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- 2017.03.20
この流れで紹介したいのが、Kneebody『Anti-Hero』。カマシ・ワシントンの人脈ではないけど、LAを代表するバンドのひとつで、前作をプロデューサーのDaedelusとのコラボで<ブレインフィーダー>から『Kneedelus』としてリリースしているような個性派でもある。今やUSを代表するサックス奏者でもあるベン・ウェンデル、De La Soulの復活作『And The Anonymous Nobody…』にも起用されたカーヴェー・ラステガー、そして、ベーシストとしてもドラマーとしても活動しつつ、更にエンジニアとしてもダニー・マッキャスリンやティグラン・ハマシアンの作品にも関わる現代ジャズシーン最大の謎にして鬼才ネイト・ウッドなど、敏腕揃いのバンドだが、その活動は2001年からと長い。バンドとしてのコンビネーションやコンセプトの共有具合はもはや異次元で、どこまでが即興でどこまでが楽曲なのかもわからない。敏腕たちが自身の楽器を最大限にコントロールすることで、エレクトリックなサウンドとアコースティックなサウンドとの境界線どころか、時に各楽器の境界線までもが曖昧になる瞬間さえ生み出してしまう、そのテクスチャーへのこだわりも驚きに満ちている。
そして、最後に一つ加えておくとしたら、黒田卓也など日本人のミュージシャンにより結成されたMEGAPTERASの『フル・スロットル』だ。2016年にリリースされた黒田卓也『ジグザガー』も即興要素を大幅に増やし、黒田のトランぺッターとしての魅力が全快になった傑作だったが、このMEGAPTERASもまた彼らの即興演奏の魅力に満ちている。その音の厚みやテクスチャーなどが素晴らしく、ジャズのアルバムにありがちな薄さや細さを全く感じさせないのは、NYで録音し、鍵盤奏者のジェシー・フィッシャーがミックスしたというこだわりゆえか。そして、ドラムにかけた大胆なディレイなどもツボを押さえた鳴りで、しかもそれが作曲やアレンジに絶妙に組み込まれていて、更にそこに各メンバーの緊張感のある即興演奏も堪能できるという意味で、こういう作品を待っていたリスナーは多いのではないだろうか。そして、今や国内のジャズシーンのみならず、音楽シーンで注目を集める鍵盤奏者の宮川純の技術やセンスが最大限に発揮されたレコーディング作品としても聴くべきかもしれない。「BOJO」での彼のソロは一聴の価値はある。
ここで紹介したものはすべて、ジャズミュージシャンの即興演奏が発揮された作品でありながら、それぞれにジャンルの境界領域にも踏み込んでいて、ジャズを聴く耳以外にこそ引っかかる音楽性を持っている。にもかかわらず、ジャズのリスナーを満足させるだけでの強力な演奏をも同時に聴くことが出来る。おそらく、このような流れは今後も続き、更なる刺激的な作品が生まれるだろう。
■柳樂光隆
79年、島根・出雲生まれ。ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。「Jazz The New Chapter」監修者。CDジャーナル、JAZZJapan、intoxicate、ミュージック・マガジンなどに寄稿。カマシ・ワシントン『The Epic』、マイルス・デイビス&ロバート・グラスパー『Everything’s Beautiful』、エスペランサ・スポルディング『Emily’s D+Evolution』、テラス・マーティン『Velvet Portraits』ほか、ライナーノーツも多数執筆。
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