ササノマリイが語る、“歌うこと”への目覚め 「素材じゃない歌には、命が宿ってる」

ササノマリイが語る、“歌うこと”への目覚め

「僕自身が歌えばもっと可能性が広がるじゃないかと思った」

ーーねこぼーろ名義でVOCALOIDを使い始めたのは、どういう経緯だったのでしょうか。

ササノマリイ:ずっとインスト曲を作っていたんですけど、やっぱり大抵の人は、オケじゃなくて「歌」を聴くんだよなっていう葛藤もあったんですよね。例えば友人などに聴かせても、反応がイマイチ微妙だったりして(笑)。「やっぱり“声”は必要だ、でも俺は歌が下手だし……」って思っていた時に、VOCALOIDの存在を知って。それで、kzさんの「Packaged」や、bakerさんの「celluloid」などを聴いて、「VOCALOIDでここまで出来るのか!」と衝撃を受けたんですよね。

ーーそこでバンドを結成しようとか、シンガーを募ってユニットでやっていこうとか、そういう発想は?

ササノマリイ:全くなかったですね(笑)。「メンバー募集とかみんな、よくできるよな。怖くないのかな」って思ってました(笑)。「一人でやりたい」「他の人とは上手くいかないだろう」っていう気持ちが、当時はすごく強くあったんですよ。エゴが強かったのかもしれません。楽器が大して弾けるわけでもなかったけど、一音ずつ繋ぎながらでも、自分で全て演奏したかった。だからVOCALOIDがあれば、声を完全に「素材」として扱いつつ、自分の頭の中にある音のイメージを構築できるな、と。

ーーじゃあ、ライブをやりたいという気持ちは?

ササノマリイ:それもなかったですね。生楽器の音を、大きなホールで聴くのももちろん良いんですけど、レコーディングされた「録音物」としてのサウンドの方が、当時の自分は好きだったんだと思います。例えばトータルコンプのかかった独特のサウンドは、生楽器の演奏では出せないじゃないですか。なので、自分が作った作品をライブで再現することに対して、あまり意義を見出せなかったのかもしれないです。

ーーそんなササノマリイさんにとって、より多くの人に自分の楽曲を聴いてもらう手段として、インターネットは欠かせない存在だったわけですね。色んな人の感想がダイレクトに返ってくるし。

ササノマリイ:確かにそうですね。でも、僕がネット配信を始めた当時はみんな優しくて(笑)、的確なアドバイスをくれる人がたくさんいました。まだニコニコ動画も一般的ではなかったし、本当に好きな人だけが細々とマニアックなことをやっている時代だったからでしょうね。ワンコーラスしか出来てない、未完成のデモを上げても褒めてくれたし。

ーー2011年05月、ねこぼーろ名義で投稿した「戯言スピーカー」が大きな反響を呼び、ぼくのりりっくのぼうよみやDAOKOらにカバーされました。ササノマリイさんにとっては大きなターニングポイントだと思うのですが、この曲が出来た経緯は?

ササノマリイ:実はこの曲、家族と旅行に行く時、車の助手席で作ったんです(笑)。「最近、曲をアップしてないし、つなぎで1曲上げておこう」くらいの軽い気持ちで。あまりパソコンに負荷をかけないよう、軽めの音源を使うなど、かなり限られた環境での曲作りだったんですけど、かえってそれが良かったのかもしれないですね。僕の場合、すごく気合を入れて作った自信作のアクセス数が、全く伸びないことはよくあるので……(笑)。

ーー(笑)。「戯言スピーカー」のアクセス数が伸びた理由は、自分ではどう分析しています?

ササノマリイ:自分としては、はっきりとした強い言葉で歌詞を書いたからなのかなと思っています。僕はSpangle Call Lilli Lineの歌詞の、パズルのような世界観が大好きで、それまでの自分の歌詞も、割と意味がはっきりとはわからないような、言葉の響きに重きを置いたものが多かったんですけど。

ーーちなみに、曲を作っていてテンションが上がるのはどんな時?

ササノマリイ:即興で曲を作ることが多くて。試行錯誤して、何か操作をミスってエラーが起きて。「あ、ここ消えちゃったけど、なんか面白いからこのままにしておこう」とか、全く意図してないエフェクトを挿しちゃったけど、なんか変な音で良いな、これを活かそう、みたいな時ですね。

ーーいわゆる「チャンス・オペレーション」(J・ケージが1950年代初頭に考案し、実験音楽家らによって活用された、偶然を利用してスコアを作成する手法)ですよね。脳内でセッションしている感じというか。

ササノマリイ:まさにそうですね。それがすごく楽しくて、ずっと音楽を作り続けてこれたのかなと思います。

ーーミュージックビデオも印象的なものが多いですが、絵画や映像作品にも当時から興味があったのでしょうか。

ササノマリイ:cubesatoさんを知った頃、ちょうどFLASHなどモーショングラフィックスが全盛で。『flash★bomb』(2ちゃんねるFlash・動画板発のオフラインFLASHイベント)などに作品を挙げていた人たちと、cubesatoさんがコラボした作品が大好きでした。cubesatoさんのサウンドって、映像との相性がすごくいいんですよ。そういう作品に影響を受けて、パラパラ漫画を作るフリーソフトをDLしたこともありました。

ーーデジタルツールを使って、アナログっぽい表現をするというか。

ササノマリイ:牧野惇さんにお願いした「共感覚おばけ」のミュージックビデオは、紙人形やソーマトロープをモチーフにしているし、今回、「タカラバコ」の映像をお願いした畳谷哲也さんも、どこかアナログぽい手触りを感じさせるところに惹かれます。

ーー2014年から、現在の「ササノマリイ」名義で活動するようになります。 「自分の歌に自信がなかった」というササノマリイさんが自分で歌う方向へシフトしたのは、かなり一大決心だったのでは。

ササノマリイ:VOCALOIDの歌声に合わせたメロディだけじゃなく、色んな楽曲を書いてみたくなったんです。僕が作る曲なのだから、僕自身が歌えばもっと可能性が広がるじゃないかと。使える言葉もそうですよね。あと、声の好みとして「死んでる声」が好きなんですよ(笑)。サウンドは温かくて、歌詞も開き直っているんだけど、それを明るい声で歌うのではなく、あえて輝きのない暗い声で歌うことで、歌詞の意味が変わってくるんじゃないかって。

ーー楽曲の中に明暗やネジレが生まれますよね。より深みが出るというか。

ササノマリイ:そうなんです。でも、それを他の歌い手さんに「死んだ声で歌って」って頼むのは申し訳ないじゃないですか(笑)。だったら、自分で歌ってしまった方が早いかなという気持ちもありましたね。

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