『フリースタイルダンジョン』ユニットで表舞台へ HIPHOP発展に尽くしたZeebraの歩み

 しかしその後、Zeebra人気は一時失速してしまう。オリジナルアルバムをリリースしてもオリコンTOP10入りを逃すようになってしまったのだ。2013年の『25 To Life』が63位という残念な結果に終わったのはなんとも衝撃的であった。唯一、あの頃では2008年にリリースされたベストアルバムが辛うじて9位に入ったのがビッグヒットだった。かつての栄光を知る身としては、Zeebraの気持ちを考えるとやるせない思いであった。

 それはZeebraだけの話でなかった。一時期はかなり勢いのあったDABOやS-WORDなどの元祖<Def Jam Japan>勢など、その他の著名なラッパーも同時期から売上が低迷。KREVAが2006年にリリースした2ndアルバム『愛・自分博』がオリコン1位を取ったり、根強い人気のあるRHYMESTERがアルバムリリースごとに20位以内を保っていたりと明るい話もあるにはあったが、なにより日本のHIPHOP文化を長い間支えてきた雑誌『blast』が2007年に廃刊したのがHIPHOP人気の低迷を現している。

 そもそも低迷したのはHIPHOPに限らない。音楽シーン全体において以前に比べてCDが売れなくなった時代が到来したのだ。HIPHOPに関しても2000年代後半に登場した新しいアーティストは皆インディーズからのリリースが当たり前となる。また、ラッパー業だけでは食べていけず、兼業ラッパーという選択をせざるをえないラッパーがほとんどであった。よっぽど人気があるラッパーならライブで稼ぐことができるが、その境地まで行けるアーティストは僅かだ。

 例えば、Dungeon Monstersの一人である漢 a.k.a.GAMIも、最近は自身の著書『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社)や「毎日パンチライン」という代表曲のリリックを掲載した日めくりカレンダーをヒットさせるなど、音楽コンテンツ以外で売り上げを作る動きを見せている。タレント活動にも積極的でAbemaTVでは『漢たちとおさんぽ』という番組にも出演。新宿アウトローMCというイメージが強かった漢 a.k.a.GAMIだったが、意外とコミカルな面を番組内で見せるなどして新たなファンを獲得している。

 そんな中、ZeebraもHIPHOP業界の人気の底上げに繋がるようにとこれまで様々なことにチャレンジしている。BSスカパー!で放送されている『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』において審査員を務め、高校生にラップというものを浸透させた。また、<GRAND MASTER>というレーベルを始め、新しい才能をピックアップして世に送り出している。Dungeon Monstersの一人、T-Pablowも<GRAND MASTER>所属だ。更にZeebraは今年、HIPHOP専門のインターネットラジオ「WREP」の開設に携わり、新しいラッパーたちにスポットライトが当たる居場所を作った。

 そしてご存知の通り、Zeebraがオーガナイザーを務める『フリースタイルダンジョン』の人気も上々。そういった流れの中、HIPHOP要素の一つであるMCバトルの人気をHIPHOPそのものの人気へとどうしたら繋げられるかを考えられてリリースされたのが「MONSTER VISION」だ。

 賛否が分かれるところでもあるかもしれない。しかし、「MONSTER VISION」はiTunesダウンロードランキングで1位を獲得するなど、ある程度の結果を残している。今後、Dungeon Monstersのアルバムがリリースされるという可能性だってあるだろう。最近の『フリースタイルダンジョン』は波乱続きの展開だ。今後の彼らの動きにも期待したい。

 「Grateful Days」が発売された1999年、V.I.P.CREWという名義の元、ZeebraをはじめとしてYOU THE ROCK★やTWIGY、DEV LARGEなど多くのMCが集まって「DANCEHALL CHECKER」という曲をリリースした。大ヒットには至らなかったが、昔のB-BOYにはそれなりに知名度がある名クラシックだ。この曲は参加したMCからHIPHOPというジャンルでメインストリームにのし上がろうとしていた当時の気迫が今でも感じられる。

 あたしはDungeon MonstersをこのV.I.P.CREWの姿に重ね合わせて『ミュージックステーション』を見ていた。「DANCEHALL CHECKER」がリリースされてからもうすぐ20年が経とうとしているが、Zeebraの挑戦は終わらない。そんなZeebraの姿を見て、影ながら応援したいと心の底から思ったのであった。

■鼎
日々HIPHOPの現場に乗り込んでるゲイライター。
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