Brian the Sunが“男性的表現”を意識した理由 森良太「チヤホヤされる環境が退屈で仕方なかった」

Brian the Sun 森が“男性的な表現”描いた理由

「『らしさ』にバンドが殺されてしまうこともある」

ーー個人的にアルバムのトラックリストを見て気になったというか驚いたのは、「アイロニックスター」と「Cloudy#2」が入っていることで。前者は森さんが“うしろめたさP”として初音ミクを使ってニコニコ動画に投稿した楽曲で、後者は(田中)駿太さんがバンドに加入して初めてのシングル収録曲ですよね。この2曲を改めてこのタイミングで収録した理由は?

森:そこまで特別な感情はなくて、シンプルに曲として馴染むかどうかということを考えて収録しました。どっちもタイミングがあれば入れたいとは思っていたので。「Cloudy#2」に関しては、ほかにめちゃくちゃ爽やかな曲があったんですけど、どうも合わなかったので収録することをやめて、この曲を収録することになりました。

ーー打ち込みだった「アイロニックスター」も、バンドサウンドとなると一味違いますね。

森:じつはこの曲、ソロの宅録名義で出したCDにも入ってるんですよ。だからボカロ曲にした時点で焼き直しという扱いで、原点に戻ったという意味合いが強いです。

ーーもう1曲、最初の方にできた「Hi-Lite」は、アルバムの中だと際立って爽やかに聴こえました。

森:自分的には作り終わってから「THE YELLOW MONKEYっぽい曲だな」と感じました。「Hi-Lite」はおじいちゃんが吸っていたタバコの銘柄で、自分はおじいちゃんとおばあちゃんに育てられたので、「Hi-Lite」が父性の象徴みたいなものなんです。そこに触れたい、そうなりたいという願望だったり、その強さに対する憧れを表現している象徴ですよね。

ーーこれも前回インタビュー時に話しましたが、今のBrian the Sunは、森さんの弾き語りをベースに作っていくやり方と、バンドのアンサンブルを考えながらパッケージングしていく方法の二通りの作り方があるんですよね。今回のアルバムでは、どちらの比重が高かったですか?

森:昔からある曲を除けば、家で作り込んでいったパターンの曲が多いですね。「Mitsuhide」とか「Physalia」といった、疾走感を感じる、直感に訴えかけるような曲はメンバーに任せることもありましたけど、全体的に僕のなかでイメージを固めて「こういう路線でいきたい」とお願いするものが大半でした。「Hi-Lite」は弾き語りベースに少しだけ全体を作って、プレイヤーとしての個性を出す部分は任せました。

ーーラストの「月の子供」は、インディーズ2ndアルバム『Brian the Sun』でいうところの「アブソリュートゼロ」に近い、森さんのピアノ弾き語りをベースに進行していく楽曲です。

森:この曲は「アブソリュートゼロ」とは違って後半にバンド演奏が入っているので、弾き語りを作った意識はあまりないですね。これは個人的な感覚でしかないんですけど、バンドの音楽ってあくまで言葉とメロディがあっての曲だと思うんですよ。ギターもベースもドラムもあくまで伴奏で、それぞれのプロフェッショナルが集まっているのがバンドというか。1人1人に強烈なアイデンティティがあると、うまくバランスも取れないやろうし、楽器隊が歌とメロディに対してアプローチしてくれてないと、何が主題かわからなくなるじゃないですか。

ーー楽器としては、必要なところに必要なフレーズや音が入っていればいい、という感覚?

森:そうですね。ギターもドラムもベースも必要不可欠なんですけど、そういう意識をしながら伴奏としての音を鳴らすと、しっかり曲が映えて、歌ものバンドとしての意味が生まれると思うんです。

ーーそれって、バンドマンとしては珍しい発想なのかもしれないですね。歌うたいというか、シンガーソングライター的な考え方かなと。Brian the Sunにはバンド然としたイメージがあったので、意外に感じました。

森:バンドに限らないことかもしれないですけど、長く知ってくれていればいるほど、受け手側って、その対象に「らしさ」を求めがちじゃないですか。でも、僕は割とそれについてはどうてもいいと思っていて。むしろキャラクターが立っている今だからこそ、その「らしさ」にバンドが殺されてしまうこともあると思うんです。ニーズを敏感に察知すればするほど、そこに変化していく本来の自分は無くなっていくので、あえてピントを必要以上に合わせていくつもりはなくて。真ん中から少しずれたところを目掛けてぶつけるのが、一種の楽しみでもあります。

ーーパブリックイメージは、その対象を認知する人が多くなればなるほど勝手に出来上がっていくものなので、メジャーというフィールドに上がった今もこれからも、戦う瞬間は増えていくでしょうね。

森:そこには立ち向かっていたいですね。とはいえ今回は1枚目のアルバムなので、この先「メジャーファーストアルバムはこういうものでした」と振り返って「これを作っておいてよかった」と思えるものを作りたかったから、自分の1番得意なことを積極的に取り入れていこうという思いはありました。

ーーアルバムに書き下ろした新曲のなかで、Brian the Sunの“次”を表しているのかなと思ったのが、「Cold Ash」という楽曲で。質感的には少しひんやりとしたもので、先ほど森さんが話してくれたコンセプトをまさに表すものだなと感じたんですよ。

森:これは『スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2015』のときに書いた曲ですね。ツアーのファイナルで演奏したかったんですけど、中途半端になるくらいならやめようと思って取っておいたものです。

ーー歌詞も<誰かの言葉に 心をやられてしまった 愛した音楽も 冷たい床に転がって>と、シリアスな内容ですが、ツアー中にそういう体験があったと?

森:やっぱりこういう大きなところに出ると、いい意味でも悪い意味でも注目は集まるので。色んな人からアドバイスされたり、ダメ出しをもらったりするんですけど、それを言いたい感情って、「意見を言って、自分のスペースをその人の中に作りたいから」なんじゃないかと思うようになって、それが鬱陶しいと感じてしまう時期があったんです。そんなの愛ゆえの一言で、良かれと思って言ってくれてるのに。そんな余裕のない時に作ったもので、救いを求める感情が強い1曲なんですよね。

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