『紅白』は二度オリンピックの夢を見るか? “原点回帰”への動きを読む

 今年2016年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合・以下、『紅白』と表記する)は、「誰が出るか」よりも「誰が出ないか」という話題のほうが先行している感がある。

 宇多田ヒカル、KinKi Kids、THE YELLOW MONKEY、PUFFYなどずっと待望されていたアーティストの初出場、視聴者の投票で本日の出演メンバーを決める「AKB48 夢の紅白選抜」、今年4月にデビューしたばかりの女性アイドルグループ・欅坂46の初出場、「PPAP」動画で世界的に話題を集めたピコ太郎や大ヒット映画『シン・ゴジラ』の特別企画といった話題もあるにはあるが、それ以上に不出場の歌手やアーティストに目が向いている印象だ。こういう年も珍しいだろう。

 その最たるものがSMAPである。ただ彼らの場合、解散発表にあたってNHKも出演を強く望んだが辞退したという経緯で、他とは事情が異なる。だがそれ以外でも、和田アキ子の落選、細川たかしの卒業宣言があった。

 和田は1970年初出場で出場回数39回、細川は1975年初出場で出場回数がやはり39回。つまり昭和から出場を重ねてきた「番組の顔」的大ベテランである。その二人が、かたちは違うとは言え『紅白』から姿を消した。これは2013年の北島三郎、昨年の森進一の卒業宣言から続いてきた流れでもある。細川もコメントしたように「世代交代」、平たく言えば「若返り」である。特に今年は、紅組司会が有村架純、白組司会が嵐の相葉雅紀のコンビということもあって、その印象は強い。

 その背景には、スタッフも明言しているように、今年が改革4か年計画の初年度であるということがある。2019年がちょうど第70回の区切りの年ということもあるが、2020年が東京オリンピック・パラリンピック開催の年であることも大きい。「そのことと『紅白』のあいだになんの関係があるのか?」と思う方もいるかもしれないが、そこには実はとても深い関係があるのだ。

 『紅白』の史上最高視聴率はどの年だったかご存じだろうか? 正解は1963年で、81.4%。テレビ離れを指摘する声もある現在では、ありえないような驚異的な数字である。

 その1963年の『紅白』は、翌1964年に開催される東京オリンピック前夜祭とも言える内容だった。オープニングは、まだ「寅さん」を演じる前の渥美清が聖火ランナーの扮装で登場、舞台上の聖火台のセットに点火するところから始まる。審査員にもオリンピック選手村総責任者に決まった貞閑晴(さだか・はる)が選ばれていた。そしてエンディングに出場歌手全員で歌ったのが、この年ヒットした「東京五輪音頭」。番組の最後に「蛍の光」以外が歌われたのは、後にも先にもこの年だけである。その場面はいま見ても、明るい未来を信じる国民の熱気がひしひしと伝わってくる。時代は高度経済成長期を迎えていた。

 その意味で、今年スタッフが「2020年」を目標に定めたのも不思議ではない。白組で出場する福田こうへいが「東京五輪音頭」を歌うことになっているのも、その証しだ。また、ゆずが歌う「見上げてごらん夜の星を」も1963年の『紅白』で坂本九が歌ったその年のヒット曲だ。そこには、近年40%前後にとどまっている視聴率の上昇を「夢よもう一度」と願う気持ちもないわけではないだろう。

 だが先ほどもふれたように、テレビを取り巻く状況は50年以上前とは大きく変わっている。そのことをスタッフも知らないはずはない。大切なのは、それを踏まえて時代に適応した新しい『紅白』のコンセプトを再構築することだ。そのための改革であり、4か年計画ということであろう。

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