュー20周年記念の特別企画として20年ぶりに復活した。7月21日に放送された『ぼくらの勇気 未満都市2017』(日本テレビ系)ではかつての「再会の約束」が果たされ、物語のその後が描かれた。そして、過去の連続ドラマと同じく、今回のスペシャルドラマで音楽を担当したのが、會田茂一である。

 會田によるサウンドトラックは、20年前に使用されていた楽曲も含め、ギター中心のものになっていた。バンド編成で録音されたり、部分的にはピアノとストリングスの曲が流れたりもしていたが、ギターがソロで演奏されるか、それにパーカッションが加わる程度の音数の少ないサウンドが多かった。アコースティックと、歪みの程度を変えたエレクトリックでギターの音色を曲ごとに変化させ、場面ごとの雰囲気の変化を支える形だ。ギタリストである會田らしい職人の技だったと思う。

 アイゴンの愛称でも知られる會田茂一といえば、バンドやソロで自身の音楽活動を展開する一方、様々なアーティストのプロデュースや楽曲提供、演奏参加などで長年、独特な存在感を示してきた人だ。彼が佐藤研二、小松正宏(bloodthirsty butchers)と組んだ3ピース・バンド、FOEは、今年6月21日に『Freedom ep』をリリースした。このEPは、1976年のオープン以来、数多くの作品を生んできた新宿のフリーダムスタジオが昨年末で営業終了したことを惜しみ作られたもの。クローズド後のスタジオにバンドが集結し、久々にレコーディングした新曲「POE」「青が溶ける」は、落ち着いた大人のロックになっている。

 スタジオはこの7月に「フリーダムスタジオインフィニティ」としてリニューアルオープンしたが、もとのフリーダムスタジオへ會田が初めて行ったのは、ACROBAT BUNCHが参加したコンピレーション盤のトラックダウンの時だったという。大学時代からギタリストとして歩み始めた彼は、レゲエ、スカ、ジャングルなどに取り組んだ朝本浩文のRam Jam Worldに参加後、LOW IQ 01や堀江博久とともにACROBAT BUNCHで活動した。ミクスチャー・ロック的だったこのバンドが、「烏合の衆」でコンピ盤『SHAKE A MOVE』に参加したのが1992年のこと。『ぼくらの勇気 未満都市』が20年の時を経て復活したのに対し、『Freedom ep』は25年前へ思いをはせたようなEPなのだ。

 會田は雑誌『PLAYER』5月号の連載原稿において、フリーダムスタジオで編集作業やエフェクターによる実験など、音楽制作でトライ&エラーを繰り返したことを書いていた。同号では「ボクも90年代、エルマロから始まって、参加させてもらった録音の半分以上はフリーダムスタジオにお世話になっています」と語っている。ここで触れられているEL-MALOこそ、會田茂一の存在が知られるきっかけとなったバンドである。

EL-MALO『The Worst Universal Jet Set』

 會田が柚木隆一郎と1991年に結成したEL-MALOは、1993年にミニアルバム『DAGGER TO FOOL』でデビューした。ブルース、サイケデリックの要素を含んだバンド・サウンドをハウス、クラブ・ミュージックと融合した彼らの音楽は、変則的で複雑かつ緻密に構築されていた。一方、ライブでのEL-MALOは、ツインドラムにパーカッションも加わった荒々しい演奏を聴かせ、その中心で會田はリード・ギタリストとしてバリバリ弾いていた。当時のEL-MALOは「渋谷系の裏番長」などと呼ばれていた。(1994年の2ndアルバム『The Worst Universal Jet Set』は小山田圭吾との共同プロデュース)。

 1990年代後半にEL-MALOが活動休止状態になって以後は、前述のFOEをはじめ、高桑圭(GREAT3)とのユニットであるHONESTY、中村達也率いるLOSALIOSへの参加、プロデュースしていた髭への一時加入など、様々な形態で活動してきた。その間にはEL-MALOの再始動もあったが、會田は2008年に脱退している。

 ここまでの履歴からもわかる通り、會田は、初期の段階からすでにジャンル横断的なアーティストだった。FOEでは正統派の骨太なロックを演奏する一方、いとうせいこうとのユニット、Just A Robberではレゲエ、ダブに寄った音楽性をみせる。1stソロ『SO IT GOES』(2008年)がアコースティックなロックだったかと思えば、2ndソロ『PINK GRENADE』(2010年)ではダンス・ミュージック的な部分を含んでいるといったぐあい。そうした雑食性や柔軟性が、プロデュースや楽曲提供、セッションや他アーティストのツアーへの参加でも活かされている。

 會田は、高橋優「旅人」のほか、BONNIE PINK、Chara、YUKI、黒猫チェルシーのプロデュース、新垣結衣「小さな恋のうた」(MONGOL800のカバーの編曲)、堂本剛や柴咲コウ、東京スカパラダイスオーケーストラのライブツアーへの参加など、数多くのアーティストを様々な形でサポートしてきた。ギタリストとしての録音参加も多く、最近では花澤香菜『Opportunity』(2017年)の「FLOWER MARKET」で弾いていた。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる