岩里祐穂 × 松井五郎が語り合う、作詞の極意 「女性が書く詞には“強さ”がある」

岩里祐穂 × 松井五郎が“作詞”を語る

テーマ:エロス

安全地帯「じれったい」(1988年)

岩里:次は松井さんがまず最初にやりたいとおっしゃていたテーマですね。

松井:そう。僕の芸風のひとつにいわゆるエロスをいかに文学的に書くかっていうテーマがありまして。

岩里:私は松井さんといえば「勇気100%」のイメージで話していたら、「いやー、僕はエロスをどう高尚に書くかっていうので有名な作詞家なんですけど」っておっしゃって笑いました。

松井:(笑)。安全地帯の曲は1コーラスが短くていいんですよ。そして安全地帯といえば、やっぱり玉置浩二のキャラクターというか。当時世間を賑わしたこともありましたけど、そういったことも込みで、ある種スリルみたいなもの、そういう世界を提供していこうとしてましたね。

郷ひろみ「Good Times Bad Times」(2007年)

岩里:このテーマ、私にはないないと思っていたら、あったんですよ。

松井:この曲は1コーラス目が好きです。何に収録されていたんでしたっけ。

岩里:これはシングル曲です。……いやあ、びっくりしましたね、久しぶりに聴いたら。私もかなりな表現で。

松井:当時、僕もこの曲が入っている『place to be』(2008年)というアルバムに「Reverse ~どうしてこんなに~」という曲で参加していたのでよく覚えてますよ。

岩里:1点言おうとすれば、<愛はどこにある><明日はどこにある>の部分は、私が女性だから「あー、こういうこと思うんだよな」と思って書いた記憶があります。

松井:女性はね。

岩里:そう。男性目線の歌なんですけど、入れずにはいられなくて。

松井:なるほど。僕は詞を書く時はあまり年齢とか男性・女性とか考えないようにしてますね。女性に書く時も心の状態はある意味男性的だったりとか、その逆もそうですし。僕の歌は両性具有的な、ジェンダーな詞かもしれないです。安全地帯の歌でも”あなた”という人称を使っているので、女性が歌っても成立するんですよね。

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テーマ:別れ

アン・ルイス「夜に傷ついて」(1992年)

岩里:続いては、アン・ルイスさんの「夜に傷ついて」です。

松井:僕は2番Aメロの<永遠などきっと在りはしない>、こういうフレーズが好きですね。「きっと」が入っているから、きっと在るかもしれないし、ないかもしれないっていう。そのあとの2行もすごくいいと思う。ただ、その次の行がちょっと強烈ですよね。<左手の薬指噛んで傷つけてほしい>、ここは男性は……というか自分ならちょっと怖くて書けないなっていう(笑)。

岩里:このフレーズで、アン・ルイスさんの激しさや情念の深さを表現しました。アン・ルイスさんにはいつも、“かっこいい大人の不良性”をどう歌詞に反映させるかを考えて書いていたんですけど、これは初めて不良性ではないかたちで表現した歌でした。でも確かに<左手の薬指噛んで傷つけてほしい>は怖いかも。

松井:そうそう。表現についてそれが心象描写なのか現実の描写なのかをよく考えるんです。例えば左手の薬指を噛むことを実際にやるのかやられるのかわからないけど、そういうような人と出会った経験ももちろんないし、そういうことはあまりないじゃないですか(笑)。

岩里:妄想ですからね。

松井:さらに左手っていうところに意味があるから心象風景になるんですけど、実際にそれがシチュエーションの中で語られていくとすると、ちょっと怖いフレーズになっちゃいますよね。

岩里:これは女性作詞家ならではの発想かもしれないですね。

安全地帯「Friend」(1986年)

岩里:お次も素晴らしい曲です。先ほどパズルのように言葉をはめて詞を書いていくとおっしゃってましたけど、こういった歌は一筆書きのように書いていくんですか?

松井:いや、そんなことないですよ。この曲ももちろん内容的なことを無視して書いてるわけではないんですけど。玉置浩二の曲はメロディはすごく少ないんです。さらにブレスの位置が難しい。英語だといいんですけど、日本語を入れるのはすごく難しいんです。特に2行目の<言えないまま><指・髪・声><できないから>の部分は2音、2音、2音で歌った方が綺麗。そういったメロディの個性を生かしながら、玉置がどう“歌わないか”ということを考える。音がないところでさっき言ったブレス、間をとる、溜めるということが歌いやすい発音の言葉で考えるというか。<言えないまま>の今度はお尻なんですけど、<まま>の“ま”が“あ”の音で終わって、<できないから>も“あ”で終わっています。これは彼の特性である「らー」「あー」に含まれる息の成分を言葉に乗せられるような文字で考えてるんです。

岩里:なるほど。

松井:だから当時の彼みたいにウィスパーで歌う方は、息が抜けていく音をうまくメロディのいいところ、フレーズのいいところにどうやって持ってくるかということに苦労しましたね。

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