冨田ラボが明かす、ポップと抽象のバランス「作るものは”日本のポップス”だと思っている」

冨田ラボが明かす、ポップと抽象のバランス

「ルートから始まるんだけど、僕らしさも詰め込めた」

ーー「Radio体操ガール」の、ラップとメロディが混じり合ったような楽曲って冨田ラボでは珍しいと思うのですが、これはチャレンジングなことでしたか?

冨田:これに関してはね、さほどチャレンジングなことでもなかったんです。というのも以前、M-FLO Loves Crystal Kayの「REEWIND!」と、RIP SLYMEの「マタ逢ウ日マデ2010〜冨田流〜」をリミックスしたことがあって、そこではラップの音程を完全に採譜し、全部にコードを付けたんですよ(笑)。元歌と比べると面白い。そっちの方がチャレンジングでしたね。

ーーよくそんなことが思いつきますし、実際やろうと思いますよね(笑)。

冨田:手法としては、フランク・ザッパとか、エルメート・パスコアールがやっていたことなんですけどね。パスコアールは『Festa Dos Deuses』というアルバムで、鳥の鳴き声や大統領の演説にコードをつけたような曲を作っていて、それを聴いた時に「ラップのリミックスをやるときは絶対それをやろう」って決めていたんですよね、30代の頃から(笑)。

ーー「冨田魚店 feat.コムアイ」はどうでしたか?

冨田:あの曲も「Radio体操ガール」と同じ手法でメロディを作ったのだけど、複雑さで言ったらあの曲が一番難しいかな。でもコムアイさん、歌ったんだよね、すごいよね(笑)。仮歌の時は、当日に現場で聞いてもらって録ったんだけど、最初聴いたときは顔が引きつってた(笑)。

ーーまだまだお聞きしたいこと、沢山あったんですけど、お時間が来てしまったようなので最後に。藤原さくらさんの「Bite My Nails」も個人的にはとても好きなのですが、先ほどおっしゃっていた、現代ジャズという文脈におけるベッカ・スティーヴンスみたいなアコースティックな楽曲ということについて、教えていただけますか?

冨田:現代ジャズの特徴として、やっぱりブラックミュージック寄りのものを抜粋すると、やっぱりリズムだと思うんですね。なまったリズムであるとか、奇数連符の適用であるとか。そういったものが一般化して、聴いていて気持ちいいと思うようになる人が増えた。そうなると、それがポップスの中に使える「コマ」になるわけですね。ブラックミュージックの要素をもつ現代ジャズの主流だとすると、その一方で、フォークとかトラディショナルとか、いわゆる民族音楽の要素ーージャズを学んでジャズを出来る人が、ハーモニー的なことで言えば全くジャズとは関係のない、そういったフォーキーでアコースティックな楽曲をやるという潮流も、明らかにあるわけです。そこも僕には新鮮に感じた。

ーーなるほど。

冨田:単にジャズメンがフォークっぽいものとか、アコースティックを取り入れたものとは全然違う、音楽の根本的な構造というものを、面白がっているように聴こえるんです。だから、テンションが三段、四段と付いているようなコードを学んだ人が、学んだ後だから分かる、プレーンなCコードの深みっていうようなものを感じている気がする。これは僕の印象論ですけどね。で、ブラックミュージック的なアプローチも、アコースティックなアプローチも自分には新鮮で、どちらも書きたいと思った。だから、レコーディングの最初の段階でこの2曲、「Radio体操ガール」と「Bite My Nails」が出来たんだと思う。「Bite My Nails」は、メロディの歌い出しがCのコードに対してルート音のドから始まるんです。「ドレミレソシ〜」って。それって僕の曲では今までなかったことなんです。

ーーああ!

冨田:僕はルートがメロディに来ることを、極力避けてきた人間なので。こういう曲が書けた「嬉しみ」といったら……(笑)。

ーー冨田さんにとっては、その方がよほどチャレンジングなことだったわけですね。

冨田:そうです! ルートから始まるんだけど、ちゃんと僕らしさも詰め込めた楽曲になった。これを書けたのは本当に嬉しいですね。

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(取材・文=黒田隆憲/写真=三橋優美子/撮影=Red Bull Studios Tokyo)

■リリース情報
『SUPERFINE』
発売:2016年11月30日
【完全生産限定盤(CD+DVD+BOOK)】 ¥4,200(税抜) ※5000枚限定
【通常盤(CD)】 ¥3,000(税抜)
※5,000枚限定となる完全生産限定盤にはTOMITA LAB STUDIOやRed Bull Studios Tokyoで撮影されたレコーディングドキュメント映像を収録したDVDに加え、124ページに及ぶ冨田ラボのレコーディングダイアリーBOOKも付属。
※アルバム・ジャケット(これまでの3作先行シングル含め)は、気鋭のアーティスト天野タケルの描き下ろし。
〈収録曲〉
01. SUPERFINE OPENING(instrumental)
Music : 冨田恵一
Produce, Arrangement, Instruments & Treatments : 冨田恵一

02. Radio体操ガール feat.YONCE
Music : 冨田恵一
Words : かせきさいだぁ
Vocal:YONCE(Suchmos)
Produce, Arrangement, Instruments & Treatments : 冨田恵一

03. 冨田魚店 feat.コムアイ
Music : 冨田恵一
Words : ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)
Vocal:コムアイ(水曜日のカンパネラ)
Produce, Arrangement, Instruments & Treatments : 冨田恵一

04. 荒川小景 feat.坂本真綾
Music : 冨田恵一
Words : 堀込高樹(KIRINJI)
Vocal:坂本真綾
Produce, Arrangement, Instruments & Treatments : 冨田恵一

05. ふたりは空気の底に feat.髙城晶平
Music : 冨田恵一
Words & vocal : 髙城晶平(cero)
Produce, Arrangement, Instruments & Treatments : 冨田恵一

06. Bite My Nails feat.藤原さくら
Music : 冨田恵一
Words : 鴨田潤(イルリメ / (((さらうんど))))
Vocal:藤原さくら
Produce, Arrangement, Instruments & Treatments : 冨田恵一

07. 鼓動 feat.城戸あき子
Music : 冨田恵一
Words : 若林とも(CICADA)
Vocal:城戸あき子(CICADA)
Produce, Arrangement, Instruments & Treatments : 冨田恵一

08. 雪の街 feat.安部勇磨
Music : 冨田恵一
Words & vocal : 安部勇磨(never young beach)
Produce, Arrangement, Instruments & Treatments : 冨田恵一

09. 笑ってリグレット feat.AKIO
Music : 冨田恵一
Words : Avec Avec(Sugar’s Campaign)
Vocal:AKIO
Produce, Arrangement, Instruments & Treatments : 冨田恵一

10. SUPERFINE ENDING(instrumental)
Music : 冨田恵一
Produce, Arrangement, Instruments & Treatments : 冨田恵一

■ライブ情報
『isai Beat presents “冨田ラボ LIVE 2017″』
2017年2月21日(火) 恵比寿LIQUIDROOM
※ゲストシンガー後日発表

■オフィシャルサイト
http://www.tomitalab.com/

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