星野源が語る“イエローミュージック”の新展開「自分が突き動かされる曲をつくりたい」

星野源が語る“イエローミュージック”の新展開

161007_hoshino_3.jpg

 

「『未来をよろしく』」

――続いては「Drinking Dance」。こちらは『ウコンの力』のCMソングとして使用されています。

星野:これに関しては、ずっとファルセットで歌ってる曲がCMで流れたらおもしろいなと思って(笑)。あとは『YELLOW DANCER』で試したディスコなアプローチをそのままやりたくて、それならプレッシャーを感じることなく自分としても楽しんでつくれると思ったんです。そういうテーマのなかで、全編ファルセットでちょっと抜けのあるアレンジというか、そんなイメージでつくりました。

ーー星野さんってお酒のイメージがあまりないじゃないですか。そんな星野さんが酩酊感みたいなところにどう向き合うのか、実はすごく興味があったんですよね。

星野:昔、勢いで日本酒をたくさん飲んじゃって、それでものすごい二日酔いになったことがあるんですよ。とにかく気持ち悪くてずっとのたうちまわって、水を飲んではまた吐くみたいな一晩中やっていたんです。で、夜明けにふと酒がヒュッと抜ける瞬間があって、そのときにすごく穏やかな瞬間が訪れたんですよね。(フランダースの犬の)パトラッシュを抱きかかえてやっと眠りにつける、みたいな(笑)。あの感じが、酔って気持ち悪い思いをしてもまた飲む理由になるのかなってぼんやりと思っていて。個人的にはそれがすごく気持ちのいい瞬間で、お酒を飲んで楽しいんだけどダウナーな部分というか、翌朝の酒が抜け始めるときのあの感じをうまく曲で表現できたらいいなって。

――いまのエピソードを聞いて〈水を飲めば少し楽しい〉というラインがぐっと味わい深くなりました(笑)。

星野:(笑)。あと「恋」が恋をしている人へ向けた曲だとするならば、「Drinking Dance」は恋をしてない人への曲ですね。「恋」ですべての恋する人に当てはまる曲をつくったんですけど、唯一そこから漏れてしまうのが恋をしていない人なので……2曲目は恋をしていない人に向けて。

――続いては、冒頭からたびたび登場している「Continues」。資料には「これからの自分の音楽の芯となるものができた」とのコメントが添えられていました。

星野:自分が昔から好きなブラックミュージックを血肉化したい、自分の音楽にしたい、という思いがずっとあったんですけど、さらにそれにオリエンタルとかエキゾとか、昔からやってきたこともちゃんと加えていきたいなって。そう思うようになったのはもちろん細野さんの存在がすごく大きいんですけど、今自分が作っている音楽との相性も絶対にいいはずだって思ったんです。言ってみれば、いままでの自分をすべてこの曲のなかに詰め込めたいと思って。それでできたのが「Continues」だったんです。いままで自分が好きだったものの断片を、この曲で一本にまとめたような感じですね。

――歌詞からもそういう決意表明的なニュアンスが汲み取れますね。

星野:この春に細野さんが横浜中華街でライブをやったときにゲスト出演させてもらって(5月7日に同發新館で開催された『細野晴臣 A Night in Chinatown』)、一緒にマーティン・デニーの「Sake Rock」やJBの「Sex Machine」をやったんですよ。それは細野さんから提案で、まさか細野さんとファンクを一緒に演奏できるとは思っていなくて、それはもう最高に楽しくて。で、演奏が終わったとき細野さんに「未来をよろしく」って言われたんですよ。きっと細野さんはなんの気なしに言ったと思うんですけど、そこで「はい!」って答えるまでにちょっと時間がかかっちゃって。その言葉の重みとかうれしさとかいろいろあって、胸がいっぱいで一瞬呆然としてしまったんですよね。そういう細野さんに対するいろいろな思いが、この「Continues」という言葉には入っていたりします。

ーーでは、最後に「雨音(House ver.)」。24時間以内に曲を完成させるという星野さんのシングル恒例のシリーズです。

星野:このシリーズは自分の瞬発力を試すのにすごくいい機会だし、つくっていてめちゃくちゃ楽しいんです。もちろん、じっくりじっくり長い時間をかけてつくるのも楽しいんですけど、アイデアを吟味していったり成熟させていかないといけないから、ずっと緊張状態が続いていくことになるんですよね。だからここではそういう重圧をぜんぶ取り払って、もっと気楽な感じで受け取ってもらいたいという思いがあります。

ーー僕は『YELLOW VOYAGE』のライナーノーツで星野さんの曲「季節」について「シンガーソングライター的資質を持った歌い手が“黒さ”と対峙したときのソウル表現として、ひとつの指針になるのではないだろうか」と書いたんですけど、この「雨音(House ver.)」はそれのさらに成熟したかたちという感じがしているんです。

星野:それはうれしいです。

ーーで、星野さんは以前から「R&Bやソウルの表現は歌唱のスキルで表現するところが大きい」みたいなことを話していますよね。その星野さんの言わんとしていることはものすごくよくわかるんですけど、ただこの「雨音(House ver.)」には確実に黒いフィーリングがあるし、この曲の良さを形容するとしたらやっぱり「ソウルフル」ということになると思うんです。だから「R&Bやソウルの表現は歌唱のスキルで表現するところが大きい」というのは確かにそうなのかもしれないんですけど、星野さんはそれとは別のルートやアプローチでソウルをつかみつつあるのかなって。この曲を聴いてそう思いました。

星野:うん、その道をずっと掘り続けているイメージですね。「別に歌が下手でも良くない?」みたいな(笑)。僕は細野さんの歌が本当に大好きなんですけど、細野さんはもはや歌が上手いとかっていうのと関係ないところにいるじゃないですか。もちろん上手いは上手いんですけど、でもしっかりした歌唱力を持っていた大瀧詠一さんとは真逆の道をつくってくれたというか。細野さん自身も大瀧さんと同じようにビーチ・ボーイズが大好きで、本当は高い声できれいなハーモニーをやりたかったみたいなんですけど、ジェームス・テイラーに出会うことでこういうアプローチもアリだなって思ったそうなんです。そして、そういう細野さんの歌を聴くことによって僕も「これでいいんだ!」って思えたから、そうやって言ってもらえるのはすごくうれしいし、自分でもそれを普通にしていきたいなって思っています。このハウスバージョンは自分の家で録っていることもあってより素が出るわけじゃないですか。だから、そういうところに今の自分の状態だったり僕なりのソウルフィーリングを入れたくて。今まではもうちょっとフォーク寄りだったと思うんですけどね。あとDTMみたいなところでは、ケイトラナダのアルバム(『99.9%』)の自分の家から発信しているものが世界にパーッと広がっている感じがすごく好きでめちゃくちゃ人間味を感じるんですよね。それって特にこのハウスバージョンでやれることだと思っていて。できあがったものは全然違うし、きっとそうは聴こえないと思うんですけど、そういうケイトラナダの影響は多少なりともあったりします。あのリズムの自由な感じ、ディアンジェロやJ・ディラ以降のリズムから脱却した自由な感じがいいですよね。なんというか、「俺の星座は何々だよ」っていうぐらいの気軽さで「これが俺のリズムなんだ」って言われてる感じがしてすごくかっこいいなって。そういう自分のリズムみたいなものをここで出せたらいいなっていうのはぼんやりと思っていました。

――ケイトラナダの名前が出たところで最後に聞いておきたいんですけど、星野さんはパーソナリティを務めている『オールナイトニッポン』でもよくヒップホップをかけてるじゃないですか。チャンス・ザ・ラッパーだったり、ジュラシック5だったり、Q・ティップだったり。そういう星野さんのヒップホップに対する関心は、星野さんのつくる作品にどういう影響を与えているのかがすごく気になっていて。星野さんがヒップホップのどういうところに強く惹かれているのか、という話でも構わないのですが。

星野:まず、僕がいちばん最初に始めた楽器がドラムなんですよ。だから基本的にリズム、ビートが大好きなんです。ヒップホップはいろんな要素があるけど、ラップも含め、リズムの芸術だと思っていて。もちろんメロディやリフの素晴らしさもあると思うんですけど、どういうサウンドでビートが鳴ってるかとか、バスドラの音がどこで消えるのかとか、スネアがどこで鳴るのかとか、そのスネアとなにが一緒に鳴ってるのかとか、それだけでぜんぜんちがってくるじゃないですか。スネアのサンプルの音色がローランドなのかコルグなのかヤマハなのかとか、そういう部分だけでも雰囲気がガラッと変わってくる。それがたぶん聴いていて楽しいんでしょうね。ヒップホップの成り立ちを本で読んだりすると胸が熱くなるし、そういうところもすごいと思うけど、ただやっぱりリズムがすごく大事な音楽だと思うので。だから、ヒップホップを聴いているとリズムにアイデアを感じるんですよね。J-POPってリズムにアイデアがあるものが少ないと思うんですけど、でもヒップホップはまずそこありきの音楽じゃないですか。そういうところにただただワクワクさせられるし、楽しいんだと思います。リズム、ビートに対して“正座している”というか……うん、そんな感じです。なので、自分もしっかりビートに対してこだわって、向き合いたいって思うんです。

(取材・文=高橋芳朗)

161007_hoshino_syokai.jpeg
『恋(初回限定盤)』
161007_hoshino_tsujo.jpeg
『恋(通常盤)』

■リリース情報
『恋』
発売:2016年10月5日
初回限定盤(CD+DVD、スリーブケース仕様):¥1,800(税抜)
通常盤(CD):¥1,200(税抜)

CD収録内容(初回限定盤・通常盤共通)
1. 恋 ※TBS系 火曜ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』主題歌
2. Drinking Dance ※ハウス『ウコンの力』CMソング
3. Continues ※スカパー!リオパラリンピック放送テーマソング
4. 雨音(House ver.)

初回限定盤特典DVD 『 恋ビデオ。 』 約63分
・特別番組「ニセ明、石垣島へ行く」
・「METROCK2016」ライブ映像

星野源と友人によるコメンタリー付

■9th Sg.『恋』作品特設ページ
http://www.hoshinogen.com/special/koi/

■ライブ情報
『星野源 新春 Live 2days 『YELLOW PACIFIC』
2017年1月23日(月) 開場 18:00 開演 19:00
2017年1月24日(火) 開場 18:00 開演 19:00
会場:パシフィコ横浜 国立大ホール
料金:全席指定 ¥7,000 (税込)
チケット一般発売日:1月7日(土) 10:00〜
問い合わせ先:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999(平日12:00~18:00)
https://www.red-hot.ne.jp/

■オフィシャルサイト
http://www.hoshinogen.com/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる