米津玄師、阿部真央、カノエラナ、majiko、赤い公園…作り手の“存在”がリアルに伝わる作品たち

 アーティスト自身が作り出すオリジナル曲には、音楽的ルーツはもちろん、その時期のリアルな体験や感情、場合によっては人生観、死生観なども内包されている。そう、楽曲の価値とは単に音楽的なクオリティだけではなく、そこから“アーティストの人間性そのものが感じられる”という側面も含まれているのだ。今回は作り手の息づかいと存在が生々しく伝わってくる新作をピックアップする。

 2016年9月に発売された『LOSER/ナンバーナイン』に関するリアルサウンドのインタビューで「厳密に言うと確固たる“自分自身”なんて存在しない。いろんな人間のいろんなエッセンスをコラージュして出来上がったのが、自分だと思っています」と語っていた米津玄師。おそらくは“人間とは情報の集積である”という冷徹な認識こそが米津の創造性の軸であり、その傾向は本作『orion』にも反映されていると思う。TVアニメ『3月のライオン』(NHK総合)第2クール エンディングテーマとしても話題を集めているこの曲は、トロピカルハウスのテイストを感じさせるトラックとクラシカルなストリングスを融合させたミディアム・アップ・チューン。<離れないように あなたと二人/あの星座の様に 結んでほしくて>という願いを込めたリリックを含め、この曲には2017年のポップミュージックにおけるモチーフが緻密に編み込まれている。情報のエディット感覚とも呼ぶべきセンスこそが、彼のポップの源なのだと改めて感じる。

米津玄師「orion」

 この2年の間に“結婚、妊娠、離婚”という出来事を経験してきた阿部真央。そこで感じたことは約2年半ぶりとなるニューアルバム『Babe.』にも強い影響を与えているはずだが(本作に収録された楽曲は“かけがえのない存在と出会ったことの喜び”と“別れに対する悲しみと怒り”に大別されている)、実体験やリアルな気持ちをそのまま歌にするのではなく、客観的な視点を交えながらフィクションとして成立させているところがポイント。彼女は決して“生き様を歌に刻み込む”というタイプのシンガーソングライターではなく、“この経験を普遍的な歌にするためには何が必要か?”ということを常に念頭に置いているのではないか。1曲目の「愛みたいなもの」は放つ普遍的な魅力がそれを証明している。

阿部真央「逝きそうなヒーローと糠に釘男」

 Twitter30秒弾き語り動画で注目を集めたカノエラナは自分自身をメディア化するセンスに長けたアーティストだと思うが、2ndミニアルバム『カノエ上等。』のリード曲「トーキョー」は、そんな彼女の特性がわかりやすく示された楽曲だと思う。“夢を実現させるために上京してきた女の子の心情”というテーマ自体はありきたりだが、<自炊は3日で諦めた><友達もできたよ…うん ちょっとだけチャラいけど>といった描写を入れることで、グッと親しみの度合いを増しているのだ。生々しいバンドサウンドとともに、匿名のSNSでしか本音を言えない現代人の切なさを歌い上げる「おーい兄ちゃん」もリスナーの年齢を問わず“あるある”感たっぷり。幅広い人々の等身大を代弁するというポップスの基本を改めて実感できる作品だ。

カノエラナ「トーキョー」

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