KREVA、SKY-HI、Creepy Nuts……ヒップホップ新作に見るシーンの“充実”

チャイルディッシュ・ガンビーノ『Awaken, My Love!』

 そのSKY-HIが音楽サイト「MIKIKI」に掲載されたインタビューで「このアルバムに大きな衝撃を受けた」と語っていたのが、チャイルディッシュ・ガンビーノの『Awaken, My Love!』。ビヨンセ、ケンドリック・ラマーもしかりだけど、刺激を受けたアーティストの名前をどんどん言うのもSKY-HIのいいところだと思う。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのゴッチにも共通するマインドだ。

 チャイルディッシュ・ガンビーノの『Awaken, My Love!』はこれまでの作風とは一転して70sのファンクに接近したようなサウンドを導入している。というか、かなり真正面からPファンクなアルバムになっている。リード曲「Me and Your Mama」なんてファンカデリックの宇宙船が向こうに見えるような、アフロ・フューチャリスティックな一曲になっている。

 チャイルディッシュ・ガンビーノは、もともと脚本家としてキャリアを築きコメディ俳優としても人気を獲得してきたドナルド・グローヴァーのオルター・エゴ、つまりもう一つの名義でもある。多才な人だから臆せずどんどんギアを切り替えてポップなことをやれるという意味では、日本で言うなら星野源に近い存在なのかも。

Run The Jewels『Run The Jewels 3』

 続いては2014年に出た『Run The Jewels 2』が海外メディアで軒並み絶賛を集めてたことから名を知ったRun The Jewels。キラー・マイクとエル・Pの2人からなるヒップホップ・デュオ。前作では元Rage Against the Machineのザック・デ・ラ・ロッチャが参加した「Close Your Eyes (And Count To Fuck)」が格好よかったし、その人選からもハッキリわかるように、かなりストレートに“怒り”と“不服従”を表明する作品だった。

 だからトランプ大統領が選出された2016年を経て何らかのリアクションを示すはずだと思っていたけれど、やはり新作『Run The Jewels 3』は相当シリアスでコンシャスなアルバムになった。

 「2100 (feat.BOOTS)」はトランプが大統領に選出された直後にシェアされた曲。キラー・マイクは「“もう一つのホロコースト”に突き進んでいくようなヘイトが充満したのはいつぶりだろう」「火炎瓶を握ったヤツが『革命は今ここで起こる』と言う」と冒頭からラップする。6/8拍子のトラックが格好いい。

 カマシ・ワシントンのサックスも聴きどころな「Thursday in the Danger Room」を経て、ラストは「Shareholders / Kill Your Masters」。曲後半のヴァース、<キル・ユア・マスターズ!>と繰り返すフックの後に出てくるザック・デ・ラ・ロッチャの存在感たるや! ここがやっぱりアルバムのハイライト。ちなみにこの曲、先日にワシントンDCで開催されたドナルド・トランプの大統領就任に抗議するイベントでも披露されたという。Public EnemyからRage Against the Machineに引き継がれた“怒り“と“不服従”のシンボルを、今、Run The Jewelsが握っているということを感じる。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

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