アイドルの「現場重視」と「メジャー回帰」のバランスに新潮流? NGT48の挑戦を読む

 その基盤として、坂道シリーズがシングルリリースのたびにメンバー全員分の個人PVを制作し続けていることは、昨今しばしば話題にのぼるようになってきた。とりわけ5年超のキャリアをもつ乃木坂46は、個人PVを通じて映像クリエイターとの関わりを紡ぎ、物語性の高いMV群へと結びつけてきた。「現場」の一回性とはまた対照的な道程からのブランディングがここにきて結実している。

 興味深いのは、AKB48グループの新鋭・NGT48がデビューシングル『青春時計』リリースに際して、坂道シリーズと同様に特典映像としてメンバー全員分の個人PVを制作していることだ。もちろん、NGT48はAKB48グループの一つとして地元・新潟に恒常的に存在する「現場」としての専用劇場を持ち、「一回性」を限りなく生み出していく。他方、個人PVも継続していくのであれば、それはライブ性とは異なる表現の場としてAKB48グループに新しい風をもたらすことになる。

 だとすれば、NGT48は常設劇場と個人PVとを両立して歴史を歩む、初めてのグループになる。

 土地に根づいた劇場公演もシングルCD付属の個人PVも、どちらも年月を重ねてこそ真価がわかるものであるため、1stシングルの段階でその効果の如何を問うことはできない。また、映像による表現に傾斜してきた坂道シリーズにしても、大会場のライブや握手会といった「現場」が大きな核になっていることは変わらないため、大局的にみたファンの消費行動が一変するわけではないだろう。

 ただ、仮にNGT48が48グループとして日々「現場」を持ち、同時に個人PVからも歴史を発展させていくのならば、現在はある意味で過渡期となるのかもしれない。もともと、2010年代前半にアイドルシーンに関する議論において「現場」がことさらに強調されたのは、テレビメディア主体のイメージが強い既存のアイドルのイメージを修正して、新たな時代に適切にチューニングするためでもあった。その環境さえも定着した現在、アイドルシーンの特徴を「現場」やSNSに収斂させるだけではなく、ライブと映像作品とのバランスに目を配った新たな潮流が見出だせるのか。NGT48がこれから紡ぐ歴史は、その意味でも興味深い。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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