LOVE PSYCHEDELICO NAOKIが語る、“理想の音”を追求する制作スタイル「匿名性を大切に」

デリコが追求する“理想の音”

「自分たちができることは、可能な限り自分たちでやる」

ーー初回盤の付いているDisc2には「1 2 3」「Love Is All Around」など4曲の“early take”を収録。これはどういう意図で?

NAOKI:このアルバムは制作過程も楽しんでもらえるような気がするんだよね。例えば「1 2 3」はもともとKUMIがギターと歌だけで作ってたんだけど、その時点ですごくいい曲だなと思って。KUMIは「アルバムのために作ってたわけじゃないんだけど」なんて言ってたけど、僕が「LOVE PSYCHEDELICOでやらせてよ」って(笑)。で、それを元にバンドサウンドでエレクトリックなアレンジも試したし、アルペジオで弾き語りしてみたり、いろんなバージョンをレコーディングしてみて、一旦「これかな」というアレンジが決まって。その後、他の曲の作業を進めていくなかで「ちょっと違う気がする」と思って、アルバムに入ってる最終的な形に辿り着いたんだけど、最初のテイクもすごく良かったから「これも聴いてもらえたら嬉しいな」と思って。どのテイクもすごく思い入れがあるし……ギターも練習したしね(笑)。「このアレンジを経て、この形になったんだな」という過程が見えるのもおもしろいじゃない?

ーーなるほど。それにしても「1 2 3」はいい曲ですよね。KUMIさんはソングライターとしてもシンガーとしてもすごく才能のある方だと思いますが、一緒に音楽を作るパートナーとして、いまのKUMIさんをどんなふうに感じてますか?

NAOKI:まず、一緒に音楽を作れる仲間がいるって、素晴らしいことだなって思う。今回レコーディングを手伝ってくれた深沼(元昭)くんもそうだけど、音楽ってひとりじゃできないからね。KUMIは本当に頼もしい相棒だね。今回のアルバム、KUMIが鍵盤やオルガンを弾いてる曲が多いんだよ。「Good Times~」と「Love Is All Around」の鍵盤はホリー(堀江博久)が弾いてくれてるんだけど、あとは全部KUMIだから。「Rain Parade」みたいに鍵盤が中心の曲もそうだし。

ーーすごい! いままではそこまで弾いてなかったですよね。

NAOKI:うん。たまにピアノ弾いて遊んでるくらいだったんだから。見よう見まねでやってるなんて本人は言ってたけど、「それで弾けちゃうんだもんなあ」って感心して見てました(笑)。そういうふうに、できるだけ自分たちだけでやったのが良かったのかもね。1stアルバム(『THE GREATEST HITS』/2001年)は「リフのある音楽、ロックミュージックを渋谷の街を歩いている普通の女の子にも届けたい」という気持ちがあって。2nd(『LOVE PSYCHEDELIC ORCHESTRA』/2002年)のときは「1stでロックの楽しい部分は伝えることができたから、ロックのシリアスな部分、暗いところも伝えたい。それが1stを放った自分たちの責任だ」と思っていて、3rd(『LOVE PSYCHEDELICO III』/2004年)は1stと2ndを総括したアルバムを作ろうとして。4枚目(『GOLDEN GRAPEFRUIT」/2007年)は「LOVE PSYCHEDELICOと気付かれないくらい、まったく新しいサウンドを作りたい」と思っていたし、5枚目(『ABBOT KINNEY』/2010年)はカントリーなどのルーツに戻って、6枚目(『IN THIS BEAUTIFUL WORLD』/2013年)は「1stの頃みたいな王道のLOVE PSYCHEDELICOをもう一度やってみる」という感じがあって。まあ、それはすべて後付けなんだけど(笑)。今回の『LOVE YOUR LOVE』に関しては、「自分たちができることは、可能な限り自分たちでやる」というところがあったのかもね。自分たちで曲を理解して、それを表現して、そのまま出すっていう。そういう意味ではハダカのアルバム、カッコつけてないアルバムかもしれない。ひょっとしたら、カッコ良くないかもしれないよ(笑)。

ーー曲のクオリティは確実に上がっているし、NAOKIさんがずっと言ってる「最後に残るのは自分たちの名前ではなくて、楽曲なんだ」という言葉がピッタリのアルバムだと思います。

NAOKI:それはホントに昔から言ってるよね(笑)。でも、その考え方はいまも変わってないよ。LOVE PSYCHEDELICOは自分を表現する場所ではなくて、音楽を表現する場所だと思ってるから。自分たちのCDを聴いて「NAOKIのギター、いいね」と言われるより、「この曲のギター、カッコいいね」と言われたほうが嬉しいんですよ。そういう意味では匿名性を大切にプレイするというかね。「どうしてもこのフレーズを自分で弾きたい」という気持ちもないし。だからKUMIが弾くパートがどんどん増えてるんだけどね(笑)。楽曲に自分の名前が乗ってなくてもいいし。

ーー自己顕示欲が少ないというか、ないのかも。

NAOKI:そうだね。自分の個性を表現したいという目的ではないんだよ。たとえば「Might Fall in Love」はラテンのテイストの曲なんだけど、レニー・カストロというスーパー・パーカショニストと一緒に演奏することで出会った曲だから。自分のなかにあるものを表現したのではなくて、自分が曲に寄り添ってる感じというか。そもそも自分のギターはソロに個性的なニュアンスがあるわけでもなければ、カッティングに秀でているわけでもないから。

ーー「LOVE PSYCHEDELICOの曲を聴いて、こんなふうに感じてほしい」という気持ちもないですか?

NAOKI:楽曲のルーツになっている時代のことを思ってくれたら嬉しいかな。たとえば曲のなかに70年代の香りを感じたら、そこには当時のフラワームーブメントだったり、“愛こそが大事”というメッセージも含まれるじゃない? そういうことを思い出したら「トランプさんがいる今の時代と比較して、どうなんだろう?」と考えたりするかもしれないし。僕のことは思い出さなくていいです(笑)。

ーー本当に自分自身のことは曲に乗せたくないんですね。

NAOKI:いちばんそうだったのはデビュー曲(「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~」)かもね。あの曲のギターのリフはオルガンみたいな音でしょ? あれはまさに「自分のエゴをギターに乗せたくない」という気持ちの表れだから。この前、ちょっと休みがあったから陶芸をやってきたんだけど、そのときも同じようなことを感じたんだよね。自分の指の形を付けたり、いろいろとカッコよくしようと思っていても、最後は「でも、実際に使う人のことを考えると、口に当たる部分は薄くて優しい肌触りのほうがいいな」って考えるようになってきて。「これは俺が作ったんだ!」というのも大事だけど、やっぱり使いやすいほうがいいじゃない。「自分とは何者か」を投影するんじゃなくて、それを使って食事したときに「おいしい」と感じてもらうことが大事というか。それは音楽も同じだよね。まあ、全員が自分みたいだったらつまらないだろうし、ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョプリンみたいな人にもいてほしいけど。

ーーただLOVE PSYCHEDELICOの音楽には際立った個性もあるじゃないですか。こういう音を鳴らしているバンドは他にいないし、新しい曲を聴いても一瞬で「LOVE PSYCHEDELICOだ」とわかる。そういう意味では、すごく記名性が高いバンドだとも思います。

NAOKI:それは曲が並んだときに感じることだよね。1曲1曲のなかで自分たち自身を表現しているわけではないんだけど、いくつか曲か並んだときに「LOVE PSYCHEDELICO」だってわかるというか。個性は後から付いてくるじゃないけど、そういうものって後発的でいいと思うんだ。

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