宇多田ヒカル、新作『Fantôme』を大いに語る「日本語のポップスで勝負しようと決めていた」

宇多田ヒカル『Fantôme』を大いに語る

「林檎ちゃんとだったら顔を合わせなくてもデュエットできる」

——ここからは3組のゲストアーティストについて聞かせて下さい。まずは同期デビューの椎名林檎さんから。伝説の東芝EMIガールズ再結成が遂に実現しました。

宇多田:林檎ちゃんとはかれこれ長い付き合いになりますね。ずっと何か一緒にやろうと言いつつも、私が人とコラボができるような態勢じゃなかったので。スタジオでスタッフとディスカッションしていくうちに彼女の名前が挙がって、「あ、素敵かも」と思ってオファーしました。前にやった雑誌の企画(※雑誌『SWITCH』2014年11月号にて二人のSMSを掲載)をきっかけにまた頻繁にやりとりするようになって。日常と非日常の危うい関係を表現したかったので、母であり妻でもある二人なら説得力が増すし面白いかなと。私は子供が出来るまで“日常”というものがなかったので、日常を手に入れた分、非日常的なスリルを求める気持ちも分かるようになったんだと思います。

——椎名さんとはスタジオで一緒に歌入れを?

宇多田:お互いのスケジュールの都合もあってデータのやりとりでした。他の二人(のゲスト)とは初対面だったから向き合ってコラボレーションしましたが、林檎ちゃんとだったら顔を合わせなくても不自然じゃない形でデュエットできると思ったので。それこそキャリア的に同じ感じというか、長年同じようなポジションでやってきた者同士なんで「まあ大丈夫っしょ!」というか(笑)、「逆に説明とか要らないっしょ!」という気持ちもちょっとありました。お互いメールでも会った時も音楽の話はほとんどしないし、近況とか、本当に普通の話をしていた流れで実現したという感じでしたね。

——「ともだち」の小袋成彬さんは?

宇多田:この曲のサビの歌詞が出始めた段階で、「私一人で(ボーカルを)引っ張るの、つらいかも」とディレクターに相談したら、彼が以前から注目していた小袋さんを教えてくれて。音を聴いてみたら「なにこの人!? すごく良い!」と思って、すぐコンタクトしてもらいました。私、母親以外の歌手に歌入れを始めから終わりまでじっくり見られたの、今回の小袋さんが初めてだったんですよ。

——ああ、そうだったんだ?

宇多田:そうそう。「何かすげえ歌の上手い人に見られてるんだけど、私、大丈夫かな?」とか思いつつ(笑)。ちょっと緊張しましたね。あと「荒野の狼」という曲は、「ともだち」の歌入れの後に小袋くんとお茶していた時、互いにヘッセが好きという話になって、『荒野のおおかみ』という小説を思い出したことがきっかけで歌詞が書けました。

——「忘却」のKOHHさんについては?

宇多田:少し前に友達から教わっていてファンだったんです。この曲、初めはインストのつもりだったんですが、ラップを入れてはどうか? という提案がスタジオで持ち上がった時、ディレクターに「KOHHって人がいるんだよね」って言ったら「それ素敵!」と盛り上がって。オファーしてみたら、実はお互いファンだったことが分かって(笑)。それで決まりました。

——彼が自分の半生をラップして、それに呼応して宇多田さんが自分の死生観を歌うというこの掛け合いは、どのようなプロセスを経て出来たのですか?

宇多田:まず私のパートを作り、彼に私の“忘却”と“記憶”に関する考え方を伝えると、何日かかけて彼が言葉で応えてくれました。迷った時は私が「こっちかな」と言うと「だよね」という感じで確かめ合いながら。生き方を考えることは死に方を考えることと同義だと私は思うので、これまでの人生を振り返りながらこれから向かうところに思いを馳せました。「いつか死ぬ時 手ぶらがbest」という最後の一行に全てが凝縮されています。

——この曲、ゲストというか曲の大半がKOHHさんのラップですよね。

宇多田:私、長いラップパートが好きなので、彼に頭からいきなり1分丸ごとお任せして(笑)。他の人の言葉が自分の曲に混ざることも今回この曲で初めてだったので、最初は「どういうふうになるんだろう?」と思いましたけど、自然と真ん中で落ち合えました。最後のオルガンは彼からの提案でした。私の中では天に召されるイメージに感じられたので、レクイエムという感じかな。

——KOHHさんが90年生まれ、小袋さんが91年生まれと、互いに同世代で、かつどちらもおそらくは宇多田さんの音楽を幼少期に体験していたのかな? という世代とのコラボとなりましたね。

宇多田:偶然にも同世代でしたね。二人とも「小学生の時にこうで」とか「中1の時にこうで」とか「クラスに似ていた子がいて」という話を聞いて「なるほどなあ~、そういう感覚なんだ」と(笑)。

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