大沢伸一が明かす、MONDO GROSSO新作にも繋がった“ニューウェーブからの影響”

大沢伸一が明かす“ニューウェーブのスタンス”

 隔週木曜日の20時~21時にInterFM897でオンエアされているラジオ番組『KKBOX presents 897 Selectors』(以下、『897 Selectors』)。一夜限りのゲストが登場し、その人の音楽のバックボーンや、100年後にも受け継いでいきたい音楽を紹介する同番組では、ゲストがセレクションし、放送した楽曲をプレイリスト化。定額制音楽サービスKKBOXでも試聴できるという、ラジオと音楽ストリーミングサービスの新たな関係を提示していく。6月15日の放送には、アルバム『何度でも新しく生まれる』を6月7日にリリースし、約14年ぶりにソロ・プロジェクトMONDO GROSSOを再始動した大沢伸一が登場。“自身が影響を受けた音楽”と“100年後に残したい音楽”を紹介する。今回はそのプレイリストから彼の音楽性を掘り下げるべく、同回の収録現場に立ち会った模様の一部をレポートしたい。

 

The Pop Group「Forces of Oppression」

 大沢がまず、自身のルーツとして挙げたのは、The Pop Groupの「Forces of Oppression」(アルバム『For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?』収録)。この曲は彼が中学生の時に5歳上の姉の友人から教えてもらったものだという。当時ギターとベースを演奏していた大沢は、「これやってみてよ」と聴かされて演奏を求められたと振り返った。当時はシンセサイザーが発明され、ポップスにも取り入れられた時代だったが、大沢はそのなかでYMOなどのテクノ系と同時に、The Pop Groupのようなポストパンク〜ニューウェーブ期の音楽性・アーティスト性に心惹かれたそうだ。新作『何度でも新しく生まれる』で、そうした影響が最も色濃く表れているのがINO hidefumiをボーカルに迎えた「迷子のアストゥルナウタ」。一歩間違えればチープに聴こえかねないシンセの音色を巧みにコントロールし、洗練された楽曲へと昇華しているのが印象的だ。

 

Antena「Bye Bye Papaye」

  その後も大沢によるニューウェーブに関するトークは続く。「ニューウェーブシーンが持っている熱量が他のジャンルと比べようもなくて。よくみんな『ニューウェーブってどんなジャンル?』と訊くけど、音楽では説明できなくて、アティチュードとか音楽への向き合い方で判断していた」と語り、さらに「僕がここから得たのは、他人と違うところにアイデンティティを見出すという価値観」とし、“10代・20代の節目となった楽曲”としてAntenaの「Bye Bye Papaye」(アルバム『Camino Del Sol 』収録)を紹介。

 大沢は先に紹介したThe Pop GroupとAntenaについて、「どちらもニューウェーブ・ポストパンク・ネオアコのなかにカテゴライズされていて、音楽に詳しくない人からしたら、同じジャンルには聴こえないアーティスト」とこれらのジャンルの特異性を自身の体験になぞらえて紹介した。

 まさにこのスタンスは大沢の新作にもハッキリと表れているといえる。テクノ・ニューウェーブ・オルタナ・ブレイクビーツ・エレクトロニカと、クラブミュージックのサブジャンルだけでなく、大きな枠組みすら越えているにも関わらず、アルバムを通して聴いても違和感がない。これまではジャンルや手法を作品ごとに一貫させてきたMONDO GROSSOが、今回は「全曲日本語詞」という一貫した姿勢とコンセプトで臨んだことも大きいのだろう。そしてこの姿勢とコンセプトは、まさに彼のアティチュードであり、この楽曲群をアルバムたらしめているものなのかもしれない。

 番組中盤では、“音楽を始めてから影響を受けた曲”としてMassive Attack「Daydreaming」(アルバム『Blue Lines』収録)を紹介。

Massive Attack「Daydreaming」

 大沢はこの楽曲に合わせてSoul II Soulの名前も追加し「イギリス発祥で固有のシンガーを持たず、曲によって色んなアーティストを起用した先駆けのような存在」と語り、彼らの活躍に勇気をもらったと明かした。大沢のMONDO GROSSOにおけるゲストボーカルを迎えて楽曲にハマるシンガーを起用するスタイルも、彼らの系譜上にあるというのは興味深い。

 もうひとつ「音楽を始めてから影響を受けた曲」としてピックアップしたのは、アート・リンゼイとピーター・シェラーによるユニットAmbitious Loversの「É Preciso Perdoar」(アルバム『Lust』収録)。

 Ambitious Lovers「É Preciso Perdoar」

 大沢いわく同曲は「ニューウェーブの末端」であり、「ニューウェーブが内包している幅の広さを証明している」楽曲だそうだ。ちなみに同曲はブラジルのギター奏者であるジョアン・ジルベルトの演奏でも有名だが、大沢はAmbitious Loversのバージョンを聴いたことをきっかけにブラジル音楽の魅力へと目覚め、実際に現地へ旅をしたと語った。また、James Chance and the Contortionsがジェームス・ブラウンのカバーをしているのを聴いてジェームス・ブラウンを好きになるなど、色んなものを好きになったきっかけにニューウェーブがあることを教えてくれた。彼の言葉を借りると、ニューウェーブの魅力は「前の時代や違う地域の音楽を、自分なりに今の時代へ合わせて再構築する」とことだという。大沢が『何度でも新しく生まれる』で引用した音楽は、最新の音楽というよりは、これまで彼の音楽性を構築してきたルーツの一端ばかりだ。だが、それを齋藤飛鳥(乃木坂46)や満島ひかりといったフレッシュなゲストボーカルを迎え、EDMへのアンチテーゼだという「TIME」などを作り、現在のシーンにも新しく聴こえる作品を生み出しているという意味では、彼のスタンスは一貫してニューウェーブ的であるということだろう。

 なお、番組では彼が語る“100年後に残したい音楽”や新作『何度でも新しく生まれる』についてのトークも行なわれた。このスタンスや情報を踏まえてアルバムを聴くことで、大沢が作品に込めたメッセージを紐解くことができるはずだ。 

(文=中村拓海)

■番組情報
KKBOX presents『897 Selectors』
DJ:野村雅夫 
放送日:毎月第一・第三週木曜20:00からInterFM897でオンエア
次回ゲスト:大沢伸一(6月15日放送)
番組ホームページ

■連載「アーティストが語る“ミュージックヒストリー”」バックナンバー
第一回:イトヲカシの「ルーツ」となっている楽曲は? 伊東歌詞太郎&宮田“レフティ”リョウが大いに語る
第二回:大塚 愛が明かす、デビュー以降の“声の変化”と転機になった洋楽ソング
第三回:藤原さくらが“アレンジの重要性”に気付いた作品とは? 「クレジットをかじりつくように見た」
第四回:MACOの音楽に影響を与えたポップス・日本語ラップの作品は? 本人が語る“意外な”ルーツ

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