グリーン・デイは日本でどう地位を築いた? 元名物A&R井本氏が明かすバンドの軌跡と現在地

グリーン・デイの変わらぬ魅力

「新作は初期衝動と大人になった彼らが同居したアルバム」

ーー井本さんは『アメリカン・イディオット』を最後にグリーンデイのA&Rから外れるわけですが、その後もインターナショナル本部の一員としてリリースに携わっています。最近では3部作(2012年9月発売の『ウノ!』、同年11月発売の『ドス!』、同年12月発売の『トレ!』)などもありましたが、あれはプロモーションが大変だったんじゃないですか?

井本:本当に大変でした。『アメリカン・イディオット』以降は、まず『21世紀のブレイクダウン』(2009年)があって、あれはすごくいい作品だったし、コンセプトもしっかりしていたので。それが今度は『ウノ!』『ドス!』『トレ!』と3枚ほぼ同時期にリリース。バンドとしてちょっと変わった流れを作りたかったんでしょうけど、やはり散在している印象が拭えなくて。まず『ウノ!』を9月に出して、その2カ月後に『ドス!』を出した。本当は『トレ!』を翌年1月に出す予定だったのが、急遽12月に前倒しになったんです。それぞれいい曲は入っていたしちゃんとプロモーションできたはずなのに、『ウノ!』を宣伝している間にもう次の『ドス!』が出てしまう。それが本当に勿体なくて。毎回アルバムからひとつはヒット曲が作れるバンドなのに、それすらやりづらくなっちゃって、自分で自分の首を絞めてしまった感はありましたよね。

ーーそして今年10月に待望のニューアルバム『レボリューション・レディオ』がリリース。「『ドゥーキー』の20年後」みたいな側面がありつつも、しっかり『アメリカン・イディオット』以降のカラーも含まれていて、とてもカッコいいアルバムだなと思いました。

井本:僕もそう思います。彼らもすでに40代で、ファンも一緒に成長している。よくベテランアーティストが陥るジレンマに「20代の頃に書いたあの曲を、なんで今40代の俺が歌えるんだよ?」みたいなのがあるんですけど、グリーン・デイはそこをちゃんと理解しつつ歌える。40代になっても「あの頃の気持ちを今も忘れてないよ」と出してくるし、それが『レボリューション・レディオ』のジャケットにも表現されてるのかな。今感じている怒りを音楽だけではなく、直接的に視覚でも訴えてきてくれるし。しかも、「スティル・ブリージング」や「フォーエヴァー・ナウ」みたいな曲はたぶん今の彼らにしか書けないもので、20代の彼らには書けなかったと思うんです。そういう意味ではパンキッシュな初期衝動と大人になった彼らが同居しているこのアルバムが、僕にはとても嬉しくて。『21世紀のブレイクダウン』のときにも思ったんですけど、まだ成長している姿をちゃんと我々に見せてくれるというのは嬉しいですよね。

ーー確かにその通りですね。

井本:『21世紀のブレイクダウン』冒頭の「21世紀のブレイクダウン」はちょっと組曲っぽいじゃないですか。あの曲を聴いたときにすごく勢いを感じて、泣いちゃうぐらい感動したんですよ。今回のアルバムにはそれに近いものを感じて、1曲目の「サムウェア・ナウ」から2曲目「バン・バン」へと移っていき、だんだんストーリーが構成されていく流れには感激しました。『ウノ!』『ドス!』『トレ!』も決して悪かったわけではないけど、ある種の迷いがあったんじゃないかな。そういう迷いを経てここに戻ってこれたという意味では、あの3枚は必要だったのかもしれませんね。

ーー『ドゥーキー』や『アメリカン・イディオット』をリアルタイムで知らない若い世代も入っていきやすい作品だし、それと同時にあの頃聴いていた世代にもちゃんと引っかかる内容ですし。

井本:そう、両方の世代のことをちゃんと考えてるんじゃないかなと。『ウォーニング』ぐらいからかなりメロディを意識した、もうパンクバンドじゃないような曲がアルバムにたくさん入るようになってきたけど、そういうところの成熟はより強く感じますよね。と同時に「バン・バン」みたいに昔からの骨太路線の曲もあって、これは『ドゥーキー』の頃の彼らがやっていても全然ハマると思うし。『ドゥーキー』の頃のライブ映像があったら、音だけ消して「バン・バン」とか流してどれだけマッチするのか試してみたいですよ。

「グリーン・デイは洋楽の入り口になりやすいバンド」

ーー最近は洋楽をあまり聴かないという若い世代も増えていると聞きます。でも海外にもカッコいいバンドがたくさんいるんだよってことを、まずはグリーン・デイの新作をきっかけに知ってほしいですよね。

井本:そういう洋楽の入り口になりやすいバンドっていくつかあると思うんですけど、グリーン・デイってまさにそのひとつだと思うんです。あとは、ライブのエネルギーや実力も、誰にも負けないと思う。ライブ映えする曲がたくさんあるし、ライブを観て好きになる曲も多いんじゃないかな。よくライブに行って毎回必ずやってる曲が勝手に刷り込まれることってあるじゃないですか。「アルバムで聴いてもピンとこなかったけど、ライブで聴くと最高だね」みたいな。そういうのがやたらと多いのがグリーン・デイじゃないかと思うんです。ライブがうまいバンドって、そういうところは得ですよね。

ーー洋楽への入り口という点において、グリーン・デイは過去に2度(2009年5月と2012年8月)『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出演してますよね。

井本:テレビ出演も『アメリカン・イディオット』までは全然考えてなかったんですよ。ロックファンの中である程度完結させて、そこからちょっと足を伸ばしたら50万枚という数字があったので。たぶん以前はテレビ局側も、パンクバンドの生演奏というのを受けきれられなかったと思うんです。ところが『アメリカン・イディオット』であれだけいろんな記録(グラミー受賞など)を作ったことで、お茶の間にも出せるセッティングが出来上がった。バンド側はその頃になると今までと違ったことがやりたい、変わったことがやりたいということで、それならやってみようかということで、しかもお客さんを入れてのパフォーマンスだったので、ライブの雰囲気をしっかり伝えることもできた。最初に出演した2009年はまだ着うたの時代でしたけど、放送後一気にダウンロード数が伸びるぐらい反響がすごかったですよ。

ーーストリート出身で今もそこを大事にしてるんだけど、それと同時にお茶の間の大衆性も意識して大事にしている。グリーン・デイって面白い存在ですよね。

井本:彼らはメロディのあるパンクロックという、パンクの既成概念を崩すようなスタイルでスタートしたけど、『ドゥーキー』が売れた後にもともとのパンクファンから敬遠されてたんですよね。それでちょっと傷ついたりもしたんですけど、彼らに続くバンドたちがたくさん出てきて、そういう流れがしっかりできた。それによって彼らの筋がしっかり通っていることを周りに見せることができたんです。しかも極めつけに「ブールヴァード・オブ・ブロークン・ドリームス」がグラミー賞まで獲った。結局テレビに出るのも同じことで、ヒット曲を生むにはどうしたらいいかというのが日本の場合はそこだったんです。と同時にヤンチャな部分を残したまま20年以上やっていくというのも、よかったんじゃないですかね。若いイメージを風化せずに維持してるわけですから。そういう部分も含めて、今の若い世代にも響くものがあるはずなので、まずは先入観なく聴いてみてほしいですね。初めて聴いたロックが、初めて行ったライブが、初めて弾いたギターのリフが、グリーン・デイだった、というリスナーが増えてくれたらこんな嬉しいことはありません。

(取材・文=西廣智一)

■リリース情報
『レボリューション・レディオ』
発売:2016年10月7日
価格:¥2,300(税抜)

http://wmg.jp/artist/greenday/

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