ハイレゾも人気のSHANTI、ジャズを歌う理由と「空気を通して聴く音楽」の重要性語る

SHANTIはなぜ“ジャジー・ポップ”を歌うのか

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「エンタメに引っ張られ過ぎず、自分の音楽を追求できるフィールド」

ーー「Over The Rainbow」「Home At Last」のピアノはフェビアン・レザ・パネ。小野リサさん、大貫妙子さんなどの数多くの作品に参加している名ピアニストですよね。 

SHANTI:とても繊細な方なんですよ。私からアレンジのイメージや「ここにピークを持っていきたい」ということを話させてもらったら、フェビアンさんもすごく乘ってきてくれて。すぐ息も合ったし、リハーサルもレコーディングも上手くいきました。小編成の場合はひとりひとりの役割が大きくなるし、歌詞の意味、ストーリー、「どういうニュアンスで歌いたいか」ということをボーカリストから伝えることはすごく大事なんですよね。たとえば「Over The Rainbow」だったら、歌に入る前のストーリーを話す部分が私はすごく好きで。そのパートも大事にしたかったし、舞台女優みたいなイメージで歌えたのも楽しかったですね。

ーー「Home At Last」については?

SHANTI:原曲はアイルランド民謡の「サリーガーデン」で、自分で英語詞を付けています。これは映画『惑う After the Rain』英語版の楽曲で、歌唱はRyu Mihoさんなんですが、今回のアルバムでセルフカバーして。この映画も『サバイバルファミリー』と同じように家族の絆を描いているんですね。いまの社会の在り方を踏まえて、本当に大事なものだったり、人間としてどう生きていけばいいかを考えたときに、家族というテーマにつながっているのかなって。私自身もいろいろと考えさせられましたし、そのうえで歌詞を書いて、レコーディングに臨みました。聴いていてホッコリするというか、家族の顔が見えるようなイメージですね。幼い頃の気持ちを思い出しつつ、それを歌詞の描写にも入れています。

ーー誰にでもそれぞれの家族観がありますからね。SHANTIさんのなかで、家族の思い出というと?

SHANTI:海と山で遊んでいた印象が強いですね。逗子生まれなんですけど、海と山に囲まれていて、ターザンごっこしたり、イソギンチャクに指を突っ込んだりとか、野生児みたいに育ったので(笑)。都会で育っていないので、自然の空気感、時間の流れ方というのが自分のなかにあって、それは音楽にも出ていると思いますね。テンポ感、歌い回しのなかに、風だったり、太陽の温かさ、草野の匂いみたいなものが無意識のうちに入ってるんじゃないかなって。

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ーー原風景と音楽がつながっているんですね。幼少の頃から音楽に囲まれて育っていたんですよね?

SHANTI:みなさんが想像しているほどではないと思いますよ。父がミュージシャンで母が海外アーティストの通訳をやっていたから、よくわからないままコンサートには連れていかれてましたけどね。ジャクソン・ブラウンとか、そういう音楽は吸収していたと思いますが、英才教育という感じではぜんぜんないです。

ーー歌手になろうと思ったのはいつ頃ですか?

SHANTI:中学生のときに「ずっと歌っていたいな」と思ったんですよね。それはいまも同じで、エイジレスな歌手でいたいんです。若さゆえの何かではなく、長く歌っていける活動はずっと心掛けてますね。

ーー10代のときからそういう意識だったんですか?

SHANTI:そうですね。10代の頃からいろんなレコード会社からお話をいただいてたんですが、全部断っちゃったんですよ。父が音楽業界にいたこともあって、「シンガーとしてスターになる」という夢を見られなかったんですよね。華やかな世界の裏には大変なことがたくさんあることも知っていたし、何に巻き込まれるかわからない状態で、そこに飛び出していくことに抵抗があった。あるプロデューサーの方に「本当は音楽をやりたくないんじゃないの?」と言われたこともありましたけど、そこはグッとこらえて。その後、いろんな音楽に触れていくなかで、ジャズの世界がしっくり来たというか、無理がなかったんですよね。エンタメに引っ張られ過ぎず、自分の音楽を追求できるフィールドはここだなって。自分の音楽という作物を育てる畑というイメージなんですよね、ジャズは。

ーーふだん聴いている音楽もジャズが多いんですか?

SHANTI:音楽の趣味は、自分がやっているものとは違いますね。家で聴いてるのはソウル、R&Bが多いんですよ。もともとはアレサ・フランクリンとか、歌い上げる歌手が好きで。自分がやっている音楽に近いものだとジョニ・ミッチェルとかシャーデーとか。アリシア・キーズなども聴きますけど、基本的には70年代のソウル・オールディーズですね。ただ、そういう音楽は自分には合わないと思って。

ーーリスナーとして好きな音楽とシンガーとして似合う音楽が違うことに、葛藤は感じなかったですか?

SHANTI:ありましたよ、それは。いまもときどきソウル・トリビュートのライブに参加していて、すごく楽しいんですけど、やっぱり「自分の声の良いところが出せる音楽ではないかもしれないな」と思ってしまうので。そういうジャンルで私よりも遙かに表現力があったり、人生をかけて追求している人たちもたくさん見てしまったし、「好きっていうだけでは仕事にならないな」と感じて。2013年、14年くらいまではいろいろ考えていましたね。

ーーいまは違う?

SHANTI:はい。そういう葛藤や悩みを手放そうと思ったんです。そういうことで疲れていたら自分の歌は届かないんじゃないかなって。いまは客観的に自分の歌を聴いてくれているプロデューサー、ミュージシャンの方々に委ねている感じですね。長く活動していけばいろんな時期があるだろうし、また変化することもあると思うんですけど。

ーー委ねるというスタンスは、今回の『SHANTI sings BALLADS』にもつながっていますね。

SHANTI:そうですね。最初に「選曲はプロデューサーに任せた」と言いましたけど、その人は1stアルバム『BORN TO SING』、2ndアルバム『ROMANCE WITH ME』のプロデューサーだったんです。歌手としての始まりの時期、それから5年経った転換期に同じプロデューサーと一緒に制作するのも意味があるんじゃないかなって。私にとってはひとつの区切りになる作品だと思いますね。

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ーー“ジャジー・ポップ”というスタイルを改めて示すという意味でも、有意義な作品だと思います。自分のジャンルが確立できたという手応えもあるのでは?

SHANTI:ジャンルについては、どう答えていいかわからないんですよね(笑)。“ド・ジャズ”というわけでもないし、ポップの要素もあるから“ジャジーポップ”と言っているんですが、ジャンルを区切っているわけでもないし、あまり意識もしていないので。参加してくれるミュージシャンのアプローチによって形作られているところも大きいし、私だけのボイシング、世界観ではないですからね。

ーーただ、マーケットを意識した現代的なポップミュージックとは一線を画していますよね?

SHANTI:そうですね。得しているのか損しているのかはわからないですが(笑)。他の人とは違うことをやっているとは思いますが、ライブの規模を大きくしたい、もっと多くの人たちに聴いてほしいという気持ちも当然あるので。ひとつ言えるのは「音楽は頭で理解するのではなく、感じるもの」ということは忘れないでいたいですね。

ーー新しいオリジナル曲も楽しみにしています。

SHANTI:しばらく書き下ろしの曲を作っていないですからね。自分の心境の変化だったり、ポリティカルなメッセージを込めた曲を書いてみたいという気持ちもあるので、少しずつ制作をやっていきたいと思います。

(取材・文=森朋之)

「HARD TIMES COME AGAIN NO MORE」ミュージックビデオ
https://youtu.be/cagrWg_qMWI

■リリース情報
『SHANTI sings BALLADS』
発売:2016年12月21日(水)
価格:3,000+tax

<収録内容>
1: Home At Last [Traditional / SHANTI](新録)
2: Lullabye (Goodnight My Angel) [Billy Joel] from “SHANTI’S LULLABY”
3: Your Song [Elton John / Bernie Taupin] from “Jazz en Rose”
4: Fields Of Gold [Sting / Gordon M.Summer] from “SHANTI’S LULLABY”
5: Estrada Branca [Vinicius de Moraes & Gene Lees / Antonio Carlos Jobim] from “Lotus Flower”
6: Time After Time [Robert Hyman / Cyndi Lauper] from “Kiss the Sun”
7: Ev'ry Time We Say Goodbye [Cole Porter] from “Romance with Me”
8: Over The Rainbow [E.Y. Harburg / Harold Arlen](新録)
9: Across The Universe [John Lennon / Paul McCartney] from “SHANTI’S LULLABY”
10: Fly Me To The Moon [Bart Howard] from “Born to Sing”
11: Overjoyed [Stevie Wonder] from “Lotus Flower”
12: Hard Times Come Again No More [Stephen Foster] (新録)

■映画情報
『サバイバルファミリー』
原案・脚本・監督:矢口史靖
公開日:2017年2月11日より全国東宝系にてロードショー
出演:小日向文世 深津絵里 泉澤祐希 葵わかな
主題歌:「Hard Times Come Again No More」SHANTI(日本コロムビア)
(c)2017 フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

■関連リンク
公式サイト
公式ブログ
Facebook [Shanti & Friends] @shantifriends
Twitter @ShantiSnyder

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