レナード・コーエン、ニック・ケイヴ、あがた森魚……強烈な個性発するベテラン勢の新作5選

 80年代にネオアコ/ギター・ポップから登場した吟遊詩人、モーマスも今やベテラン。日本好きが高じて日本に移り住み、大阪を拠点に活動する彼の新作『Scobberlotchers』は、日本の小唄や民謡を大胆にサンプリングしたエキゾチックなアルバムだ。三味線や鼓とエレクトロニックなビートが入り乱れるなか、モーマスの囁くような歌声が忍び足で徘徊する。いかにもなオリエンタリズムではなく、日本の花柳界の“粋”を料理するあたりにモーマスの嗅覚の確かさを感じさせて、日本在住はダテじゃない。以前、志村けんのバカ殿を歌詞に織り込んでいたことをあったが、祇園あたりで舞妓を従えて歌うモーマスのライブが見たくなった。

 60年代にはザ・ビートルズとタメを張るほど人気があったウォーカー・ブラザーズのスコット・ウォーカー。アイドルからスタートしながらも、次第に発揮し始めた実験的な音楽性はブライアン・イーノやデヴィッド・ボウイ、トム・ヨークなど様々なアーティストに影響を与えた。最近ではドローン・メタル・バンド、サンO)))との共演作を発表して驚かせたスコットの新作は、映画『シークレット・オブ・モンスター』のサントラ。彼のトレードマークともいえる艶やかなバリトン・ボイスを聴くことはできないが、重厚なストリングス・サウンドが牙を剥いて襲ってくる強烈なオーケストラ・サウンドを展開。悲鳴をあげるホーン、暴力的なパーカッションなど、異様な緊張感に貫かれた暗黒音響が響き渡っている。歌はなくても、スコット・ウォーカーの音楽はディープな魅力を放っている。

■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。

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