THE NOVEMBERSが貫いたストイックな美学 11周年11月11日の演奏は“特別”だった

NOVEMBERSが貫いたストイックな“美学”

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 僕はこれまで、可聴域というか、ある意味では狭い範囲のなかで音の広がりや表現をイメージしていたんですけど、マイブラって大気のなかのフル・レンジでそれを考えているんじゃないか。倍音成分をどういうふうに出すかってことで、人の深層心理に働きかけるやり方をしているんじゃないか、って思ったんです。
(中略)
いろんな倍音がキラキラしていたり、ぐーっとくぐもっていたり、ギターらしい中域のあたりが聴こえたり、いろんなものがフル・レンジで鳴っていて、全体として塩梅よくなっている。だから耳に痛くないし。
大音量なのに耳に痛くないってすごく難しいことで、それをずっと浴びていたわけですけど、もうこれ以上の音量はないだろうって思ったその先に、“ユー・メイド・ミー・リアライズ”のノイズ・パートが現れて……って、もう、僕のなかで音そのもの、サウンド・デザインそのものへの考え方がそのときガラっと変わりました。

ele-king 『今年最高のライヴ体験』
黒田隆憲×小林祐介(THE NOVEMBERS)、“マイブラ”来日レポート対談
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 当時、小林と対談したとき彼はこのように話していた。あの “マイブラ体験”を己の血肉と化した彼は、自らの作品の中でしっかりと昇華させていたのだ。

 後半は、新旧取り混ぜたメニューで昔からのファンを沸かす。こうして『Hallelujah』の楽曲の中に組み込まれ、現在進行形のTHE NOVEMBERSによって演奏されると、これまで気づかなかった新たな魅力が引き出されていることに気づく。例えば「こわれる」(『picnic』収録)の、スキゾチック(分裂的)な展開や変拍子、唐突なメロディラインも、肉体的/有機的なグルーヴとなり“必然”として鳴らされているのだ。

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 それはもちろん、前作『Elegance』のプロデューサー、土屋昌巳から学んだ音楽に向かう姿勢から、立ち振る舞いに至るまでの「美学」、自主企画ライブ『首』を軸とする、数多くのライブによって鍛え上げられた「演奏力」に裏打ちされたものであることは間違いない。そして何より、メンバー全員がバンドを、自分たちを心から信じたからこそ、短期間でここまで進化を遂げることが出来たのだろう。

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最近思うのは“信じる”っていうことと、“疑わない”っていうことが同じように扱われているけど、まったく別のものだなって。“疑わない”っていうのは単なる状況・状態であって、そこに意思はない。でも、“信じる”っていうのは意志であり、行為なんですよね。

『メロディがひらめくとき』(DU BOOKS)

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 最近のインタビューでは、「(本作を)『フジロック』のグリーンステージやスタジアムを想像しながら作った」と語っていた(http://www.cinra.net/interview/201610-novembers)小林。であるなら、彼らの最高傑作(と、断言してしまおう)である『Hallelujah』は、こうして爆音で鳴らされ、眩い光の中で“解放”されたことによって、真の意味で「完成」したのではないだろうか。

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 強靭かつ、しなやか。終始一貫してストイックなまでの美学に貫かれたステージだった。

(写真=Yusuke Yamatani)

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

ブログ:http://d.hatena.ne.jp/oto-an/
Facebook:https://www.facebook.com/takanori.kuroda
Twitter:https://twitter.com/otoan69

■セットリスト
1.Hallelujah
2.風
3.1000年
4.!!!!!!!!!!!
5.Xeno
6.愛はなけなし
7.ただ遠くへ
8.時間さえも年老いて
9.236745981
10.GIFT
11.ブルックリン最終出口
12.きれいな海へ
13.鉄の夢
14.dysphoria
15.Blood Music.1985
16.こわれる
17.黒い虹
18.美しい火
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En1.あなたを愛したい
En2.いこうよ
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En3.今日も生きたね

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