フィロソフィーのダンスが1stワンマンで提示した、「アイドル」というフォーマットの先

フィロのスが提示した「アイドル」の先

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 しかし、フィロソフィーのダンスの戦略的なところは、必ずしもブラック・ミュージック色の濃い楽曲ばかりではないということだ。それは中盤のソロ曲コーナーで顕著で、十束おとはの「あなたにあげない」は、アニソンも連想させるアッパーな楽曲だった。佐藤まりあの「なでしこ色の恋の歌」や奥津マリリの「バイバイよりも」は、1980年代のアイドル歌謡のようだ。さらに4人で歌う「DTF!」は、『TOKYO IDOL FESTIVAL 2016』で初披露された夏フェス向けの楽曲だが、ヴァン・ヘイレンのようなロックに振りきれていて面食らったものだ。フィロソフィーのダンスの楽曲は、実は“Funky But Chic”というキーワードから連想されるものよりも幅広い。たとえば、この日の「好感度あげたい!」はイントロが長めで、ストック・エイトキン・ウォーターマンによるユーロビートのようなサウンドが追加されていたのだ。

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 そして、もうひとつ見逃してはいけないのは、フィロソフィーのダンスの現場がまごうことなくアイドル現場である事実だ。ブラック・ミュージック色が濃い楽曲が中心でも、ヲタ的なノリがこれほど持続するものなのかと驚くほどなのである。特に「すきだからすき」では、激しいMIX、コール、PPPHが次々と起きていた。また、「オール・ウィ・ニード・イズ・ラブストーリー」のBメロは、ファンのコールに「聴きごたえ」さえ感じたほどだ。ヲタ芸というものは、サウンドの音楽的な要素ではなく、楽曲の構造に依存する。J-POP的な構造であればあるほどやりやすいのだが、たとえJ-POP的でなくてもフロアの熱気は変わらない。熱狂の表出の方法のひとつがヲタ芸なのだ。ときに「楽曲派」の代表格的な扱われ方もするフィロソフィーのダンスだが、その現場は汗が飛び散らんばかりのヲタ現場でもある。この事実は別に矛盾しない。優れた楽曲にファンが盛りあがっているだけなのだから。

 そして、メンバーも「アイドル」でありつつも素のキャラクターが見えるのも面白いところだ。そもそも、奥津マリリはシンガーソングライターであり、日向ハルもバンド畑の人間だったが、ある日を境に「アイドル」となった。十束おとはは「電撃FIGHTINGガールズ」や「4代目ファミ通ゲーマーズエンジェル」といったゲーマーやコスプレイヤーとしての活動はしていたが、歌い踊ることはしていなかった。そんな中で、フィロソフィーのダンス以前からオーガニック(本物)のメンバーとして唯一アイドル活動をしていた佐藤まりあが、自身の理想のアイドル像を崩さない姿勢も、グループのバランスとしてユニークだ。

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 ライブ終盤のMCでは、2017年3月19日に渋谷WWWでセカンドワンマンライブが開催されることが発表された。そして、アンコールの「すききらいアンチノミー」は間奏が長くなっており、メンバーが一言ずつ述べていった。涙を見せる十束おとは。時計を見るとまだ昼の14時37分だったが、ミラーボールが華やかに回転する原宿アストロホールは、その瞬間、間違いなくディスコだった。

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 そもそも、加茂啓太郎はプロデューサーとして、フィロソフィーのダンスの本籍をアイドルとしつつも、そこを切り口にして、より広い層にフックさせようとしている。その方向性は結成当初から変わっていないはずだ。この日のライブの1曲目の「アイドル・フィロソフィー」の歌詞の<アイドルだから許して/哲学があればいいでしょ><アイドルだけは許して/ 哲学があればいいでしょ>というフレーズは、フィロソフィーのダンスのそんなスタンスを象徴しているかのようにも感じられる。

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 アイドルのマーケットが今後どうなっていくのかは油断できない部分がある。シーンでの金銭的な売り上げと、文化的な盛りあがりが、必ずしも比例しない状況が訪れるかもしれない。だからこそ、アイドルでありつつも「その先」を見据えていくことは重要だ。そんな中で、フィロソフィーのダンスのファーストワンマンライブ『Do The Stand VOL.1』は、「アイドルの先」を感じさせてくれるポテンシャルの高さに満ちていたのだ。たった4カ月後のセカンドワンマンライブも楽しみにしたい。ワンマンライブをここまでじらせておいて、いきなりペースを上げてきたのだから。

(撮影=後藤壮太郎)

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

■セットリスト
1.アイドル・フィロソフィー
2.コモンセンス・バスターズ
3.VIVA運命
4.プラトニック・パーティー
5.熱帯夜のように
6.アイム・アフター・タイム
7.すきだからすき
8.ソバージュ・イマージュ
9.あなたにあげない(十束おとはソロ曲)
10.なでしこ色の恋の歌(佐藤まりあソロ曲)
11.バイバイよりも(奥津マリリソロ曲)
12.いつか大人になって(日向ハルソロ曲)
13.好感度あげたい
14.告白はサマー
15.DTF!
16.オール・ウィ・ニード・イズ・ラブストーリー
17.パラドックスがたりない
En1.すききらいアンチノミー

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