山下達郎、大野雄二らも愛した名ギタリスト・松木恒秀の功績を振り返る

 もちろん、ポップスだけでなくジャズ・ギタリストとしても渡辺貞夫や日野皓正などから指名されるなど大いに活躍。レコーディングで参加した名演としては、トゥーツ・シールマンスとの白熱したプレイが聴ける松岡直也の『KALEIDOSCOPE』(1979年)のほか、ジョージ大塚の『MARACAIBO』(1980年)、阿川泰子の『JOURNEY』(1980年)、秋本奈緒美『THE 20th ANNIVERSARY』(1982年)などがある。

『TOKYO GIRLS TALK』

 こういったサポート・ワークの傍ら、1991年には自身のバンドであるWhat is HIP?を結成。野力奏一(キーボード)、岡沢章(ベース)、渡嘉敷祐一(ドラムス)という名うてのミュージシャン集団として話題を集め、六本木ピットインから新宿ピットインへと拠点を移しながらも精力的にライブ活動を行った。松木のこだわりもあり、彼らはレコーディングを行わなかったが、例外的にシンガー・ソングライターの高田みち子を大々的にサポートすることになる。2004年のアルバム『Night buzz』のメロウなサウンドはポップス・ファンの話題を呼び、その後も『TALEA DREAM』(2005年)、『TOKYO GIRLS TALK』(2008年)という傑作を残した。また、2014年にはこのメンバーで阿川泰子のライブを全面的にバックアップし、『クロスオーヴァー・ナイト ~アンチェインド・メロディ~』というライブ・アルバムにその演奏が記録されている。

 2015年になると、What is HIP?のメンバーを一新。キーボードの野力奏一はそのままに、ベースの高水健司とドラムスの村上“ポンタ”秀一という布陣で再スタートし、What is HIP? conclusionとしてピットインを拠点にライブ活動を定期的に行う。けっして本数は多くはなかったが、その間には山下達郎や竹内まりやがサプライズゲストとして登場することもあった。松木の現役としての存在感は変わらないことをアピールしていただけに、この度の逝去は非常に残念でならない。彼のソウルフルでメロウな演奏はもう生では聴けないが、残された膨大なセッションを紐解きながら、日本の音楽シーンの至宝といえるプレイに耳を傾けていただきたいと思う。

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。

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