織田哲郎が語る、“名曲”が生まれる条件「思いつきの破壊力プラス構築力の高さ」

織田哲郎が語る、音楽の理想の形

最近は寄り添ってくれるような音楽があまりにも少ない

ーー芯を持って活動してきた、ということですよね。そんな流れのなかで生まれた今作ですが、曲作りは具体的にどう進んだのでしょうか。

織田:個人的にはギタリストとしての自分が一番楽しい部分ではあるんですけど、今回は“シンガー・織田哲郎”と、“プロデューサー・織田哲郎”にギタリストとしての僕は却下されちゃいました。「渋いブルースギター入れよう」と、一生懸命弾いてみたけれど、結局は鍵盤だけになって、ギタリストの僕はブーブー言っていましたね(笑)。でも、シンガー/プロデューサーからすれば、「歌以外のものに耳が行くのは違う」ということで。

ーー「CAFE BROKEN HEART」という作品の核は、歌であると。

織田:そうですね。「いかに歌を届けるか」ということのために削いでいったオケで、シンプルなところでのメロディと、言葉の強い曲です。ただ、カップリングの「八月の蒼い影 2017」では、ギターソロを好き放題弾きましたね。プロデューサーとしての自分が、「これを弾かせてやるから、もういいだろう」ということで、話をつけたというか(笑)。

ーーなるほど(笑)。〈ちゃんと鳴らない鍵盤が3カ所〉なんて、ガタが来ていることが洒脱に伝わってきますし、歌詞の面では確かに、印象深いフレーズがありました。ポップミュージックにおける歌詞の役割は時代によって変化してきたと思いますが、織田さん自身はどう捉えていますか?

織田:難しいところですね。例えば“緊張と緩和”だったり、人は常にバランスだと思うんです。それは音楽ーー歌詞も曲も同じで。僕が子供のころは、演歌やフォークがあり、そこにはバランスがあったんですよ。ただ、いつからか“アゲ”偏重の音楽が増えてきた印象で、それがとても残念です。

 もちろん、僕はもともとロックが好きだし、そういう音楽もいいと思うんですけど、やっぱり「もうイヤだ」という気分で酒を飲んでいるときに、寄り添ってくれるような音楽、歌詞があってもいいじゃないですか。最近はそういう歌があまりにも少なくないか、と思う。やっぱりブルースがベースにある音楽が好きなんですよね。

ーーそういうふうに“寄り添ってくれる”ような音楽が世の中から減ってきている原因は、どこにあるんでしょうか?

織田:いろいろ要因はあると思います。例えば、いまは楽しみ方が色々ある世の中だから、酒に逃げるような生活パターン自体が減ってきているのかもしれない。昔は会社が終わったら読書するとか、じっくりステレオで音楽聴くとか、お酒飲むとか、ある程度限られていたじゃないですか。でも、いまはネットもあるし、“寄り添って”くれなくても、それぞれがそれぞれの趣味に応じた楽しみ方を知っている。

 ただ、そういう楽しみ方の選択肢が増えたから、音楽が聴かれなかったということではないと思うんです。需要自体が根本的に減ったわけじゃない。例えば、ゲームをやろうが、アニメを観ようがそこには音楽があるわけで、音楽の楽しみ方が増えて、そこに付随したいろんな形の音楽が増えていったということだろうと。

 そのなかでアッパーな楽曲が増えてきたという意味では、特徴的なところではカラオケですかね。カラオケはみんながいるところで盛り上がるものだから、あんまりダウナーなものばかりを歌うわけにはいかない。アッパーな曲の方がそういう意味での出番は当然、増えるでしょう。あとは、タイアップが増えたことも影響しているかもしれない。ドラマだったりCMだったり、そういうところで暗いものは使われにくいじゃないですか。作曲やプロデュー

スの依頼を受けるときもアッパーな曲の方が喜ばれることが多いですしね。シチュエーションに付随する音楽として、アッパーなものの方がフィットしやすい場面が増えたということがあるのかもしれません。

ーーそんな時代だからこそ、自分ではアッパーではないものを作ったという面も?

織田:考えてやったわけでもなんでもないんですけどね。自分でも正直、何がいいんだろうと思って、いろんなものを作ってみたんです。そのなかで圧倒的にいまの自分が出したいなと感じたのが、たまたま今回の曲だったという。あとは自分が楽しいと思えるものを作っているというところですね。

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