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『「百六十度」ツアー2017~東名阪ワンマンライブ』レポート

ヒグチアイがワンマンで体現した“決意とユーモア” 強力サポート陣との一夜をレポート

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 2016年11月にメジャーデビュー・アルバム『百六十度』をリリースしたシンガーソングライター、ヒグチアイのワンマンツアー『「百六十度」ツアー2017~東名阪ワンマンライブ』が1月7日、東京・渋谷WWWを皮切りに名古屋、大阪にて開催された。

 筆者が観たのは初日の東京公演。客電が落ち、山本タカシ(Gt.)、酒井由里絵(Ba.)、伊藤大地(Dr.)、そしてエマーソン北村(Key.)という強力なサポート・ミュージシャンがステージ上でセッティングしている中、赤いドレス姿のヒグチが現れると、会場からは大きな拍手が巻き起こる。アルバム『百六十度』のリード曲、「誰かの幸せは僕の不幸せ」でこの日のライブは始まった。静寂の中、ギターとベースがまるで呼応するかのように、シンプルなフレーズを重ね合わせて幾何学的な音像を作り出す。その上を、ヒグチの歌声と優雅なピアノがゆっくりと浸透していき、次第に演奏が熱を帯びて有機的な絡みをみせはじめる。スポットライトを浴び、真っ直ぐこちらを見据えながら歌う、彼女のアルトボイスにたちまち耳を奪われる。心をざわつかせるビブラート、今にも泣き出しそうな節回しには、宇多田ヒカルの持つ「哀愁」や、鬼束ちひろの持つ「情念」と共通のものを感じさせる。曲が進み、サビを迎える頃には、すでに彼女の世界観の一部となってしまったようだった。

 序盤からクライマックスのような、感動的な演奏に圧倒されていると、おもむろに客電が点いて「自己紹介ソング」が始まった。さっきまでの、情念たっぷりのパフォーマンスとは打って変わって、ほのぼのとしたひと時。自然発生的に始まった客席のハンドクラップ、コール&レスポンスも完璧で、この日のワンマンライブを待ちわびていたファンとの、強い「絆」を感じさせるものだった。

 再び客電が落ちてシリアスな演奏へ。幼少の頃、クラシックピアノを本格的に習っていたヒグチが、まるでシンセのシーケンス・フレーズのように超高速のパッセージをはじき出せば、緩急自在のリズム隊がそれを追いかける。静寂と狂騒を行き来するダイナミックなアンサンブル。そんな中でもヒグチの歌詞が、隅々までクリアに聞き取れていることにふと気づく。荒々しいグルーヴを繰り出しながら、常に彼女のボーカルを引き立たせようと細心の注意を払う、バンドメンバーたちの熟達したプレイに脱帽するばかりだ。

 中盤の「ピアノ弾き語りコーナー」では、同棲していた恋人が去った後の“喪失感”を、切々と綴った「アイカギ」や、遠い昔に置き忘れた淡い恋がテーマの「さっちゃん」を、これでもかと言わんばかりに情感を込めて歌う。自身の恋愛体験を基にしたという、赤裸々な歌詞が胸を打つ。常に疎外感や焦燥感を抱えながら、自分の居場所を手探りで探し続けてきたヒグチ。しかし、そんな彼女の「歌」が、たとえどのような状況でも必ず“救い”を感じさせるのは、どこか自分を俯瞰で見て面白がっているような、クールで客観的な視点が内包されているからではないだろうか。「猛暑です」では、エンディングのたった1音のため“だけ”に銅鑼(ドラ)を運び込んで打ち鳴らし、会場の笑いを誘ったり、「恋人よ」ではイントロに“前口上”を付け、まるで「歌謡ショー」のようにハンドマイクで歌い上げてみたり。そうしたお茶目な演出からも、シリアスになり過ぎない、彼女のユーモア感覚を垣間見ることができたのだった。

      

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